遺産分割調停とは?~利用方法や調停の進め方、税金面の注意事項について~

監修:牧野法律事務所(千葉県弁護士会)
代表 弁護士

遺産分割調停

相続などの揉めごとは、当事者同士だけでは解決に向けた話し合いがなかなか進まないことが多いです。
利害が対立していることに加えて、心理的なわだかまりなども手伝って冷静な話し合いができないこともあるでしょう。
そのような時には、裁判所による「調停」という仕組みを利用することもできます。
このコラムでは、相続事案における遺産分割の問題を調整する「遺産分割調停」について解説していきます。

遺産分割調停はどのようなものか?

遺産分割調停はどのようなものか?

複数の相続人がいる事案で遺産の分割方法が決まらない時や、話し合いができない時など、遺産分割の面で問題が生じている場合に、家庭裁判所に間に入ってもらうことによって話し合いによる解決を目指すのが遺産分割調停です。

遺産分割調停では、家庭裁判所の調停委員会が当事者の言い分を聞き取り、お互いに歩み寄れるところがないかなどを探り出し、互いに折り合える範囲での落としどころを調整していきます。調停委員会は、裁判官または調停官と調停委員で構成されます。

調停は主に調停委員が当事者の言い分を聞き取り、法的な助言を適宜裁判官や調停官に求める形で進みますので、裁判官や調停官が毎回の話し合いに出席するわけではありません。

調停委員は社会生活上の知識経験や専門知識を持つ民間人から選ばれます。あくまで中立の立場ですので、特定の当事者の味方をするわけではありません。
第三者である調停委員会が間に入ることによって理性的に事件を見ることができ、当事者の合意を引き出しやすくなります。

調停では相続人同士が面と向かって話し合いをすることはほとんどありません。
調停による話し合いは概ね一か月に一回くらいのペースで行われ、一回あたり二時間程度の時間を要します。

遺産分割調停の全体的な流れ

遺産分割調停の全体的な流れを見てみましょう。

①相続人の確定
まずは、相続人が誰であるのかを確認します。

遺産分割調停は相続人全員が参加してそれぞれの言い分を出し合いながら進めていきますので、参加者の漏れがないようにするためです。

相続人の中に認知症などで判断能力が不十分な方がいる場合には、その方について成年後見等の手続きを行う必要があります。

もし行方不明の相続人がいて住民票や戸籍等をたどる調査でも居所が判明しない場合は、不在者財産管理人の選任申立てや失踪宣告の手続きなどが必要になることもあります。

また、戸籍が事実と異なるなど相続人の範囲に問題がある場合には、遺産分割調停とは別に、人事訴訟等の手続きをとることになります。

②遺産の範囲の確定
調停で遺産分割の対象とする相続財産の範囲を確定させます。

遺産分割の対象となる遺産は、原則として、被相続人が亡くなった時点で存在していて、現在も存在するものです。

遺産分割は具体的な各財産を特定の相続人に割り当てる作業ですから、例えばすでに消費されてしまった預金をまだ存在するかのように扱って誰かに割り当ててしまうと、その相続人は不利益を被ることになります。

そこで、遺産分割の対象とする遺産の範囲を確定させる必要があります。

調停委員や調停官は話し合いをリードしてくれますが、金融機関に遺産の有無を照会したり、相続人に強制的に資料の提出を命じたりすることはしません。
また、誰かが遺産を隠したり、勝手に使ってしまったりした場合には、遺産分割調停以外の手続きが必要になります。

なお、遺言書や遺産分割協議で分け方が決まっている財産は、遺産分割の対象にはなりません。

③遺産の評価
不動産など価値が変動するものは適正価額を算定して評価額を割り出します。

評価額について合意ができない時は、不動産鑑定士による詳細な鑑定を経て評価額を割り出します。

その際の鑑定費用は相続人があらかじめ裁判所に納めることになります。

④各相続人の取得額を決定
遺産分割の対象となる遺産について、各相続人の法定相続分に基づいて取り分を決めていきます。

ただし、法律の条件を満たす特別受益や寄与分が認められる場合には、それらを考慮して各相続人の取得額を調整します。

特別受益については「特別受益って何?仕組みや計算方法について」、寄与分については「法改正に対応 寄与分と特別寄与料について」をご覧ください。

⑤分割方法の検討
各相続人の取得額に基づいて、遺産を各相続人に分割するための方法を検討します。

分割方法には、現物分割(その物をわけること)や代償分割(物を分けるが、差額を金銭で調整すること)、換価分割(売却して金銭を分配すること)などがあります。

調停成立

以上の段階を経て、相続人同士の合意ができれば調停成立となり、「調停調書」が作成され、調停成立により調停は終了します。

相続人同士で合意ができなかった場合は、調停不成立により調停は終了し、その後は審判に自動的に移行します。

審判は裁判官が事情の一切を考慮して、職権で分割内容を決定するものです。

審判の内容に不服がある時は、高等裁判所に即時抗告を申し立てて争っていく道もありますが、即時抗告ができる理由は限られているので、全てのケースで可能なわけではありません。

遺産分割調停の利用が制限されるケース

遺産分割調停は、当事者同士では難しい交渉を家庭裁判所の手助けの元で進めることができますが、ケースによっては利用が制限されます。

以下のようなケースでは遺産分割調停を利用できないか、調停利用の前に別の手続きが必要になります。

①相続人の不在や判断能力に問題があるケース

a:相続人に行方不明者がいる場合は「不在者財産管理人の選任」手続きを要します。

b:7年以上生死不明の相続人がいる場合は「失踪宣告」の手続きを検討します。

c:認知症などで判断能力が低下した相続人がいれば「成年後見制度」の利用を検討します。

d:未成年者の相続人とその法定代理人(親など)が同時に相続人となって利害が対立する場合には、未成年者の相続人のために「特別代理人の選任」手続きが必要です。

②遺言書や遺産分割協議書があるケース

有効な遺言書があったり、遺産分割協議書があり、遺産の承継者が決まっている場合には、原則として遺産分割調停は利用できません。
有効な遺言書があれば遺産の取得者が確定することになりますから、遺産分割調停は利用できません。

相続人全員の合意があれば、遺言とは異なる内容で遺産の分配を話し合うこともできますが、この協議が無事終了して遺産の承継者が確定した場合も同様です。
遺言書や遺産分割協議書で決定されていない遺産がある場合は調停の利用が可能です。

遺言書自体の有効性を争うのであれば、先に有効性を判断するための裁判が必要になります。
遺留分の請求を行いたいということであれば、相続開始及び遺留分を侵害する贈与または遺贈があることを知って1年以内、または相続開始から10年以内にまず遺留分減殺請求の意思表示をしておいて、別途「遺留分侵害額の調停」を行う必要があります。

遺言書の有効性を争っているうちに1年が過ぎてしまうこともあるので注意しましょう。(2019年7月1日以降に発生した相続が対象です。その前に発生した相続については遺留分侵害の限度で贈与または遺贈された物件の返還を請求する手続きとなります。)

③遺産の範囲に争いがあるケース

遺産の範囲について争いがある場合は「遺産確認の訴え」が必要になることもあります。

また被相続人の預金を勝手に引き出した者の責任を追及するには「不当利得返還請求訴訟」等が必要になることもあります。

遺産分割調停を有利に進めるには?

調停は審判や訴訟のように裁判官が結論を出す手段ではなく、当事者が交渉しながら柔軟に落としどころを決めていく作業です。

調停を有利に進めることができれば、より自分に有利な条件で決着を図ることが可能になります。

調停は調停委員会という公平な第三者が介入する手続きであることを踏まえて、以下のような点を意識してください。

①嘘をつかない

自身に有利に話が進むように嘘をついてしまう人がいますが、嘘であることがわかってしまうと調停委員会の心象は相当悪くなります。

回答に困る質問をされた時には即答せずに持ち帰り、次回の調停で問題のない回答ができるように、考える時間を取るようにしてください。

②自分勝手な主張を固持しない

調停は裁判と違ってお互いの歩み寄りによって決着を図るものですから、自分の意見や考えを固持して自分の利益だけを追求しようとすると、話が進まなくなります。

自分のことしか考えない人に対しては調停委員会の心象も悪くなりますから、かえって不利な状況になりかねません。

③相続事案に詳しい弁護士を味方に付ける

相続問題に詳しい弁護士が付いてくれれば、法的な根拠を基に正確な主張をすることができます。
調停委員は必ずしも法律に明るい人とは限りません。
ですから法の専門家である弁護士が根拠を基に説明するだけで、調停委員の納得を得やすくなります。

もし調停が不成立となり審判に移行した場合も、それまでの調停でのやり取りでなされた法的に正確な主張は、裁判官の決定に有利な影響をもたらしてくれるでしょう。

遺産分割調停の手続き方法

遺産分割調停の手続き方法

遺産分割調停を申し立てることができるのは以下の者です。

  • 相続人
  • 包括受遺者(遺言で相続財産の全部または一定の割合を贈られた者)
  • 相続分の譲受人(相続人から相続分を譲り受けた人)

申立ては、上記の人たちのうちの一人または何人かが、他の相続人ら全員を相手方として行います。
手続きの申し立て先は当事者で合意ができた家庭裁判所、または相手方となる者のうち一人の住所地を管轄する家庭裁判所になります。

申立てに必要となる費用は収入印紙1200円分と、裁判所からの連絡用の切手代です。切手代は、裁判所によって、また相続人の人数によって異なります。
調停の中で不動産の価額に争いがある場合には、不動産鑑定士による鑑定が必要になることもあり、これには数十万円から数百万円程度必要になることもあります。

申立てに必要になる書類は個別ケースでかなり変わってきますが、共通して必要になるのは以下の物です。

  • 遺産分割調停の申立書
  • 被相続人の出生時から死亡時までの戸籍謄本
  • 相続人全員の戸籍謄本
  • 相続人全員の住民票または戸籍の附票
  • 被相続人の子(代襲者を含む)が死亡している場合、その者の出生時から死亡時までの戸籍謄本
  • 遺産の価額を証する証明書(固定資産評価証明書、不動産登記簿、預金通帳など)

個別ケースで上記の他にどのようなものが必要になるか、別途問い合わせが必要です。

なお、被相続人の出生時から死亡時までの戸籍謄本を取得する方法については、「相続手続きで必要な戸籍を集める方法」「相続手続きのために死亡から出生まで戸籍をさかのぼる方法」をご覧ください。

相続税の申告期限までに決着がつかない場合

相続税の申告期限までに決着がつかない場合

相続人同士の遺産を巡る争いとは別に、相続税方面の処理についても忘れることはできません。
相続税の申告納付の期限は相続開始から10か月となっています。
遺産分割について相続人間で争いがあり調停による話し合いが行われていたとしても、税務署は待ってくれないので、この点は要注意です。
期限内に必要な申告納税を怠ると、延滞税や加算税などの税務上のペナルティが課されてしまうので、手続きを怠ることはできません。

もし期限までに遺産の分割ができない場合、取りあえずは法定相続分で遺産を分けたと仮定して仮の相続税の申告納付をしておきます。
そして遺産の分割が終了した時に更正の請求や修正申告を行うことで、遺産の取り分に従った税額に修正することができます。

留意すべき点として、仮の申告納税の時点では「小規模宅地の特例」など税務上で有利になるいくつかの特例が利用できません。
しかし仮の申告の際に「申告後3年以内の分割見込み書」というものを添付しておくことで、申告期限から3年以内に遺産の分割が済めば、後からでも特例の利用が可能です。
詳しくは税理士に相談してください。

まとめ

このコラムでは遺産の取り分について家庭裁判所の関与の元で話し合う「遺産分割調停」について取り上げて見てきました。
利害が対立する当事者同士では難しい話し合いも、第三者の調停委員会を間に挟んで話し合うことで柔軟な落としどころを探っていくことができます。
裁判と違って「勝つか負けるか」の選択ではなく、自分でも譲れるところは譲りつつ、同時に相手の譲歩も引き出してお互いに納得できる解決策を見つけるのが調停の役割です。
調停は相続に詳しい弁護士の手助けを得ることで有利に進められる可能性がありますので、ぜひ活用してもらいたいと思います。

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