約40年ぶりの相続法改正!改正法の内容を徹底解説(第2回)~自筆証書遺言制度、配偶者居住権制度について~

監修:牧野法律事務所(千葉県弁護士会)
代表 弁護士

弁護士とはかり

約40年ぶりに大きな改正が行われた相続法について、改正の背景についてはすでに当事務所のコラム「約40年ぶりの相続法改正!改正法の内容を徹底解説(第1回)~改正の背景について~ 」で解説をしました。

第2回目の今回は、自筆証書遺言制度の見直しと配偶者居住権制度の創設を取り挙げて解説します。

自筆証書遺言制度の見直し

今回の相続法改正と新しい法律の施行によって、自筆証書遺言制度が見直されました。

改正事項としては、次の2点です。

  • 自筆証書遺言の方式の緩和
  • 法務局保管制度の創設

自筆証書遺言の方式緩和

財産目録は自筆でなくてもOK

自筆証書遺言とは、民法上有効とされる遺言の類型のうちの一つであり、公証人や証人など遺言者以外の第三者の関与を要することなく作成できる遺言です。
もっとも、自筆証書遺言が有効とされるためには厳格な要件が定められています。

遺言書は、遺言内容を記載する本文に、遺言の対象となる不動産や預貯金等の財産を一覧化した財産目録が別紙として添付されることもありますが、通常は、遺言内容を記載する本文の中に遺言の対象となる不動産や預貯金等の財産も含めて記載することが多いです。

このうち、遺言書の本文の全部・遺言書を作成した年月日・遺言者の氏名については遺言者本人が自書し、押印しなければなりません(民法第968条第1項)。
自書というのは、本人による手書きのことです。

したがって、例えば、遺言書の本文をパソコンで作成して印刷したようなものは自筆証書遺言として有効にはなりません。
この点は、今回の相続法改正によっても変更はありません。

今回、自筆証書遺言の方式が緩和されたのは遺言書に添付する財産目録に関する部分です。

相続法改正前は、遺言書本文に遺言の対象となる財産を含めて記載した場合はもちろんのこと、遺言書本文とは別に財産目録を作成して別紙として添付しても、財産目録について遺言者本人の自書が求められていました。

しかし、今回の改正によって、遺言内容を記載する本文と遺言の対象となる財産を記載した財産目録を独立させた場合には、財産目録に関しては自書を要しないと変更されたのです。

財産目録に自書を要しないとされたことにより、表計算ソフトなどで財産を一覧化したものを印刷して遺言書に添付することや、預貯金通帳のコピーや不動産登記事項証明書などをそのまま遺言書に財産目録として添付することが可能となりました。ただし、財産目録をワープロなど自書以外の方式で作成する場合には、目録のページごとに遺言者本人が署名・捺印をする必要があります。

自筆証書遺言について詳しくは、「【文例付き】遺言書の書き方、作り方」をご覧ください。

自筆証書遺言の法務局保管

遺言書保管制度

自筆証書遺言に関しては法務局における保管制度が新たに設けられました。
これは、民法そのものの改正ではなく遺言書保管法という新法の制定によって創設された制度です。

自筆証書遺言の保管方法についてはもともと法律で定められているわけではないため、遺言者本人が自宅で保管していることや知人や親族等に預けられていることがありました。このため、せっかく本人が遺言書を作成しても、紛失や隠ぺいがなされたり改ざんされたりするリスクがありました。

そこで、自筆証書遺言をめぐる紛争を防止し遺言制度を利用しやすくするために、法務局保管の制度が創設されたのです。

自筆証書遺言の法務局保管制度を利用する際のポイントは次のとおりです。

  • 遺言者本人が生前に法務局に自筆証書遺言の保管を申請する
  • 遺言者の死後、相続人等が法務局に遺言書保管の照会等を行う
  • 法務局保管の遺言書は検認手続が不要

遺言者本人による遺言書の保管申請

法務局保管制度を利用できる遺言は、自筆証書遺言に限定されています。

遺言者が自筆証書遺言を作成したら、遺言者本人が法務局に出頭して遺言書及び所定の事項を記載した申請書を法務局内の遺言書保管官に提出します。その際、遺言書保管官は遺言者本人であることを確認します。

注意点として、法務局による保管制度は遺言が自筆証書遺言の形式に合っているかはチェックしてもらえますが、遺言の内容に関する質問は受け付けていません。
したがって、従前どおり、遺言書の内容については遺言者自身が弁護士などの専門家に相談して作成した方が良いでしょう。

保管申請がなされると遺言書保管官は遺言書の原本を法務局内で保管するとともに、遺言書をデジタルデータとして管理します。遺言者本人は、保管申請をした後いつでも遺言書の閲覧を請求することや遺言書保管の撤回を求めることができます。

ご興味のある方は、「新制度!遺言書保管所に遺言書を預ける~保管手続きについて~」も併せてご覧ください。

相続人等による遺言書保管の照会等

遺言書の保管申請をした遺言者本人が死亡した後、相続人等は自身が関係する遺言書が法務局に保管されているかを照会することができます。

遺言書が保管されていることが判明した場合には、法務局に対して遺言書のスキャン画像等が印刷された「遺言書情報証明書」を交付するよう請求することができます。
相続人は、この証明書を遺言書の原本と同じように相続手続きで使用することができます。

さらに、相続人等の一部に対して遺言書の内容を記載した証明書を交付した場合や遺言書を閲覧させた場合には、法務局は遺言書を保管している旨を他の相続人など相続に関係する人に通知することとされています。

これにより、遺言者本人が作成した自筆証書遺言を一部の相続人に改ざんされたり隠ぺいされるリスクを低減することができます。

法務局保管の遺言書は検認手続が不要

自筆証書遺言の場合、本人の死後に遺言書を保管していた人や遺言書を見つけた人は家庭裁判所に遺言書を提出して検認を受ける必要があります。

検認とは、相続人に対して遺言が存在していることやその内容を知らせ、なおかつ遺言書の形状や修正の状況、日付、本人の署名などといった遺言書の状態を明確にするための手続です。このような手続を経ることにより、それ以後に遺言書の内容が改ざんされる等のトラブルを未然に防止しているのです。

これに対して、法務局で保管されていた自筆証書遺言は検認を要しないこととされています。
法務局に保管している間に第三者によって遺言の内容が改ざんされる可能性はほとんどないことに加え、法務局から相続人全員に対して遺言書が保管されている旨が通知されることになるため、別に検認をする必要がないためです。

配偶者居住権の創設

配偶者居住権

今回の相続法改正では、配偶者が亡くなった際に残される生存配偶者の保護を目的とした配偶者居住権の制度が創設されました。

配偶者居住権を創設した目的

配偶者居住権とは、生存配偶者が死亡した配偶者の名義となっている自宅等に居住していた場合に、配偶者の死後も生存配偶者がその自宅等に無償で住み続けることのできる権利をいいます。

相続法改正前は、配偶者の一方が死亡した後に残されたもう一方の配偶者が遺産である自宅等に確実に住み続けるためには、遺産分割により自宅等の所有権を取得する必要がありました。
しかし、自宅等の不動産は一般的に評価額が高いため、生存配偶者が自宅等の所有権を取得するとその分、生存配偶者が取得できる他の遺産(預貯金等)が目減りすることになり、生存配偶者の生活維持に支障が生じる懸念がありました。

これに対し、改正法で認められた配偶者居住権は不動産所有権よりも評価額が低いため、配偶者は配偶者居住権に基づき無償で自宅等に住み続けられる一方で預貯金等の遺産も多く受け取ることができるようになります。

配偶者居住権の内容

改正法で創設された配偶者居住権には、居住できる期間に応じて長期居住権(民法第1028条)と短期居住権(民法第1037条)の2種類があります。

長期居住権とは

長期居住権は、遺産分割で定められた場合又は亡くなった配偶者が遺言書でもう一方の配偶者に長期居住権を遺贈する旨定めていた場合に発生します。
遺贈というのは、遺言者の死後の財産処分を遺言によって定めておくことです。

長期居住権が認められるための要件は、相続開始時点(配偶者の死亡時点)において亡くなった配偶者の財産であった建物に生存配偶者が無償で居住していたことです。
対象となる建物が夫婦の共有名義であっても要件を満たしますが、共有者に生存配偶者以外の者が含まれている場合には配偶者居住権は認められないことに注意が必要です。

配偶者居住権が認められると、生存配偶者自身が亡くなるまで自宅等の建物に無償で居住することができます。
ただし、別に期間を設定することも可能です。

また、配偶者居住権は登記をすることにより第三者に対しても権利を主張することができるようになります。
例えば、所有者が生存配偶者の居住する自宅等を第三者に売却した場合、登記をしていれば新しい所有者との関係でも従前どおりの条件で居住を続けることができます。

ご興味のある方は、「配偶者居住権とは?利用した方が良い場合・良くない場合」も併せてご覧ください。

短期居住権とは

短期居住権の制度は、配偶者が死亡してから一定の短い期間に限定して配偶者に自宅等の居住権を無償で与えるものです。
長期居住権と異なり、亡くなった人等の意思とは無関係に認められる点がポイントです。

短期居住権が認められる期間は、生存配偶者が居住する自宅等を含めて遺産分割をする場合には以下のうちいずれか遅い方です。

  • 遺産分割により建物の帰属が確定する日
  • 相続開始時から6か月を経過する日

これに対し、生存配偶者が居住する自宅等を含めた遺産分割をしない場合には、以下の期間について短期居住権が認められます。

  • 自宅等の所有権を取得する者が配偶者に対して居住権消滅の申入れをした時から6か月を経過する日までの間

まとめ

自筆証書遺言や配偶者居住権に関しては従来なかった制度が創設されており、相続人や遺言者にとって選択の幅が広がったといえます。
これらの新しい制度を活用していくためには、制度の内容を十分に理解しておくことが重要です。

わからないことがありましたら、弁護士にご相談ください。

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