例えばこんな離婚相談 ~結婚20年の離婚したくない妻~

監修:牧野法律事務所(千葉県弁護士会)
代表 弁護士

ふさぎこむ女性

コラム「例えばこんな離婚相談~結婚6年の離婚したい妻~」では、結婚して6年の離婚したい妻からの相談を例にしてお話しました。

今回は、離婚したくない妻からの相談を例にして、「次に何をすべきか」についてお話いたします。
この例は実際にご相談に来られた方の実例ではありませんが、弁護士がどのように考えるのか、ご参考になれば幸いです。

例 離婚したくない妻からの相談(結婚20年・夫が不貞)

現在の状況

  • 結婚して20年、高校3年生の長男と中学1年生の長女がいる。夫は自営業、妻はパート勤務、長男は大学進学希望。
  • 夫名義の戸建て住宅に住んでいて、夫婦の預貯金と生命保険がある。
  • 夫名義の通帳は夫が管理しており、妻は夫から毎月一定の生活費をもらって家計管理している。
  • 夫は自営業なので、平日でも自由に外出している。

 
以上のような状況のもと、ある日突然、夫から離婚してほしいと言われた。
妻は、夫が不貞をしているとは思わなかったが、身内や友人から勧められ、興信所に調査を依頼したところ、夫の不貞が明らかになった。
夫は不貞を認め、離婚に応じてくれなければ、家を出ると言っている。
妻は離婚したくないというご相談です。
離婚したくない妻からの相談
 

妻の言い分

  • 悪いのは夫なのに、一方的に離婚されてしまうのか。
  • 別居期間が長くなると離婚になると聞いたが、何年くらい別居していたら離婚されてしまうのか、不安だ。
  • 不貞相手の女性に慰謝料請求したい。

 
夫に不貞されても離婚はしたくない、という方は少なからずいらっしゃいます。
では、このような場合に次に何をすべきでしょうか。
 

手順の一例

このようなご相談の場合、まず弁護士からアドバイスできるのは、次のようなことです。

弁護士からのアドバイス
  1. まず、夫の不貞を責めるのではなく、離婚したくない気持ちをはっきり伝えましょう。
    ただし、将来請求する慰謝料の金額などにも影響するので、いつから不貞関係を持ったかなど、不貞の事実関係についてはある程度聞いておいた方が良いです。
  2. 「別居するな」と言っても、出て行く夫を止めることはできないので、できれば行き先の住所を聞いておいてください。
    緊急時の連絡方法や職場も確認しておきましょう。
  3. 生活費を毎月妻の口座に振り込む約束を取り付けましょう。
  4. 難しいとは思いますが、子どもの授業料や塾代、大学入学金などについて、負担する旨の念書を書いてもらいましょう。
  5. 夫の財産に関する資料(不動産、預貯金、株式、生命保険など。会社員の場合は、財形貯蓄、持ち株、退職金など。)があれば、コピーやメモ、写真を撮るなどしておきましょう。
    これは、将来離婚するときの準備です。
    離婚するときは、原則として、別居時にあった双方の財産が分与の対象財産になります。

では、次の一手はどうしたらよいでしょうか?
 

夫から生活費が送られてくる場合

生活費が送られてくるうちは、こちらから法的手続きは取らない方が良いでしょう。

調停には、離婚調停だけではなく、夫婦関係円満調整調停もあり、同居を求めたり、夫婦関係を修復したいときに申し立てることができますが、このような調停を申立てると、逆に夫から離婚したいと言われ、実質的には離婚話になりかねないので、やめた方が良いです。
裁判所や弁護士に間に入ってもらって、夫婦関係を修復できることはまずないと考えた方が良いでしょう。
 

生活費が送られてこなくなった場合

生活費が送られてこなくなったときは、夫の住所地を管轄する家庭裁判所に婚姻費用分担請求調停を申立てます。(住所地とは住民票上の住所地ではなく、実際に住んでいる場所です。)

ただし、少額でも毎月送られているうちは、インターネットで婚姻費用・養育費算定表を確認してからにしてください。

裁判所が認めてくれる婚姻費用(生活費)は、妻にとっては極めて低額なので、申立てをしても意味がなかったり、逆に夫に婚姻費用を減額する口実を与えることになりかねません。
(婚姻費用(生活費)については、「生活費(婚姻費用)を払ってもらえないとき」をご覧ください。)

 

不貞相手の女性に対する慰謝料請求

夫の不倫に悩む女性

積極的な性格の方は、夫の不貞が判明した時点で、不貞相手の女性と直接会って、「もう夫とは連絡を取らない」とか「慰謝料を支払う」という約束の念書を書いてもらう方もいますが、そのような勇気のある方は少ないように思います。

夫が離婚まで考えていない場合には、そのような方法も有効ですが、今回の例のように、夫が離婚の決心をしているような場合には、夫が相手の女性をかばい、直接会うことも拒否されると思います。
不貞相手の女性に慰謝料請求すべきかどうかは、状況次第です。

興信所の調査により証拠があれば、慰謝料請求の訴訟を起こした場合、金額の多い少ないはあるにしろ、慰謝料は認められると思います。
しかし、不貞相手の女性に「慰謝料を支払え」という判決が出たとしても、実際にお金を支払うのはおそらく夫でしょう。

また、夫は不貞相手にだけは迷惑を掛けたくないという気持ちがあるようです。
それまでは、申し訳ない(または後ろめたい)気持ちで、妻にある程度(ほぼ従前どおりの)生活費を送ってきたものが、妻が不貞相手に慰謝料請求をすると、怒って、全く支払わなくなったり、裁判所で認められる最低限の金額に減らして送金してきたり、場合によっては、「離婚だ」と言って妻に対し離婚調停を申立てるおそれがあります。

不貞相手に慰謝料請求をしても、慰謝料を実際に払ってもらえるのは、早くて数ヶ月、またはそれ以上後と考えた方が良いです。
子どもの受験時期と重なると、受験料や入学金についても夫から支払われる保証がなく、絶望的な状況になります。
そのためにも、日常的な貯えは妻にも必要と言えます。

また、慰謝料請求の金額も、相手の女性との不貞が原因で離婚することになったというのであれば、「夫と連帯して数百万円の慰謝料を支払え」と請求しますが、離婚せずに女性に対してだけ慰謝料を請求する場合は、金額も半減します。

あれこれ状況を考えると、相手の女性に慰謝料を請求すれば、夫と女性が別れると思われるような状況にあればともかく、そうでない場合は、ある程度状況を見極めてから、調停を申立てたり、訴訟を起こしたりする方が安全です。

慰謝料請求権の消滅時効は、不貞の事実を知ったときから3年ですので、そのことも頭に入れておきましょう。

また、コラム「不貞の慰謝料~相場・算定方法について~」もご覧ください。

 

夫から離婚を迫られた場合

離婚をせまる夫

夫から離婚届の用紙が送られてきて、「署名押印して返送しなければ、生活費を止める」と言ってきたら、どうしたら良いのでしょうか。

こんなにひどいことを言う夫は、実は珍しくありません。
40歳をとうに過ぎ、思慮分別もつき、社会的経験もある男性が、なぜか不貞関係に陥ると、前後の見境もなく非道(そもそも不貞自体が非道ですが)に走るのです。

しかし、有責配偶者からの離婚請求は、原則として認められません。
別居期間が長いからといって、必ずしも離婚が認められるわけではないのです。
(詳しくは、「裁判離婚をするためには」をご覧ください。)

「有責配偶者(ゆうせきはいぐうしゃ)」というのは、離婚原因を作った責任のある配偶者(夫または妻)のことです。
離婚の手続きは、話し合い→調停→裁判(訴訟)という順番で行われます。
話し合いでも、調停でも合意できないときは、最終的に裁判で離婚が相当か裁判官に判断(判決)されることになります。
そして、裁判では法律で決まった離婚原因がないと、離婚は認められません。
さらに、離婚原因を作った責任のある配偶者からの離婚請求は、原則として認められないのです。

今回の例のように、夫婦間に未成年の子がいたり、別居期間が同居期間と比較して短いような場合には、容易に離婚は認められません。
以前、5年間別居したら離婚請求できるとする民法改正案が検討されたことがありますが、改正には至っていません。
従って、5年間別居すれば離婚が認められるというわけではありません。

弁護士からのアドバイス
妻が本当に離婚したくなければ、離婚届に署名する必要も、調停で離婚に応ずる必要もなく、訴訟でも夫の有責性を争えば夫の請求は認められません。
離婚成立まで、妻は夫に生活費(婚姻費用)を請求することができます。

生活費(婚姻費用)の金額に争いがあるときは、家庭裁判所に調停を申立て、なお話し合いがつかなければ、審判で決めてもらえます。
(婚姻費用(生活費)については、「生活費(婚姻費用)を払ってもらえないとき」をご覧ください。)

 

有利に離婚をするタイミング

弁護士のアドバイスのひとつに、金銭的な問題があります。
離婚を先送りした方が有利か、早く離婚した方が金銭的に有利になるか、ということです。
ご家族のあらゆる状況を考慮に入れて検討すべき問題ですので、一概には言えませんが、一般的に言えることを以下に記します。

 

離婚を先送りした方が得な場合の例

自宅に多額のローンが残っているなど、夫の財産はそれほど多くないが、収入が高く、夫から払われる婚姻費用が高額の場合は、離婚を先送りした方が得です。

例えば、毎月20万円の婚姻費用を支払ってもらえるならば、2年間で480万円を受け取れる計算になります。
慰謝料や財産分与として同等の金額の支払いを得るのは、たやすくありません。
子どもが大学に行っているとか、私立高校に通っている場合、離婚しない方が教育費を払ってもらえる可能性が高いです。

 

早く離婚した方が得な場合の例

夫の財産が相当あり、離婚した場合、財産分与だけでなく、慰謝料も確実に払ってもらえる場合は、早く離婚した方が得です。
別居期間が長引くと、その間に不貞相手の女性にマンションを買い与えたり、預貯金が不貞相手の女性との生活費に使われ、分与されるべき財産(別居時に保有していた財産)がなくなってしまうおそれがあります。

理論的には、離婚の際は、夫婦が築いた財産を、別居時を基準として2分の1ずつに分けることになっています。
しかし、現実問題として、離婚時に夫が何も財産を持っていないと、審判や判決で夫に対する支払い命令が出ても、差し押さえる財産がなく、何ももらえなくなるおそれがあります。
ちなみに、年金は差し押さえができません。

また、夫が退職間際の会社員の場合、夫が退職する前に、退職金が夫に全額支払われないように仮差押えをしておく必要があります。
退職金が一旦夫の預金口座に入金されると、全額払い戻されて隠されてしまうおそれがあるからです。
しかし、仮差押えをするためには、離婚が前提となります。
離婚に伴う財産分与や慰謝料請求権は、離婚時に発生する権利だからです。
したがって、仮差押えをした後は、妻から離婚請求の調停や訴訟を起こす必要があります。

また、今回の例とは異なりますが、夫の収入が低く、見るべき財産もない場合は、早く離婚して、母子手当やそのほかの公的援助を受けた方が良い場合もあります。
離婚した場合に受け取れる公的援助については、市役所の窓口やインターネットで調べてみてください。

 

離婚問題でお悩みの方へ

例をあげて、離婚をしたくない妻からの相談の場合、弁護士はどのような考え方をするのかをご説明しました。

戻る当てのない夫とわかっていても、「離婚したくない」と言う妻は少なくありません。
ただし、その理由は様々です。

夫に対する愛情、意地、子どものため、お金(生活)のため、結婚するときに夫が妻を幸せにすると約束したから、自分が夫の終生の伴侶と決めて結婚したから・・・などなど、いろいろです。
子どものためと言いながら、本当は自分の体裁のため、という場合もあります。

20年も婚姻生活を続けていると、いきなり「離婚」と言われても、そう簡単には結論を出せないでしょう。
ストレスで食事ものどを通らなくなり、不眠症に陥る妻も少なくありません。
そのようなときは、無理せず、時の経過に身を任せながら、「なるようになる。なるようにしかならない。」と考えることも、ストレスを軽減するひとつの方法です。

弁護士に相談するのも、ストレス解消には効果があると思います。
「聞いてもらえただけで、気持ちが軽くなった」とおっしゃる方が多いです。
弁護士はいろいろアドバイスしますが、人生の方向を決めるのはご自身です。
ご相談者が離婚すべきかどうか迷っているときに、弁護士は無理に結論を求めません。
迷っている状況で、最善の策をアドバイスします。

お一人お一人、「次に何をすべきか」は違いますが、このコラムがご参考になれば幸いです。
今、離婚問題でお悩みの方は、まずは一度弁護士にご相談されることをお勧めします。

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