18歳で成年?!養育費はいつまで??算定表の変更で何が変わる?
監修:牧野法律事務所(千葉県弁護士会)
代表 牧野 房江弁護士
目次
成年年齢が18歳に
2022年4月1日から、成年になる年齢が20歳から18歳に変更されました。
2022年4月1日の時点で、18歳以上20歳未満の方(2002年4月2日生まれから2004年4月1日生まれまでの方)は、2022年4月1日に成年になります。2004年4月2日生まれ以降の方は、18歳の誕生日に成年になります。
成年年齢の変更によって、いろいろなところに影響が出ます。
このコラムでは、養育費の面でどのような影響があるのか、みていきます。
また、2019年12月23日に、裁判所において長年利用されてきた養育費や婚姻費用(結婚中の生活費)の算定表の改定版が公表されました。この改定についてもみていきます。
養育費って何?
養育費は、子どもを育てるために必要な費用のことです。
離婚後に子どもを養育する親に対して、もう一方の親が支払います。
別居しても、離婚しても、離婚後の親権がなくても、子どもの親であることには変わりないので、子どもと一緒に生活していない親も養育費を負担する義務があります。
まだ離婚はしていないけれど、別居している場合は、夫婦に婚姻費用(結婚中の生活費)の分担義務があり、婚姻費用の中に養育費が含まれます。
養育費について誤解しているのか、「子どもと同居している親が子どもとの面会交流を拒否するので、養育費を支払わない」と言う親がいますが、養育費と面会交流は全く別の問題です。養育費は、子どものために支払うものです。
養育費の分担義務が発生する子どもは?
養育費の分担義務が発生する「子ども」は、実子(戸籍上も血縁上も子ども)はもちろんのこと、養子縁組した子どもや、認知した子どもも含まれます。
再婚相手の連れ子と養子縁組すると、その子についての養育費分担義務が発生しますが、養子縁組しないと、発生しないことになります。
では、いつまで養育費の対象となる「子ども」でしょうか。
実は、法律では決まっていません。
裁判所は、「未成熟子」であるうちは、養育費の対象としています。
そして、「未成熟子」は、自分の資産や労働で生活ができる能力のない者とされています。ただ、養育費を決めるときに、子どもがいつ成熟して、経済的に自立できるかわからないことが多いので、一般的に満20歳までとされています。
ここで気を付けなくてはいけないのが、「未成熟子」と「未成年者」は同じではないということです。
未成年者でも自分の収入で自分の生活費を賄っていれば、成熟子であり養育費の対象外ですが、成年となった後も自立できていなければ、養育費の対象となることがあります。
例えば、次のような場合は20歳になっていても、未成熟子といえます。
- 持病や障害があり、働くことができず、親が世話をする必要がある
- 大学で学業を続けており、両親ともに4年制大学を卒業している
このように、子どもの健康状態や進学状況、両親の職業・学歴・収入・子どもの教育方針などを総合的に考えて、子どもが未成熟子であるかどうか、判断します。
成年年齢の変更は養育費に影響する?
結論から言うと、影響しません。
前述したとおり、未成熟子かどうかは、成年年齢に達しているかどうかを基に判断するものではありません。
また、最近は高校卒業後に大学や専門学校等に進学することが多くなっていることから、裁判所は成年年齢が18歳に変更された後も原則的な養育費の終期は20歳とするようです。
さらに、すでに養育費について取り決めがあり、支払時期が「平成〇年△月から長男何某が成年に達する月まで」や「平成〇年△月から長女何某が満20歳に達する月まで」のように定められている場合も、合意した当時は「成年=満20歳」だったので、影響はないと言えます。
養育費の決め方
多くの場合、養育費は離婚時に決めます。
養育費を決めずに離婚した場合でも、養育費が必要な間は養育費を請求することができます。
原則として、養育費は請求時から認められるので、なるべく早く請求した方が良いでしょう。
養育費の決め方は、話し合いか、裁判所の調停・審判手続きです。
話し合い
話し合いで決めるときは、お互いが合意した金額が養育費となります。
相手が提案した金額が妥当かどうかは、後述する「算定表」を基準に判断しましょう。
話し合いが決裂して裁判所の手続きになった際は、「算定表」を基準に金額が決まることが多いからです。
養育費を受け取る方は、子どもに医療費がかかるなどの特別な事情がなく、相手の提案が「算定表」の金額よりも高ければ、承諾した方が良いでしょう。
取り決めの内容については、費用はかかってしまいますが、公証役場で法律のプロである公証人に公正証書にしてもらった方が良いです。
後々、相手が養育費を支払わなくなった際に、改めて裁判所の調停手続きをしなくても、公正証書を債務名義にして強制執行(給与の差押え等)をすることができるからです。
調停・審判
話し合いでは決められない場合や、話し合いができない場合は、裁判所の調停手続きを利用することができます。
まだ離婚していない場合は、夫婦関係調整調停(離婚調停)を申立てて、離婚のことと一緒に離婚後の養育費について話し合いをすることができます。
別居中の生活費(婚姻費用)をもらえていない場合は、婚姻費用分担請求調停を申立てます。
養育費のことを決めずに離婚した場合や、結婚をしていないけれど父親が認知した場合などは、養育費請求調停を申立てます。
調停を申立てる裁判所は、相手方の住所地を管轄する家庭裁判所です。
また、双方が合意した家庭裁判所にも申立てることができます。
調停の流れやポイントについては、「生活費(婚姻費用)を払ってもらえないとき」をご覧ください。このコラムでは婚姻費用分担請求調停について記載していますが、養育費請求調停の流れやポイントと共通することが多いので、参考になると思います。
算定表の改定
裁判所の生活費(婚姻費用)・養育費の調停・審判で定着している算定表の改訂版が2019年12月23日に公表されました。
算定表は、子どもの人数と年齢別になっていて、縦軸が支払う方(義務者)の年収、横軸が受取る方(権利者)の年収で、双方の年収が交差するマスの金額が標準的な生活費(婚姻費用)・養育費(子ども全員分)の月額となっています。
算定表の根拠となる算定方法は変わっていません。
養育費は、支払う親が子どもと同居したと仮定して、支払う親の生活費に使える金額(基礎収入)のうち子どもに割り振られる生活費を算出し、双方の基礎収入で按分します。
計算式では、次のとおりです。
変わったのは、次の2点です。
- 生活費に使える金額(基礎収入)を算出するために収入から差し引く「公租公課」「職業費」「特別経費」の割合
- 子どもの生活費の指数
以前の算定表が発表されてから15年以上経つので、新しい制度や統計資料に基づく平均値で計算し直されました。
生活費に使える金額(基礎収入)
生活費に使える金額(基礎収入)を求める際に総収入から差し引く公租公課、職業費、特別経費を正確に算出することは難しいので、統計等を利用して割合を定めています。
給与所得者(サラリーマン)の基礎収入の割合
源泉徴収票の「支払金額」 (控除前の総収入) |
基礎収入の割合 |
---|---|
0~75万円 | 54% |
~100万円 | 50% |
~125万円 | 46% |
~175万円 | 44% |
~275万円 | 43% |
~525万円 | 42% |
~725万円 | 41% |
~1325万円 | 40% |
~1475万円 | 39% |
~2000万円 | 38% |
子どもの生活費の指数
子どもの生活費の指数は、大人を100とした場合の子どもの生活費の割合です。
0~14歳と15~19歳に分けられていて、教育費が加味されています。
生活費指数 | |
---|---|
親 | 100 |
0~14歳 | 62 |
15~19歳 | 85 |
養育費の計算例
- 夫と妻の基礎収入
夫:600万円×41%=246万円
妻:200万円×43%=86万円 - 子どもの生活費指数
長男:85
長女:62 - 夫の基礎収入のうち子どもに割り振られる生活費
246万円×(85+62)/(100+85+62)≒146万4000円 - 夫が分担する養育費
146万4000円×246万円/(246万円+86万円)≒108万4000円
月額にすると、108万4000円/12か月≒9万円
上記の例を算定表で確認すると、8~10万円の中間あたりです。
すでに決まった養育費を変えられる?
すでに決まった養育費を変えたい場合、当事者双方が合意すれば変更できます。
裁判所の調停・審判でも、次のような場合であれば、変更が認められる可能性があります。
- 決めるときに前提としていた事情が変わった
- 事情変更を予測できなかった
- 当事者が原因で発生した事情変更ではない
- 養育費を変更しないと著しく不公平になる
- 事情変更の申立てが信頼を裏切る不誠実なものではない
事情変更があって新たに養育費を決めなおす際は、改定された算定表を使います。
しかし、事情変更がない場合は、すでに決まっている養育費を、改定された算定表に基づく養育費に変更することはできません。
まとめ
養育費は、経済的に自立していない子どもの養育のためのお金です。
一般的に20歳までの子どもが対象となり、その点については、成人年齢が18歳になっても変わりません。
養育費の決め方は、話し合いか裁判所の調停・審判です。
裁判所では「算定表」を基準に決められることが多く、双方の収入と子どもの年齢・人数によって算出します。
養育費についてわからないこと、気になることがありましたら、弁護士にご相談ください。