約40年ぶりの相続法改正!改正法の内容を徹底解説(第3回)~遺産分割制度、相続の効力等について~

監修:牧野法律事務所(千葉県弁護士会)
代表 弁護士

遺産分割制度

約40年ぶりに大きな改正が行われた相続法について、改正の背景についてはすでに当事務所のコラム「約40年ぶりの相続法改正!改正法の内容を徹底解説(第1回)~改正の背景について~ 」で解説をし、自筆証書遺言制度の見直しと配偶者居住権制度の創設については、「約40年ぶりの相続法改正!改正法の内容を徹底解説(第2回)~自筆証書遺言制度、配偶者居住権制度について~ 」で解説をしました。

第3回目の今回は、遺産分割制度に関する見直しと相続の効力等に関する見直しについて解説します。

遺産分割制度に関する見直し

遺産分割に関しては次の点について見直しがありました。

  • 預貯金の仮払い制度
  • 遺産分割前の財産処分
  • 遺産の一部分割

従来、遺産分割協議が長引くことによりさまざまな不都合が生じていました。
今回の相続法改正により、遺産分割協議において発生しやすい問題を未然に防止し、また遺産分割協議をより一層柔軟に進めやすくなったといえます。

従来の議論と最高裁判例

預貯金は遺産分割の対象

亡くなった人の預貯金が遺産分割の対象になるか否かに関しては、以前から議論のあるところでした。
遺産分割の対象になるということは、遺産分割が終了するまでは勝手に預貯金を引き出すことができないことを意味します。

元々判例は、預貯金は、その名義人が亡くなった時に法定相続分に応じて各相続人に分割して帰属すると判断しており、遺産分割の対象にはならないと考えられてきました。

しかし、現実には預貯金は現金と同様の決済手段として扱われているところ、現金は遺産分割が必要とされています。このため、預貯金も現金と同じように扱うべきではないかとの疑問がありました。

また、預貯金は、不動産や株などのように時期によって価値が変動するものと異なり、その評価に不確定要素が少なく、現金と同じように遺産分割の調整に使いやすいといった利便性もあります。

このような事情を背景として、従来の判例を変更したのが最高裁平成28年12月19日決定でした。平成28年決定は、少なくとも普通預金、通常貯金・定期貯金(いずれもゆうちょ銀行)に関しては、遺産分割の対象になると判断しました。

改正のポイント

今回の法改正では、亡くなった人の預貯金が遺産分割の対象になること自体は、まだ議論が必要であるとして明文化されませんでした。
改正されたのは、預貯金が遺産分割の対象となることを前提とした以下の制度の新設です。

預貯金の仮払い制度の新設

法改正前は、遺産分割が終わるまでは亡くなった方名義の預貯金を単独で勝手に引き出すことができず、引き出すならば相続人全員の同意が必要でした。
しかし、現実には葬儀費用や、光熱費・病院代など亡くなった方の債務の支払いのために、預貯金口座からお金を引き出したいという場面があります。

今回の法改正では、遺産分割の完了前でも相続人は単独で亡くなった方の預貯金の一部の引き出しができるという仮払い制度が新設されました。
ただし、法務省で定める金額(150万円)が金融機関ごとの上限となります。相続人が引き出せる預貯金の範囲は以下の計算式で算定されます。

亡くなった時の各金融機関の預貯金残高 ÷ 3 × 各共同相続人の法定相続割合

例えば、○○銀行の亡くなった時点の残高が普通預金120万円・定期預金300万円で、Aさんの法定相続割合が4分の1だった場合、Aさんは○○銀行の普通預金から10万円(120万円÷3×1/4)、定期預金から25万円(300万円÷3×1/4)を払戻しすることができるということです。

なお、仮払い制度により預貯金を引き出した場合、引き出しをした相続人は単純承認したことになるため、その後相続放棄ができなくなる点には注意しておく必要があります。

また、預貯金の仮払いを受けた相続人は、対象となる預貯金に相当する分について遺産の一部分割によって取得したものとみなされます(上記の例では、Aさんはすでに35万円を取得したものとみなされます。)。
この結果、仮払い制度により引き出した預貯金については最終的に清算されることになります。

遺産分割前の財産処分

法改正前、相続人の一部の人が遺産分割の完了前に勝手に遺産を処分してしまった場合には、別途損害賠償請求等の手続により解決する必要がありました。
しかし、民事訴訟の手続自体に手間とコストがかかる上、遺産の処分の必要性について争われることが多く、現実には泣き寝入りとなることがありました。

そこで、改正法では、遺産分割前に一部の相続人が勝手に遺産を処分した場合、その人を除いた相続人全員の同意があれば、処分された財産は遺産分割時に存在するものとみなすことができることとしました。

これにより、遺産分割手続の中で、勝手に処分された遺産に相当する分を加味して処理できることになります。
この結果、勝手に遺産を処分した人の取り分から処分した遺産の額を差し引くことができ、相続人間の公平を図ることができます。

遺産の一部分割

法改正前も、遺産のうち一部のみを先に分割する遺産の一部分割は行われていました。

現実の相続の場面では、遺産が複数あって相続人の間で分割に関する協議がなかなかまとまらないことがあります。
すべての遺産について分割協議がまとまらない限り手続きが完了しないとすると、例えば、遺産の中にすでに買い手が決まっている不動産があるような場合に引渡しができず、関係者の利益を損ねることがあります。
このような場合に、一部分割を利用すれば、不動産だけ先行して遺産分割をして買い手に引き渡すことが可能となります。

もっとも、従来は遺産の一部分割について明確に規定した条文がなく、裁判例において遺産を一部ずつ段階的に分割することが可能であると解釈されてきたにとどまります。
今回の改正法は、従来の実務上の取り扱いを追認し、遺産分割の際に遺産の一部だけを分割することを明文で認めたものです。

改正法では、遺産の一部分割は相続人間の協議によって行うことができるほか、協議がととのわない場合や協議をすることができない場合には、家庭裁判所に遺産の一部分割を請求することができる旨が定められています。
ただし、遺産の一部を分割することにより他の相続人の利益を害するおそれがある場合には、一部分割が認められないことがあります。

相続の効力等に関する見直し

従前、相続の効力や遺言執行者の権限の範囲に関して、民法で明確に定められていないものがありました。改正法では、これらについて明文を設けています。

共同相続の場合における対抗要件

対抗要件が必要

改正法では、相続人や遺言によって贈与を受けた者など相続により権利を承継した者は、遺産のうち法定相続分を超える分について、対抗要件を備えることが必要であると定められました。

対抗要件というのは、例えば不動産における不動産登記が典型例です。
要するに外部の第三者に自分が権利者であることを主張するための方法が対抗要件と呼ばれるものです。

法定相続分を超える部分というのは、例えば長男と二男で不動産を分ける場合、持分2分の1ずつであれば、法定相続分どおりの割合で分けるので、「法定相続分を超える部分」はありません。
一方、長男が持分3分の2、二男が持分3分の1の割合で分ける場合、長男は二男よりも6分の1だけ法定相続分を超える部分があります。長男は、自分が取得する持分について対抗要件(この場合不動産なので所有権移転登記)を備えていないと第三者に対抗できない、ということです。

従前の判例では、遺言によって遺産分割方法の指定や相続分の指定があった場合は、対抗要件を備えていなくても、法定相続分を超える部分についても第三者に対抗できるけれど、遺産分割や遺贈(遺言による贈与)による承継では、対抗要件が必要と解釈されてきました。
今回の改正では、遺産分割であるか否かに関わらず対抗要件が必要とされた点で、従来の判例の考え方を変更するものといえます。

↓ 改正後は権利承継の原因にかかわらず、法定相続分を超える分について対抗要件が必要

権利承継の原因 法定相続分を超える分について対抗要件
改正前 改正後
遺産分割
遺贈(遺言による贈与)
遺言による遺産分割方法の指定 不要
遺言による相続分の指定 不要

相続分の指定がある場合の債権者による権利行使

亡くなった方は遺言において「Xの相続分は4分の1、Yの相続分は4分の3」といったように法律で決まった割合とは異なる相続分(遺産を引き継ぐ割合)の指定をすることができます。

このような相続分の指定がされた場合であっても、亡くなった方の有した債務の債権者には影響を及ぼさないというのが従来の判例の考え方でした。つまり、債権者は法定相続分通りにXとYに債務の支払いを請求することができました。

改正法は従来の判例の考えに従い、相続分の指定がされたとしても債権者が承認しないかぎり、債務については相続分指定の影響を受けず、法律で決まった割合に応じて各相続人が債務を負担することを定めました。
これは、遺言の内容に関与できない債権者を保護するための制度といえます。

遺言執行者の権限の明確化

遺言執行者は、遺言者に代わって遺言の内容を実現させる手続きをする人です。

改正前の民法においても遺言執行者の地位や権限に関する規定はありましたが、不明確な点がありました。
法改正で、遺言執行者の権限が明確化されています。

遺言執行者の権限に関しては従前、遺産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有することが規定されていました。
法改正により、遺言執行者の権利義務が「遺言の内容を実現するため」であることが明記されました。

遺言執行者について詳しくは、「遺言書を書く前に知っておきたい遺言執行者のこと」をご覧ください。

まとめ

今回の法改正では、亡くなった後の手続について複数の改正がありました。

これまでと大きく運用が変わっているものもありますので、相続に関して調べる場合には法改正が反映された最新の情報を入手する必要があります。

自分が当事者となる相続の手続について不安がある場合には、ぜひ弁護士にご相談ください。

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