相続放棄とは?法的な効果や活用法、手続の仕方について

監修:牧野法律事務所(千葉県弁護士会)
代表 弁護士

相続放棄とは?法的な効果や活用法、手続の仕方について

亡くなった方の財産を引き継ぐ手段としては、単純承認と限定承認の二つがあると「相続が発生したら行う手続きの流れ」でお話しました。
このコラムでは、亡くなった方の財産を一切引き継がない「相続放棄」について詳しく解説します。

意外と盲点になりますが、相続放棄は自分自身だけでなく、他の家族や身内にも影響が及ぶ可能性があるので、実際にどのような効果が発生するのかを知っておくことが大切です。

また例外的な活用方法も考えられるので、本コラムで確認していきましょう。

相続放棄の基本

まず、相続放棄の基本を確認します。

相続放棄は、亡くなった方が残した遺産を一切承継しないことを家庭裁判所に申述する手続きです。
相続放棄の説明
相続放棄の手続きをすると、現預金などプラスの財産をまったく引き継げない一方、借金などのマイナスの財産もすべて引き継がなくて済みます。

そのため、亡くなった方の遺産の構成を見て、マイナス財産の方が多い場合は相続放棄をするほうが賢明です。

そうしないと、自分自身がもともと保有していた財産も亡くなった方の借金の弁済に充てなければならなくなります。

相続放棄はこのように遺産に占めるマイナスの財産(負債)の方が多い場合に利用するのが基本ですが、別の意図を狙って検討されることもあります。

次の項では相続放棄を検討しても良いケースを見てみましょう。

放棄を検討しても良いケース

ここでは遺産のうちマイナス財産の方が多いケース以外に、相続放棄を検討しても良いケースを見てみます。

①特定の相続人の取り分を増やしたい場合

例えば父親が亡くなり、母親と子の二人が共同相続人となるケースです。
子はすでに独立しておりしっかりとした生活基盤を築いていて、プラスの財産をもらわなくても困らないようなケースでは、年老いた母親がすべての遺産を受け取れるように、子が相続放棄を検討することもできます。
子が相続放棄
母親は亡くなった方の配偶者ですので、相続税の負担を軽減する配偶者の税額軽減措置の利用も可能です。

ただし、亡くなった父親の親が存命の場合や兄弟姉妹がいる場合は、子の相続権が父親の親や兄弟姉妹に移ってしまうので注意が必要です。

②事業承継が問題になる場合

亡くなった方が事業を営んでいて事業承継が必要になるケースでは、事業用財産が散逸してしまうとスムーズな事業継続が難しくなることがあります。

この場合も上の①と同じやり方で、例えば事業を引き継ぐ長男に事業用財産を集中させるため、他の共同相続人が相続放棄を検討することができます。

この場合、相続放棄をする方々に不満が出ないように、代償金を支払うなど別途何らかの手当てを行うことも考えられます。

③生命保険金がある場合

亡くなった方が、受取人を相続人とする生命保険に加入している場合、遺産を引き継ぐよりも、相続放棄をしたほうが得になるケースがあります。

生命保険金は受取人となる相続人固有の権利とされているので、相続の対象とはならず、相続放棄をしても受け取ることができます。

例えば
・相続人  → 一人
・遺産   → プラスの財産が3000万円とマイナスの財産が4000万円
・生命保険 → 受取金額が2000万円
の場合を考えてみましょう。

【相続放棄をすると…】
プラスの相続財産は手に入りませんが、マイナスの財産も引き継がなくて済むので、生命保険金の2000万円をそのまま手に入れることができます。

【遺産を引き継ぐと…】
プラスの財産は3000万円ですが、生命保険金の2000万円を合わせれば5000万円ですから、マイナス財産4000万円をカバーできるので、5000万円-4000万円=1000万円を手元に残すことができますが、相続放棄をしたほうが受け取る金額が多くなります。

ただし、亡くなった方が被保険者となって保険料を負担している生命保険金は、これを受け取った相続人が相続放棄をしても相続税の課税対象になりますから、この点は注意が必要です。

④保証債務を引き継ぎたくない場合

亡くなった方が誰かの保証人になっていたなどのケースは要注意です。

一部を除いて、亡くなった方の保証人としての地位も相続の対象になるので、遺産を引き継いだ相続人は保証人としての地位も引き継ぐことになります。

保証債務は具体的な負担の範囲や価額が予想しづらいため、引き継いでしまうと大きな負担を背負い込む危険があります。

このリスクを嫌う場合は、相続放棄が有効です。

各種保証契約のうち、身元保証契約については原則として相続性は無いとされ、亡くなった方の生存中に具体的な損害賠償請求権が発生している場合を除いて相続の対象にはなりません。

また相続人自身が亡くなった方の保証人となっていたような場合は、相続放棄をしたとしても相続人自身が負っていた保証人としての責任を免れることはできません

このように保証債務の相続性に関しては少しややこしくなっているので、保証債務が問題になりそうなケースは早めに弁護士に相談するようにしてください。

⑤亡くなった方が裁判の被告になっている場合

亡くなった方が裁判の被告として訴えられている場合、その地位も相続の対象になります。

遺産を引き継いだ場合はその責任を負わされる可能性があり、負担は大きなものとなるでしょう。

またその裁判の事情を詳しく知らない相続人が裁判を引き継いだとしても、有効な対処が難しいかもしれません。

このような場合も、相続放棄をすることで被告としての地位を引き継がなくて済みます。

⑥面倒に関わりたくない場合

相続人が複数いて争いが起きている場合や、争いが起きることが予想されるケースでは、遺産分割協議などで大きな負担を強いられることが予想されます。

相続放棄をすれば初めから相続人ではないということになり、遺産分割協議に参加するなどの負担がかかりません。

心理的な負担や手間、面倒を避けるために相続放棄が検討されることもあります。

他の家族や身内への相続放棄の効果

相続放棄は過大なマイナス財産の承継や保証人の責任を回避することができる他、上記のような特定の目的で検討されることがあります。

その時に注意していただきたいのが、相続放棄をすると他の家族や身内に影響が及ぶことがあるということです。

相続放棄をすると、その者は相続開始当初から相続人ではなかったものとして扱われますが、その代りに法定相続人の次順位者に相続権が移ることになります。

例えば父親が亡くなって、その妻と子が相続人になるケースで、母親(亡くなった方から見て妻)が遺産のすべてを受け取れるように、子が相続放棄をしたとします。
相続放棄した場合の相続権
すると子が相続人でなくなった代わりに、次順位者である亡くなった方の直系尊属(父母・祖父母等)が相続人となるので、直系尊属が生存していた場合、そのままでは子の目的は果たされないことになってしまいます。

この場合、当該直系尊属が相続放棄をすると、今度は次順位者である亡くなった方の兄弟姉妹が相続人となります。
兄弟姉妹が相続放棄をすることで目的を遂げることは可能ですが、手間の問題も生じることですし、もしかしたら直系尊属や兄弟姉妹が相続放棄をせずにそのまま財産を承継してしまうかもしれません。

特定の目的で相続放棄を検討する場合には、事前に関係者同士で十分な話し合いを行い、お互いの意思を確認しておく必要があります。

なお、相続放棄をした場合はその下の世代の者が代襲相続をすることはできません。

このように相続放棄は相続人の地位に変動をもたらすことになるので、何らかの目的があって相続放棄を検討する場合には、その効果が周囲にどのように影響するのかよく考える必要があります。

遺産の調査について

相続放棄は、主に遺産のうちプラスの財産よりもマイナスの財産が多いケースで、過大な負債を引き継ぐことを避けるために選択されます。

問題は、遺産に占めるマイナス財産の割合がどうなっているのか、その調査をしっかりと行わなければ相続放棄をした方が良いのか判断ができないということです(限定承認の場合も同様)。

遺産の内容を詳しく把握することによって、相続を承認しても良いのか、放棄すべきか、または限定承認を検討するべきかなどの判断が可能になります。

プラスの財産については比較的調査は容易で、現預金であれば金融機関、不動産であれば法務局、有価証券であればその発行体に問い合わせることで具体的な財産を把握できます。

しかしマイナスの財産については、亡くなった方が家族に隠れて借金をしている可能性もありますから、まず負債があるかどうか自体が不明です。

亡くなった方が事業を営んでいたケースでは、事業性のある借り入れについては比較的証拠を発見しやすいのですが、個人的な借金は借入先からの郵便物などが無いかどうか徹底的に探して、借り入れの痕跡を探索しなければなりません。

必要に応じて信用情報機関に情報開示請求を行うなどの手間と時間がかかる作業になるので、相続人にとっては相当な負担になります。

とはいえ、負債の調査は漏れの無いようにしっかり行わなければ、後々大きな問題になる可能性があるので怠るわけにはいきません。

負債の調査は経験とノウハウが必要になることから、弁護士などの専門家に依頼することをおすすめいたします。

手続き方法と期限

相続放棄は相続発生前にはすることができません。

これは、将来共同相続人となる者に不当に相続放棄をさせるなどの行為が懸念されるからです。

相続放棄をするには、原則として亡くなったことを知ってから3か月以内に家庭裁判所で所定の手続きを取る必要があります。

遺産の調査に時間がかかるなどの事情がある場合、特別に期限を延長してもらうことも可能ではありますが、別途理由を付して家庭裁判所に申立てが必要です。

また必ず期限の延長が認められるわけでもありませんので、原則の期限内に手続きを終えられるように迅速に行動することが肝要です。期限内に相続放棄の手続きをしないと、単純承認したものとみなされます。

相続放棄は限定承認と違い、相続人全員で行う必要はなく、個々人で必要性を判断して手続きを行うことができます。

手続き先は亡くなった方の最後の住所地を管轄する家庭裁判所で、概ね以下のようなものが必要になります。

  • 相続放棄の申述書
  • 亡くなった方の戸籍謄本
  • 亡くなった方の住民票または戸籍の附票
  • 相続放棄をする人の戸籍謄本
  • 収入印紙800円
  • 郵便切手代

自分での手続きを検討される場合は、「相続放棄の手続きを自分でする方法」をご覧ください。

まとめ

この回では相続放棄の法的な効果や活用法、手続き方法などについて見ていきました。

遺産が債務超過でその負担を避けたいケース以外でも、特定の目的で相続放棄が検討されることがあります。

ただ相続人の順位に変動が出ることもあるので、この点は留意しなければなりません。

また限定承認も同様ですが、相続放棄をすべきかどうかの判断には遺産の入念な調査が必要で、特にマイナスの財産調査は漏れの無い確実なものとしなければなりません。

相続財産調査は経験とノウハウが求められるので、ぜひ弁護士など専門家を活用してもらいたいと思います。

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