遺言書を書く前に知っておきたい遺言執行者のこと

監修:牧野法律事務所(千葉県弁護士会)
代表 弁護士

遺言書を書く前に知っておきたい遺言執行者のこと

はじめに

自分が亡くなった後、自分の財産を誰に、どのように引き継いでもらうか、希望を遺言書に書き残す方が増えているようです。

ただ、遺言書は遺言者が亡くなった後に効力を持つので、遺言者自身がその内容を実現するための手続きをすることができません。また、遺言書の内容に不満を持つ相続人が遺言書どおりに手続きをしなかったり、手続きの邪魔をする可能性もあります。

そのため、遺言書の内容が確実に実現されるよう、遺言書の内容を実現する(預貯金を解約する、不動産の相続登記をする、子どもの認知届を役所に出す等)役割の人が民法で定められています。それが「遺言執行者」です。

今回のコラムでは、遺言書を書くにあたって知っておきたい遺言執行者について解説します。
まずは、どのような場合に遺言執行者が必要なのか確認します。また、遺言執行者を遺言で指定した場合のメリットをみていきます。次に、遺言執行者の選び方を確認して、最後に、遺言執行者を選んだ場合にかかる費用を説明します。

なお、遺言書については「遺言書を書くメリットと種類」、遺言書の作成については「遺言書の書き方、作り方」をご覧ください。

どのような場合に遺言執行者が必要?

遺言では、次の内容を指示することができます。

  • 身分に関すること(認知、未成年後見人の指定等)
  • 相続に関すること(相続分の指定、遺産分割方法の指定、推定相続人の廃除等)
  • 財産処分に関すること(遺贈等)
  • 遺言執行に関すること(遺言執行者の指定、遺言執行者の報酬等)
  • 祭祀承継者の指定
  • 生命保険金の受取人の指定または変更

最初に、そもそも遺言執行者がどのようなものなのか、見ていきます。それから、どのような遺言の内容だと遺言執行者が必要なのか、確認します。

遺言執行者とは?

遺言執行者とは、文字通り「遺言」を「執行」する人のことです。遺言執行者は、遺言の内容を実現するために必要な行為をする権利と義務があります(民法第1012条第1項)。

遺言執行者は遺産を管理・処分する権利を持っていますが、それだけではなく義務もあります。それが、善管注意義務(民法第1012条第3項、第644条)と報告義務(第1012条第3項、第645条)です。このような義務があるため、遺言執行者が遺産を好き勝手に処分することはできません。

もし遺言執行者が遺言内容を無視して好き勝手に財産を処分したり、明らかに法律の規定に違反した違法な遺言書であるのにそれを執行したりした場合には、善管注意義務違反として損害賠償を請求される可能性があります。

遺言執行者は、遺言の内容を実現する以外に、次のような仕事もしなくてはいけません。

  • 就任したら、なるべく早く遺言の内容を相続人に通知する
  • なるべく早く相続財産の目録を作って、相続人に渡す
  • 相続人から請求がある場合には、今の遺言執行の経過を報告する
  • 遺言執行が終了したら、直ちにその経過と結果を相続人に報告する

遺言執行者が必要な場合

遺言の内容のうち、次の3つは、遺言執行者しか実現できないと定められています。

  • 子どもの認知
  • 推定相続人の廃除または廃除の取消し
  • 一般財団法人の設立

上の3つは、遺言書に遺言執行者の指定がない場合、家庭裁判所に遺言執行者を選任してもらう必要があるので、上の3つを指示するときは、忘れずに遺言で遺言執行者を指定しましょう。

簡単に、子どもの認知と推定相続人の廃除・廃除の取消しについてみていきます。

子どもの認知

認知は、結婚していない相手との間に生まれた子どもを自分の子どもだと認めることで、法律上の親子になることです。認知をすることで、その子どもを自分の相続人にすることができます。逆に言うと、血のつながった子どもであっても、法律上(戸籍上)の親子でない限り、その子どもは自分の財産を相続できません。

生前に認知の手続きができなくても、遺言に子どもの認知について書いておくと、遺言執行者が役所に認知届を提出することになります。認知される子どもが成年(2022年4月以降は18歳)になっていた場合、その子の承諾が必要なので、遺言執行者がその子どもの承諾を得てから届け出します。

推定相続人の廃除・廃除の取消し

推定相続人の廃除は、自分を虐待したり、重大な侮辱をしたり、著しい非行をした配偶者(夫または妻)、子ども、親から、自分の財産の相続権を取り上げる制度です。

生前に家庭裁判所で手続きすることもできますし、遺言に書いておくこともできます。遺言に書いた場合は、遺言執行者が家庭裁判所に請求します。

一方、推定相続人の廃除は、いつでも取り消すことができます。遺言で廃除を取り消すと書いておくこともできます。廃除の取消しについても、遺言執行者が家庭裁判所に請求することになります。

なお、本来は相続人になる人の相続権を取り上げる手続きなので、廃除された人が遺言書について争う可能性があります。遺言で廃除をするときは、原因や理由を詳しく書いておき、遺言執行者に指定した人に渡しておいた方がいいでしょう。

遺言執行者がいないときは相続人がやる場合

遺言の内容のうち、次の4つは、遺言執行者がいる場合は遺言執行者がやって、いない場合は相続人がやることになります。

  • 遺贈
  • 信託の設定
  • 祭祀承継者の指定
  • 生命保険金の受取人の指定または変更

上の4つは、遺言執行者が必須なわけではありませんが、相続人には荷が重いことが多いです。遺言で遺言執行者を指定しておかなくても相続人が家庭裁判所に請求して選任してもらうこともできますが、確実かつスムーズに内容を実現させるためには、法律の専門知識を持った弁護士等を遺言執行者に指定しておいた方が安心です。

遺言執行が必要ない場合

「遺言執行が必要ない場合」とは、遺言者が亡くなったと同時に、遺言に書いたことの効力が発生する場合です。例えば、次の内容です。

  • 相続分の指定
  • 遺産分割方法の指定
  • 未成年後見人の指定
  • 遺言執行者の指定

相続分の指定の場合

例えば、相続分の指定の場合で考えてみます。
Aさん(夫)、Bさん(妻)、Cさん(長男)、Dさん(長女)の家族で、Aさんが次のような内容の遺言を書きました。

遺言者は、妻Bの相続分を3分の2、長男Cと長女Dの相続分を各6分の1と指定する。

その後、Aさんが亡くなると、遺言の効力が発生して、自動的に、Bさんは3分の2、CさんとDさんは各6分の1の相続分を取得します。
そのため、遺言執行者がBさんに3分の2の相続分を渡す、といったことをする必要がありません。

ただ、相続人それぞれの相続分が指定されていても、具体的に誰が何を相続するのかは、相続人間で話し合うことになります。

遺産分割方法の指定の場合

また、遺産分割方法の指定の場合も同様です。
Aさん(夫)、Bさん(妻)、Cさん(長男)、Dさん(長女)の家族で、Aさんが次のような内容の遺言を書きました。

遺言者は、別紙遺産目録記載の不動産を、妻Bに相続させる。

その後、Aさんが亡くなると、遺言の効力が発生して、自動的に、Bさんは指定された不動産を取得します。
そのため、遺言執行者がBさんに不動産を引き渡す、といったことをする必要がありません。

ただ、不動産を取得したことを第三者に主張するためには、不動産登記の名義をAさんからBさんに移す手続き(所有権移転登記手続き)をする必要があります。

遺言執行者を指定した場合のメリット

上記のように、遺言執行者がいないと実現できないことは少ないですが、様々な場面で遺言執行者を指定しておいた方が、相続手続きがスムーズに進みます。一例を見ていきましょう。

不動産を相続人以外の人に遺贈する場合

例えば、次のような内容の遺言の場合です。

遺言者は、別紙物件目録記載の不動産を、遺言者の甥Eに遺贈する。

遺贈を実現する義務を負うのは、相続人全員です。
ただし、2018年の民法改正により、2019年7月1日以降に作成された遺言書で、遺言執行者が指定されている場合は、遺言執行者のみが遺贈を実現する義務を負うようになりました。

遺言を原因とする不動産の所有権移転登記手続きは、遺言執行者がいなければ、相続人全員と不動産を受け取る人(受遺者)が共同で手続きしなければいけません。
これに対して、遺言執行者がいれば、遺言執行者と不動産を受け取る人(受遺者)だけで登記手続きすることができます。
つまり、相続人が多いほど遺言執行者を指定するメリットがあります。

遺言の実現に手間や専門知識が必要な場合

例えば、次のような内容の遺言の場合です。

遺言者は、遺言者の有する財産の全部を換価し、その換価金から遺言者の一切の債務を弁済した残金を、妻B3分の2、長男Cと長女D各6分の1に分配するよう分割の方法を指定する。

遺産を換価(現金に換える)して、債権者に借金を返して、残りのお金を分割するには、手間がかかります。また、専門知識が必要になることや、相続人間で公平性を保つ必要が出る場合もあります。

遺言の内容が複雑な場合や財産が多い場合は、遺言執行者を指定した方が手続きがスムーズに進み、メリットがあるでしょう。

相続人が遺言の内容に不満を持ちそうな場合

  • 相続人以外の人に財産を与える遺言
  • 特定の相続人に財産を与えない遺言
  • 特定の相続人に財産を多く与える遺言
  • 特定の財産を特定の相続人に与える遺言

上記のような遺言の場合、不満を持つ相続人が現れる可能性があります。

このような場合に遺言執行者がいないと、次のようなことが考えられます。

  • 相続人がなかなか遺言の内容を実現しない
  • 遺言の実現を邪魔する

これに対して、遺言執行者がいれば、遺言執行者は「遺言の内容を実現するために」行動しますので、遺言者の意思と相続人の利益が対立した場合にも遺言者の意思を尊重して行動してくれます。
また、相続人間の対立があっても、遺言執行者はいずれかの相続人に肩入れするのではなく、遺言の執行を粛々と行うことになります。
この点は2018年の民法改正で明確化されました。

また、もし相続人が遺言の実現を邪魔するような行為をしても、原則としてその行為は無効になります(民法第1013条)。

遺言執行者を指定しておいた方がいい場合

以下のような場合には、遺言執行者の指定をおすすめします。

  • 子どもの認知をする
  • 推定相続人の廃除または廃除の取消しをする
  • 一般財団法人の設立をする
  • 不動産を遺贈する
  • 相続人以外の人に財産の全部または一部を遺贈する
  • 財産が多い
  • 相続人が多い
  • 相続人の仲が悪い

遺言執行者の選び方

では、遺言執行者になれる人はどのような人なのでしょうか。また、遺言執行者はどのように選べばいいのでしょうか。遺言執行者の選任方法について確認します。

遺言執行者になれる人

遺言執行者には、未成年者と破産者はなることができませんが、どちらかに該当しなければどのような人もなれます(民法第1009条)。
そのため、弁護士や司法書士などの法律家だけでなく、法律知識を持たない自分の家族や友人などを選ぶこともできます。
また、1人でなければいけないわけではありません。複数人選んでも構いません(民法第1006条第1項)。
さらに、「人」ではなく、信託銀行などの法人を選ぶこともできます。

遺言執行者になれない人(未成年者と破産者)かどうかは、遺言の内容を実現させる時点、つまり、遺言者が死亡し、遺言執行者になることを承諾する時点で判断されます。後で説明しますが、遺言執行者になるには遺言執行者になることを承諾しなければいけないのですが、その承諾時点で未成年者か破産者に該当しなければ、遺言執行者になることができます。

そのため、例えば、遺言書作成時には破産開始決定を受けていなかった人を遺言執行者に指定したけれど、遺言執行者になることを承諾しようとした時には破産開始決定を受けてしまって、まだ免責許可決定が出ていないという場合には、その人は遺言執行者になれません。

逆に、遺言書の作成時には未成年者である子どもを遺言執行者に指定していても、遺言執行者になることを承諾しようとした時にその子が成年年齢に達しているならば、その子は遺言執行者になることができます。ちなみに、2022年4月から成年年齢は18歳に引き下げられました。

もし遺言執行者になれない人を選んでいた場合には、遺言執行者がいないときと同じように、相続人などの利害関係人の請求によって家庭裁判所が遺言執行者を選任することになります(民法第1010条)。選んでいた遺言執行者が亡くなってしまっていた場合も同様です。

遺言執行者の選任方法

遺言執行者は、遺言で指定するか、利害関係人の請求により家庭裁判所が選任します。

また、遺言では遺言執行者を指定するだけでなく、特定の人に遺言執行者を指定するようにお願いすることもできます。

ただ、遺言で、または家庭裁判所が遺言執行者を選んでも、また、遺言執行者を選ぶようお願いされた人が特定の人を遺言執行者に選んでも、その人が必ず遺言執行者になるわけではありません。遺言執行者になる人が「遺言執行者になってよい」と承諾しなければ、その人は遺言執行者になりません。

その人が承諾しなかった場合には、遺言執行者がいないときと同じように、相続人などの請求によって家庭裁判所が遺言執行者を選任することになります。

そのため、あらかじめ遺言執行者の内諾を取っておいた方がいいでしょう。

遺言で指定

遺言者は、次のような遺言を残すことで、遺言執行者になる人を指定することができます。

遺言者は、本遺言の遺言執行者として、長男Cを指定する。

遺言執行者の指定は、他の遺言と一緒に書いておくことが一般的ですが、それとは別に、遺言執行者を指定するだけの遺言書を作成することもできます。

遺言で遺言執行者の指定の依頼

自分自身で遺言執行者を選ばず、次のような遺言を残すことで、遺言執行者の指定をお願いすることができます(民法第1006条第1項)。

遺言者は、本遺言の遺言執行者の指定を、次の者に委託する。

頼む相手は、子どもや友人などの特定の人でも構いませんし、信託銀行などの法人でも構いません。

注意点が1つあります。それは、遺言執行者の指定の委託を受けた人は、委託を辞退することができるということです。委託を受けた人が辞退した場合には、遺言執行者がいないときと同じように、相続人などの申し立てによって家庭裁判所が遺言執行者を選任することになります。

遺言執行者の指定の委託をするならば、その人にあらかじめ了承を取っておいた方がいいでしょう。

家庭裁判所が選任

遺言で遺言執行者を指定しなかった場合であっても、相続人などの利害関係人が家庭裁判所に遺言執行者の選任を申し立てれば、家庭裁判所が選任してくれます(民法1010条)。
ただ、申立てから選任まではそれなりの時間と費用がかかってしまいます。スムーズに遺言内容を実現してもらうためにも、あらかじめ遺言で遺言執行者を指定しておいた方がいいでしょう。

遺言執行者の報酬は?

遺言執行が終了した後、遺言執行者は報酬を請求することができます。
遺言執行者の報酬と遺言の実現のためにかかった実費は、遺産から支払います。

報酬は、遺言であらかじめ定めておくことができます。定めていなかった場合は、家庭裁判所が決定します。相続人や受遺者と協議して決めることもできます。

遺言書で定める場合

遺言書で定めるときには、次のように具体的な金額を定める場合と、算定方法を定める場合があります。

遺言者に対する報酬は、金50万円とする。
遺言者に対する報酬は、遺言執行対象財産の評価額の3%とする。

家庭裁判所が定める場合

家庭裁判所は、次のような事情を総合的に勘案して報酬額を定めます。
・相続財産の評価額
・遺言執行の状況
・遺言執行の難易度
・遺言執行にかかった時間
・遺言執行者と遺言者・相続人との関係

まとめ

遺言の内容や遺産の内容、相続人間の関係性などによっては、遺言で遺言執行者を指定しておいた方が、相続手続きがスムーズにすすむなど良い場合があります。

ただ、遺言執行者を指定しても、指定した人に断られることもありますので、事前に内諾を得てから遺言に書くようにしましょう。

遺言についてご不明な点がありましたら、相続・遺言に詳しい弁護士にご相談ください。

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