遺産分割に期限ができた?!2023年4月から変わること

監修:牧野法律事務所(千葉県弁護士会)
代表 弁護士

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2021年4月21日に、所有者がわからなくなってしまった土地(所有者不明土地)の増加等に対応する目的で「民法等の一部を改正する法律」(令和3年法律第24号)が成立し、2023年4月1日に施行しました。
改正の理由や改正前後の条文については、法務省のサイトをご覧ください。

実は、遺産分割をする期限は法律で決まっていなかったのですが、それが所有者不明土地を作り出す原因の1つになっていました。
そのため、今回の改正で遺産分割の期限について変更があります。

遺産分割制度の変更も含めた所有者不明土地に関する法改正全体のポイントを法務省がまとめていますので、そちらをご覧ください。遺産分割制度は、45頁以降に書かれています。

今回のコラムでは、遺産分割制度にどのような変化があったのかを確認します。
どのような制限が遺産分割に加わったのか、どのような場合に気を付ければいいのかについて、これまでの制度と比較しながら解説します。

2018年に改正された遺産分割制度については、「約40年ぶりの相続法改正!改正法の内容を徹底解説(第3回)~遺産分割制度、相続の効力等について~」をご覧ください。

なぜ改正?どんな改正?

今までは、遺産分割をいつ行うか、いつまでに行うかについて法律の規定はありませんでした。そのため、被相続人が亡くなってから数年あるいは数十年も遺産分割を行わないことがありました。

遺産分割を行わずに時間が経過すると、そのときの相続人が亡くなってさらに相続が発生してしまい、相続人がどんどん増えていきます。

遺産に不動産が含まれている場合には、登記に記載される所有者が当初に亡くなった方のままになってしまい、現在の所有者がわからず、不動産の管理や利用などに支障が出ていました。遺産分割に期限がないことが所有者不明土地を発生させる原因の1つになっているということです。

ところで、遺産分割の方法には、大きく次の3つがあります。

  • 法律で決められた割合で分ける「法定相続分による分割
  • 遺言により指定された割合で分ける「指定相続分による分割
  • 法定相続分または指定相続分を特別受益や寄与分などで修正して分ける「具体的相続分による分割

法定相続分について詳しくは、「相続人とその法定相続分について」をご覧ください。
指定相続分について詳しくは、「遺言書を書くメリットと種類」をご覧ください。

遺産分割を行わないまま長期間経過すると、特別受益や寄与分に関係する生前贈与などを証明する書類がなくなってしまったり、関係者の記憶も不確かになってしまったりするので、具体的相続分の算定に時間がかかり、遺産分割協議が進まなくなるという欠点がありました。

そのため、遺産分割を早期に行うように期間制限が設けられました。
亡くなった時(相続開始時)から10年が1つの区切りになります。
亡くなった時から10年経過すると、「できないこと」「制限されること」があります。

改正されたのはどんなこと?

遺産分割制度に関する今回の改正点は、3つあります。

  1. 亡くなった時から10年経過後は、原則として特別受益・寄与分の適用なしで遺産分割!
  2. 亡くなった時から10年経過後は、遺産分割調停・審判の取下げに制限が!
  3. 遺産の分割禁止期間が明確化!

では、1つずつ解説していきます。

亡くなった時から10年経過後は、原則として特別受益・寄与分の適用なしで遺産分割!

これまでは、いつ遺産分割を行っても特別受益や寄与分を主張することができました。
改正によって、特別受益や寄与分の主張に期間制限が設けられました。

特別受益と寄与分について詳しくは、「特別受益って何?仕組みや計算方法について」、「法改正に対応 寄与分と特別寄与料について」をそれぞれご覧ください。

(期間経過後の遺産の分割における相続分)
第904条の3 前3条の規定は、相続開始の時から10年を経過した後にする遺産の分割については、適用しない。ただし、次の各号のいずれかに該当するときは、この限りでない。
1 相続開始の時から10年を経過する前に、相続人が家庭裁判所に遺産の分割の請求をしたとき。
2 相続開始の時から始まる10年の期間の満了前6箇月以内の間に、遺産の分割を請求することができないやむを得ない事由が相続人にあった場合において、その事由が消滅した時から6箇月を経過する前に、当該相続人が家庭裁判所に遺産の分割の請求をしたとき。

【 改正の内容-原則 】

今回の改正により、亡くなった時から10年経過した後は、原則として、法定相続分または指定相続分で分割されることになります(民法 新904条の3)。
(条文にある「前3条の規定」が特別受益と寄与分の規定です。)

遺産分割の制限改正の原則

つまり、相続人の誰かが特別な利益を得ていると主張してその人の取り分を減らすことも、自分が特別な貢献をしたと主張して自分の取り分を増やすこともできなくなるということです。

制限されるのは分割の基準(法定相続分または指定相続分)だけで、それ以外の分割方法に制限はありません。
例えば、配偶者居住権を設定することは可能です。
配偶者居住権について詳しくは、「約40年ぶりの相続法改正!改正法の内容を徹底解説(第2回)~自筆証書遺言制度、配偶者居住権制度について~」、「配偶者居住権とは?利用した方が良い場合・良くない場合」をご覧ください。

【 改正の内容-例外 】

ただし、例外が3つあります。
例外に当てはまるときは、亡くなった時から10年を経過した後であっても、具体的相続分で遺産分割を行うことができます。

  1. 亡くなった時から10年経過するよりも前に、相続人が家庭裁判所に遺産分割を請求したとき(民法 新904条の3 第1号)
  2. 遺産分割の制限改正後の例外1

  3. 亡くなった時から10年の期間満了前6か月以内に、遺産分割請求をすることができないやむを得ない事由が相続人にあった場合で、そのやむを得ない事由が消滅した時から6か月経過する前に、その相続人が家庭裁判所に遺産分割請求をしたとき(民法 新904条の3 第2号)
    遺産分割の制限改正後の例外2

    「やむを得ない事由」に当てはまる場合は、例えば、亡くなった方が身元不明の状態で亡くなったため相続人が長期間死亡を確認できなかった場合や、遺産分割禁止特約があったので期間経過前に遺産分割の請求ができなかった場合や、相続放棄等により10年の期間経過後に相続人となった場合などです。

    「やむを得ない事由」に当てはまらない場合は、例えば、相続人が海外にいたという場合や病気療養中だった場合などです。個人的な都合は「やむを得ない事由」に当てはまらないと考えておいた方がいいでしょう。

  4. 当事者全員の間で具体的相続分による遺産分割を実施する合意があるとき
    遺産分割の制限改正後の例外3
    10年の期間経過後に遺産分割の申立てがなされた場合であっても、その相続に関係する当事者全員の合意があるならば、具体的相続分によって遺産分割をすることができると考えられます。

【 いつから適用? 】

今回の改正法の施行日は2023年4月1日ですので、施行日以後に亡くなった(相続が開始した)場合はもちろん新しいルールが適用されます。

注意が必要なのは、施行日前に亡くなった場合にも適用があるということです。つまり、既に亡くなっているけれどまだ遺産分割を行っていない人たちにも影響があります。

ただし、施行日前に亡くなった場合には、5年の猶予期間が設けられています。
5年の猶予期間の満了と、亡くなった時から10年を経過した時のいずれか遅い時まで、具体的相続分で分割するよう主張することができます。

3パターン考えられるので、確認してみましょう。

  1. 施行時に亡くなった時から既に10年が経過している場合
    亡くなった時から既に10年経過してしまっているときは、施行日である2023年4月1日から5年の猶予期間中に遺産分割請求をしないと、具体的相続分で分割するよう主張することが難しくなります。
    相続からすでに10年
  2. 亡くなった時から10年を経過する時が、施行時から5年を経過する時よりも前に到来する場合
    先ほどと同じく、施行時から5年の猶予期間中に遺産分割請求をしないと、具体的相続分で分割するよう主張することが難しくなります。
    相続開始から10年が5年中にくる
  3. 亡くなった時から10年を経過する時が、施行時から5年を経過する時よりも後に到来する場合
    施行時から5年の猶予期間の方が先に満了してしまうときは、亡くなった時から10年を経過する時まで、具体的相続分で分割するよう主張できます。
    亡くなった時から10年を経過したら、具体的相続分で分割するよう主張することが困難になります。
    相続開始から10年が5年後にくる

亡くなった時から10年を経過した後は、遺産分割調停・審判の取下げに制限が!

【 改正の内容 】

今までは、遺産分割調停・審判は、原則としていつでも自由に取り下げることができました(家事事件手続法 82条第1項・第2項、273条第1項)。

しかし、今回の遺産分割制度の改正で、亡くなった時から10年を経過した後は、特別受益・寄与分の主張が制限されます。遺産分割調停・審判をいつまでも自由に取り下げられるとすると、特別受益・寄与分の主張をしたかった相手方に不利益が生じる可能性があります。

そのため、亡くなった時から10年を経過した後に遺産分割調停・審判を取り下げたいときは、相手方の同意がなければ取り下げられないことになりました(家事事件手続法 新199条第2項、新273条第2項)。
特別受益・寄与分を主張したい相手方の利益を守るためです。

【 いつから適用? 】

遺産分割調停・審判の取下げが制限されるのは、遺産分割で具体的相続分の主張が制限されることに関連します。
そのため、取下げの制限に関する規定の適用は、既に説明した遺産分割で具体的相続分の主張が制限される場合と同様です。

遺産分割の禁止期間が明確化!

亡くなった方が5年を超えない期間を定めて遺産分割を禁止できることは、法律に規定されていました(民法 旧908条)。
しかし、共同相続人間の合意で遺産分割を一定期間禁止することは、できるとされていましたが法律の規定はなく、また、禁止期間も規定されていませんでした。
今回の改正で、明確化されました。

(遺産の分割の方法の指定及び遺産の分割の禁止)
第908条
2 共同相続人は、5年以内の期間を定めて、遺産の全部又は一部について、その分割をしない旨の契約をすることができる。ただし、その期間の終期は、相続開始の時から10年を超えることができない。
3 前項の契約は、5年以内の期間を定めて更新することができる。ただし、その期間の終期は、相続開始の時から10年を超えることができない。
4 前条第2項本文の場合において特別の事由があるときは、家庭裁判所は、5年以内の期間を定めて、遺産の全部又は一部について、その分割を禁ずることができる。ただし、その期間の終期は、相続開始の時から10年を超えることができない。
5 家庭裁判所は、5年以内の期間を定めて前項の期間を更新することができる。ただし、その期間の終期は、相続開始の時から10年を超えることができない。

【 改正の内容 】

今回の改正によって、共同相続人は、5年以内の期間を定めて遺産分割を禁止する契約(遺産分割禁止特約)を締結することができるようになりました(民法 新908条第2項本文)。

ただし、既に解説した通り、亡くなった時から10年を経過すると具体的相続分の主張に制限がかかってしまいますので、遺産分割を禁止する契約の終期は、亡くなった時から10年を超えることはできません(民法 新908条第2項ただし書き)。
遺産分割禁止契約

また、遺産分割禁止特約は、5年以内の期間を定めて更新することができます(民法 新908条第3項本文)。
ただし、その更新期間の終期は、亡くなった時から10年を超えることはできません(民法 新908条第3項ただし書き)。これも、先ほどと同じく、亡くなった時から10年を経過した後は具体的相続分の主張に制限がかかるからです。
遺産分割禁止契約の更新

家庭裁判所が遺産分割禁止の審判を行う場合も、上記と同じ期間の制限があると規定されました(民法 新908条第4項、第5項)。

まとめ

今回の改正で、亡くなった時から10年を経過すると特別受益や寄与分などの具体的相続分の主張に制限がかかることになりました。
また、今回の改正は、2023年4月1日よりも前に亡くなった場合にも適用があります。

法律で決められた割合(法定相続分)での分割や遺言で指定された割合(指定相続分)での分割をする場合、今回の改正による影響はなく、「遺産分割の期限」はないままです。
しかし、相続人の中に被相続人から生前贈与を受けている人がいる、長年にわたる介護を負担していた人がいるなど、特別受益や寄与分の問題がある場合は、今回の改正による影響があります。

ご自身が適切な相続分を獲得できるようにするためにも、ご不明な点はお早めに弁護士にご相談ください。

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