離婚時の年金分割について
監修:牧野法律事務所(千葉県弁護士会)
代表 牧野 房江弁護士
「離婚時の年金分割制度」という言葉は、離婚を検討したことがある方は、一度は耳にされたことがあるのではないでしょうか。ただ、「年金分割」といっても、具体的にどのように分割されるのか、イメージをお持ちの方は少ないように思われます。
今回は、「離婚時の年金分割制度」についてお話しいたします。
目次
年金分割の対象
「離婚時の年金分割制度」の対象となるのは、結婚期間中の厚生年金と共済年金(いわゆる2階部分)です。
国民年金(基礎年金)や国民年金基金にしか加入していない場合や、結婚期間中に厚生年金・共済年金に加入していない場合は、「離婚時の年金分割制度」は関係ありません。
なお、2015年(平成27年)10月に共済年金は厚生年金に統一されました。
なぜ、結婚期間中の厚生年金・共済年金だけが年金分割の対象になるのでしょうか。それは、「離婚時の年金分割制度」が「財産分与」の考え方に基づいているからです。
老齢厚生年金は、保険料を支払った加入者に対して支払われるため、「離婚時の年金分割制度」を利用しないと、厚生年金・共済年金に加入していなかった配偶者は、離婚後に老齢基礎年金しか受け取れなくなります。
しかし、老齢厚生年金の算定基礎となる標準報酬額は、給与と賞与をもとにして決められます。働いて給与と賞与を得られるのは配偶者のサポートがあるからこそといえます。
また、厚生年金・共済年金の保険料は給与と賞与から納付されますが、この点からも配偶者の貢献があると言えます。
そこで、標準報酬額のうち配偶者の貢献に相当する分は配偶者に分与することができるようになったのです。
「年金を分割する」とは
「年金分割」と聞いて、受給できる年金の額を半分にされる、または半分もらえる、と思っていませんでしょうか。
実際には、「保険料納付記録(標準報酬)」の分割です。
あとでご説明する「合意分割」では、結婚期間中の夫婦の保険料納付記録を合意した割合で分割します。
「3号分割」では、厚生年金・共済年金加入者の保険料納付記録を2分の1ずつ分割します。
保険料納付記録を分割した後、それぞれの保険料納付記録が改定され、改定された記録に基づいて老齢厚生年金の支給額が決まります。
年金分割の種類
「離婚時の年金分割制度」には以下の2種類があります。
- 合意分割
- 3号分割
合意分割
- 2007年(平成19年)4月1日以後に離婚している、または事実婚関係を解消している
- 合意や裁判手続きにより年金分割の割合を定めている
- 離婚をした日の翌日から2年経っていない
「合意分割」は、以上のすべての条件を満たした場合に、当事者からの請求によって分割できる制度です。
当事者は「第1号改定者」(分割されて標準報酬額が低額に改定される人)と「第2号改定者」(分割を受ける人で、第1号改定者の配偶者だった人)で、共働きの夫婦なども対象になります。
「年金分割」というと、夫の年金を妻に分割するイメージがあるかと思いますが、妻の標準報酬総額の方が夫より多い場合は、妻から夫に標準報酬総額を分割することになります。
3号分割
まず、「3号分割」の名前のもとになっている「第3号被保険者」についてお話しします。
「第3号被保険者」は、厚生年金や共済年金加入者に扶養されている配偶者で、年収130万円未満、年齢20歳以上60歳未満の方です。国民年金に加入しますが、保険料は配偶者が加入している厚生年金・共済年金から基礎年金拠出金として一括拠出されるので、自分で支払う必要はありません。
- 2008年(平成20年)5月1日以後に離婚している、または事実婚関係を解消している
- 2008年(平成20年)4月1日以後に、当事者の一方が国民年金の第3号被保険者期間がある
- 離婚した日の翌日から2年経っていない
「3号分割」は、以上のすべての条件を満たした場合に、国民年金の第3号被保険者だった者からの請求によって自動的に厚生年金・共済年金の保険料納付記録を2分の1に分割できる制度です。
当事者は「特定被保険者」(第1号改定者と同じ)と「被扶養配偶者」(分割を受ける人で、国民年金の第3号被保険者だった人)となります。
分割の対象となる保険料納付記録は、2008年(平成20年)4月1日から離婚までのうち国民年金第3号被保険者期間中の記録のみです。そこで、2008年(平成20年)4月1日以後に結婚して同年5月1日以後に離婚している専業主婦の方は3号分割制度を利用することができます。
「合意分割」と「3号分割」の大きな違いは次のとおりです。
年金分割の請求手続き
では、実際に離婚時の年金分割をする方法を、合意分割の場合と3号分割の場合に分けて、みていきましょう。
合意分割の場合
- 年金分割の割合を決めます。
- 話し合いで決める場合
- 話し合いで決まらない場合
- 離婚後2年以内に、住所地を管轄する年金事務所に対し、「標準報酬改定請求書」と以下の必要書類を提出(窓口来所または郵送)して請求手続きをします。
- 請求者の年金手帳または基礎年金番号通知書
- 結婚期間がわかる戸籍謄本等
- 請求日前1か月以内に作成された、当事者の生存を証明できる戸籍謄本または住民票
- 年金分割の割合を定めた書類
- 話し合いの場合:公正証書または公証人の認証を受けた私署証書
- 審判(判決)の場合:審判(判決)書の謄本か抄本と確定証明書
- 調停(和解)の場合:調停(和解)調書の謄本か抄本
- 請求者の本人確認書類
- 日本年金機構から、改定後の標準報酬が書かれた「標準報酬改定通知書」が届いて、手続き終了です。
「年金分割請求すること」と「按分割合」(年金分割の対象となる期間の当事者の標準報酬合計額のうち、第2号改定者の持ち分)についての公正証書または公証人の認証を受けた私署証書を作成します。
※当事者またはその代理人が年金事務所に直接書類を持参して請求をするときは、「年金分割請求すること」と「按分割合」について合意していることが書かれ、当事者が署名した書類でも可。
家庭裁判所での手続きを申し立てて、按分割合を定めます。
※離婚について家庭裁判所の手続きを利用される場合は、離婚と年金分割を一緒に申し立てることができます。
「標準報酬改定請求書」は、日本年金機構ホームページからダウンロードできます。
なお、対象期間に3号分割の対象となる期間が含まれているときは、合意分割の請求をすることで、3号分割の請求があったものとみなされますので、3号分割の請求を別途する必要はありません。
(当事者またはその代理人が年金事務所に直接書類を持参して請求をするときは、「年金分割請求すること」と「按分割合」について合意していることが書かれ、当事者が署名した書類でも可)
3号分割の場合
- 離婚後2年以内に、住所地を管轄する年金事務所に対し、「標準報酬改定請求書」と以下の必要書類を提出(窓口来所または郵送)して請求手続きをします。
- 請求者の年金手帳または基礎年金番号通知書
- 結婚期間がわかる戸籍謄本等
- 請求日前1か月以内に作成された、特定被保険者の生存を証明できる戸籍謄本または住民票
- 日本年金機構から、改定後の標準報酬が書かれた「標準報酬改定通知書」が届いて、手続き終了です。
年金分割のための情報通知書
合意分割で決める「按分割合」は、決められる範囲が法律で決まっています。
その範囲や年金分割の対象期間、対象期間の当事者の標準報酬総額が記載されているのが「年金分割のための情報通知書」です。
家庭裁判所の手続きを利用する場合には、必ず提出しなければならない書類です。
情報通知書は、離婚する前でも、離婚した後でも、請求できますし、当事者双方でも、一方だけでも請求できます。
50歳以上の方、障害厚生年金の支給を受けている方は、希望によって、年金分割をした場合の年金見込額もわかります。
請求者は、住所地を管轄する年金事務所に対し、「年金分割のための情報提供請求書」と以下の必要書類を提出(窓口来所または郵送)して請求手続きをします。
「年金分割のための情報提供請求書」は、日本年金機構ホームページからダウンロードできます。
- 請求者の年金手帳または基礎年金番号通知書
- 結婚期間がわかる戸籍謄本等