離婚前提の別居に関するよくある質問
監修:牧野法律事務所(千葉県弁護士会)
代表 牧野 房江弁護士
はじめに
夫婦関係が修復不可能で、「もう相手の顔も見たくない!」という場合や、相手の暴力や暴言で心身が傷つき、「もう一緒にいられない!」という場合など、離婚のご相談の中で別居についてご質問をいただくことがあります。
今回は、離婚前提の別居に関して、よくいただくご質問をまとめてみます。
- すぐに別居した方が良い?
- 悪意の遺棄?
- 別居の前に決めておくことは?
- 別居の前にしておくことは?
- 子どものこと
- 住民票は移す?
1.すぐに別居した方が良い?
自分や子どもが相手から暴力を受けている場合は、まず、市区町村・警察・配偶者暴力相談支援センターなどに相談し、すぐに別居した方が良いでしょう。
DV案件として様々な場面で考慮されます。
実家に帰れない・転居費用がないなどの場合も、相談に応じてもらえます。
DVについては、「DV(家庭内暴力)とは?」「DVによる離婚」もご覧ください。
相手からの暴力等がない場合は、別居後の準備を整えてからの方が良いでしょう。
収入と支出がどのくらいになるのか試算して、最悪相手から生活費の支払いがなくても生活できるようにしておいた方が良いでしょう。
ところで、「別居期間は長い方がいい」と聞いたことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか。
これは、相手が離婚に同意していない場合や自分に離婚の原因がある場合に当てはまります。
相手が離婚に同意していない場合、調停を経て、訴訟となります。
訴訟で和解できないと、裁判官が離婚を認めるか・認めないか判断します。
その際、裁判官は民法第770条で決められた5つの条件のいずれかを満たしていないと離婚を認めません。
その条件の1つに「その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」があります。
別居が長期間に及ぶと、夫婦関係を修復するのは難しく、破たんの客観的事情として離婚原因となりうるのです。
また、自分に不貞行為などの夫婦関係を壊した責任があって(有責配偶者といいます)、離婚を希望しているとき、有責配偶者からの離婚請求は認められないのが原則です。
ただ、「相当長期間の別居」、「未成熟子(経済的に自立していない子)がいない」、「相手方配偶者が離婚によって極めて過酷な状態にならない」などの要件を総合的に勘案して、認められる場合もあります。
そのため、「別居期間は長い方がいい」場合があるのです。
2.悪意の遺棄?
「悪意の遺棄(あくいのいき)」という言葉をご存知でしょうか。
「夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない」と民法第752条に規定されています。
その裏返しとして、「配偶者から悪意で遺棄されたとき」離婚の訴えを提起できると民法第770条にあります。
法律上の夫婦は、同居して、互いに協力し、互いに経済的援助をする義務があります。
その義務に違反した行為が「悪意の遺棄」です。
つまり、夫婦関係が破たんするかもしれないとわかっていて、それでも別居して、相手が生活費に不足していても生活費を渡さないような行為が、「悪意の遺棄」とされ、離婚を望んでも認められなかったり、慰謝料請求されたり、自分に不利な結果になることがあります。
3.別居の前に決めておくことは?
別居の前に夫婦で決めておいた方がいいことを次にあげます。
- 別居後の生活費について
別居後の生活費の金額、支払日、支払方法を紙に書いておきましょう。 - 別居の際に持ち出すもの
夫婦で購入したもの・もらったもののうち、持ち出すものを書きだしておきましょう。 - 子どもも一緒に別居するときは、子どもとの面会交流について
子どもとの面会交流の頻度、時間、場所、方法などを紙に書いておきましょう。
4.別居の前にしておくことは?
別居後の生活準備のほかに、離婚の準備として、しておいた方がいいことを次にあげます。
- 相手の財産の把握
離婚するとき、原則として別居時点で存在する夫婦の財産を分け合います(財産分与)。
相手の財産がわからないと、夫婦の正確な財産がわからず、公平な財産分与ができません。通帳や保険証券、証券会社からの報告書、給与明細書(財形貯蓄や社内積立金の有無がわかります)、ローン返済表などのコピーや写真をとっておくと良いでしょう(現物を持ち出すのは後々もめる原因になりますので、やめましょう)。
- 自分に有利な証拠の確保
相手の不貞行為、暴力・暴言、浪費など、相手が夫婦関係を壊した証拠を確保しておきましょう。
相手が離婚を拒否した場合や慰謝料請求するときに必要になるかもしれません。 - 荷物の整理
一旦家を出ると、なかなか荷物を取りに行けません。
健康保険被保険者証、年金手帳、預金通帳、印鑑などは必ず持って行きましょう。相手がいない時間にこっそり荷物を取りに行った場合、相手から「あの〇〇、持ち出した?」などと言われ、問題になることがあります。
長期別居中の場合だと、既に自分はその家の住人ではありませんから、勝手に家に入ることもできなくなります。
後から欲しい荷物が出てきたら、相手にお願いして渡してもらうとか、送ってもらうことになります。そこで、別居するときは、絶対に必要なものを漏らさず持ち出すようにしましょう。
夫婦で購入したもの・もらったものは、相手の承諾を得たうえで、持ち出しましょう。
子どもの記念品・写真なども相手ともめることがあるので、気をつけましょう。
どうしても持ち出せないもの(子どものシーズンオフの洋服など)があるときは、相手がわかるようにまとめておきましょう。
後日、相手に引き渡しを求めるときに説明がしやすいです。
5.子どものこと
離婚後も子どもの親権者となり、一緒に生活することを望むのなら、子どもを連れて別居した方が良いです。
あとで生活が落ち着いてから迎えに行くつもりでも、一旦別居すると相手が子どもを渡してくれないこともあるので注意しましょう。
親権については、子どもが自分の意見を言える年齢であれば、子どもの意思が尊重されます。
離婚の際に親権について争いになった場合、裁判所では子どもの意見を確認します。
子どもにとって、両親の不仲・別居は大変なストレスとなります。
別居を考える段階になっていると、不仲を改善するのは難しいことだと思いますが、子どもが変わらず両親からの愛情を感じられるように、相手とよく話し合い、子どものケアをしましょう。
具体的には、子どもの前で感情的な争いをしない、子どもに相手の悪口を言わない、別居後も直接的・間接的に面会交流をするなどです。
DV案件の場合は別です。相手の暴力・暴言自体が子どもに悪影響を与えるものですので、早急に別居して、相手と子どもを隔離しましょう。
子どもを養育したいけれど、経済的に不安で、一緒に別居するのを迷っている方もいらっしゃいます。
学校を転校させたくないので、卒業まで別居を待つという方もいらっしゃいます。
別居は、子どもを巻き込む一大事ですので、慎重に検討しましょう。
また、市区町村から支給される児童手当は、実際に子どもを養育している親が受給者となりますので、受給者の変更について市区町村に相談しましょう。
6.住民票は移す?
基本的に離婚を前提にした別居の場合、転出・転入届出をして、住民票を移しましょう。
問題になるのはDV案件の場合です。
この場合、原則として住民票を移してはいけません。
住民票を移してしまった場合や移さざるを得ない場合は、相手に別居先を秘密にしないと危険なので、「ドメスティック・バイオレンス及びストーカー行為等の被害者の保護のための支援措置」の申し出をしましょう。
加害者から住民票や戸籍の附票の交付請求があっても、不正な請求として原則拒否されます。
さいごに
別居する前に、夫婦の話し合いで離婚することもあります。
そのような場合、離婚のときに決めておくべきことを忘れずに書面で残しておきましょう。
詳しくは、「離婚届を出す前に」をご覧ください。
別居することで、相手から直接受けるストレスは減るかもしれませんが、夫婦問題は依然として頭を悩ませるもとでしょう。
自分の人生で「離婚」は想定外だったと思いますが、きちんと片をつけて、次のステージに踏み出しましょう。
別居、離婚について、不安なことやわからないことがあるときは、弁護士にご相談されることをお勧めします。