例えばこんな離婚相談 ~結婚6年の離婚したい妻~
監修:牧野法律事務所(千葉県弁護士会)
代表 牧野 房江弁護士
目次
知りたいのは「次に何をすべきか」
離婚したいと思ったとき、または離婚したいと言われたとき、どうしたら良いのでしょうか?
法律事務所にご相談に来られる方は、「慰謝料がもらえるのか?」とか「親権が取れるのか?」という法的判断のみを求めて来られる方ばかりではありません。
一番知りたいのは、「慰謝料を取るために(または親権を取るために)、今、何をすべきか?」ということです。
(中には、さらに踏み込んで、「私は離婚した方が良いのでしょうか?」と人生の岐路の選択までご相談を受けることもあります。)
これに対するお答えは、ご相談者ごとに違います。
「夫が不貞をしたら離婚できるし、慰謝料も請求できます」とか、
「母親が幼い子どもを連れて実家に戻っているのであれば、親権はほぼ間違いなく母親でしょう」
という回答では、おそらくご相談者にとって、たいした助けにはならないでしょう。
法律的な問題の答えは、最近ではインターネット上を検索すれば、大概見つかります。
しかし、それだけでは、次に何をすべきかわかりません。
「次に何をすべきか」は、お一人お一人に対するお答えが違うので、それを書き連ねることはできませんが、ここではご参考までに例をあげてみます。
今回は結婚して6年の離婚したい妻からのご相談です。次回は結婚して20年の離婚したくない妻について「例えばこんな離婚相談~結婚して20年の離婚したくない妻~」でお話いたします。ただし、これらは実際にご相談に来られた方の実例ではありませんのでご了承ください。
例 離婚したい妻からの相談(結婚6年・幼子2人)
現在の状況
- 結婚して6年、夫は会社員で、妻は専業主婦、5歳の長男(小児ぜんそく)と2歳の長女がいる。
- 夫名義の住宅ローン付マンションに住んでいる。預金は少々、子どもの学資保険と夫の生命保険がある。
- 給料は夫名義の通帳に振り込まれるが、通帳と印鑑は妻が管理し、キャッシュカードは夫が持っている。
- 最近夫が小遣いを多く使うのでけんかになる。
- 夫は、平日は帰宅時間が遅く、家事はほとんど手伝わない。
- 夫は、休日にたまに子どもと公園で遊ぶくらいしか子育てに関わらない。
- 妻が夫に子どもの習い事や病気のことなどを相談しても、夫は相談相手にならない。
- 夫は、妻と子どもが妻の実家に行くのを歓迎しないのに、夫の実家には妻子を連れて行きたがる。
以上のような状況のもと、妻が幼い二人の子育てに身も心も疲れ果てているとき、夫が妻に相談せずにローンで好きな車に買い替えたことから、妻が夫に「これから子どもの教育費がかかるのに。」と文句を言うと、「俺が働いた金で何を買おうが俺の勝手だ!」と言われ、気持ちが切れてしまい、妻は子どもを連れて実家に戻ってしまった。
離婚したいというご相談です。
妻の言い分
- 夫は家事育児に協力しない。
- 夫が自分の趣味や交際費などにお金を使い、夫だけが楽しい思いをしている。
- 自分が話しかけても、ろくに返事をしてくれない。
- 意思の疎通がない。
- 将来の生活設計について話し合いたくても、「任せるよ」とか「めんどくせえ」と言って話にならない。
- このまま夫婦を続ける意味がない。
妻が子どもを連れて実家に戻れるということは、妻の実家が、妻と子どもを受け入れられる経済的環境が整っている場合が多いです。
二人の子どもを連れて離婚して、アパートを借りて、自分のパート収入と夫からの養育費で食べていくことはとても困難でしょう。
離婚後、子ども二人と生活していけるだけの収入を確保することは、とても大事なことです。
経済的自立の必要性
夫の年収(税込)が600万円で、妻の収入が100万円として、夫から支払われる養育費は子ども二人分で月9万3000円がせいぜいです。
母子手当てや児童手当てが受け取れるとしても、離婚前の生活と比較すると、生活のレベルははるかに低くならざるを得ません。
離婚すれば年金や健康保険料も自分で支払わなければなりません。
そのため、戻れる実家のない妻や、実家などから経済的援助を受けられない妻は、生活保護を覚悟で家を出るか、現状に甘んじていなければならないというのが実情です。
中高年の女性が働ける職場は、容易には見つけることはできません。
幼子二人がいると言えば、面接試験で落とされることが多いのではないでしょうか。
経済的自立ができない場合は、離婚したいと思っても、すぐに別居は危険です。
ただし、暴力を働く夫から逃げるためには、戻れる実家がなくとも、家を出ざるを得ません。
妻の離婚の決意が固く、ご実家があり、同居できるか経済的支援をしてくれるという場合は、離婚する方向で話を進めることになります。
妻の希望
- 一日も早く離婚をしたい。
- 親権は、二人とも絶対に自分にほしい。
- 慰謝料を払ってもらいたい。
- 財産分与は、もらえるものならもらいたい。
妻の希望をかなえるために、まず何をすべきでしょうか。
離婚にいたるまでの流れ
手順の一例として、離婚にいたるまでの経過を次に述べますが、これは、絶対にこうしなければならないとか、これが最良の策というものではありません。
相手があることですから、相手の出方次第で、手順も方法も変わります。
夫に離婚の意思を伝える
別居前に夫と離婚について話をしたことがない場合は、まず夫に離婚の意思を伝えます。
双方の両親が、夫婦の結婚について関わりがあったときは、双方の両親を交えて一度話をする方法も考えられますが、それは夫婦関係の修復を図りたい場合、つまり夫が反省して言動を改めてくれれば元に戻っても良いと思っている場合で、離婚希望の場合は無理してお膳立てしても、解決できる見込みは少ないと思います。
夫から「会って話がしたい。」と言われたら、一度は会うことをお勧めします。
どうしても会いたくないのでしたらやむを得ませんが、とにかく結婚して子どももできたのですから、離婚したいのであれば、一度はその理由をきちんと夫に話すことです。
場所は自宅に限りません。
ただし、暴力を振るわれそうな場合や身の危険がありそうな場合は避けて下さい。会って離婚理由を説明しても、夫が納得することは、おそらくないでしょう。
予想される夫の反応
今回の例の場合、夫にしてみれば、「給料は入れている」、「暴力は振るわない」、「不貞もしていない」、さらに付け加えれば「ギャンブルもしない」、「サラ金から借金もしない」、「まじめに会社勤めをしている」のですから、離婚される理由はない、ということです。
夫の両親にしてみれば、こんなに良い息子はいない、という気持ちです。
離婚したいと言うのは「妻のわがまま」であり、「妻の自分勝手」ということになるのです。
話し合いは物別れでしょう。
もし、ここで話がまとまるような夫婦でしたら、離婚話は起こっていないと思います。
そこで、次の一手として、次の3つの方法が考えられます。
- ご自分で家庭裁判所に離婚調停(夫婦関係調整調停)と婚姻費用(生活費)分担請求調停の申立てをして、ご自分で調停の日に裁判所に出頭する。
- 弁護士に依頼し、弁護士が夫に対し手紙を出し、夫と弁護士が話し合いで離婚を進める。
- 弁護士に依頼し、弁護士が夫に対し離婚調停と婚姻費用分担請求調停を申立てる。
どの方法が良いかは、双方の性格、実家を含めての経済力、社会的地位などいろいろな事情を考慮して決めることになります。
妻の経済力が乏しい場合
弁護士費用を払うのは負担になりますので、ご自分で離婚調停の申立てをすることをお勧めします。
申立の書類は、家庭裁判所でもらうか、インターネットで家庭裁判所のホームページからダウンロードすることもできます。
(「離婚調停ってどんなもの?」もご参考になさってください。)
夫から、裁判所で認められている金額以上の生活費がもらえている間は、婚姻費用分担請求の調停申立は不要です。
(婚姻費用(生活費)については、「生活費(婚姻費用)を払ってもらえないとき」をご覧下さい。)
ご自分で調停を申し立てたものの、慰謝料や養育費をいくら請求してよいかわからないとか、調停委員からの質問にどう答えて良いのかわからないなど困ったときは、その都度弁護士に相談するか(相談料がかかることが多いです。)、途中から弁護士に依頼することもできます。
弁護士が受任した場合
弁護士が離婚事件として受任した場合は、妻の希望と以下の事情を勘案して、話し合いを求める手紙を出すか、話し合いをせずにいきなり調停の申立てをするか、方針を決めます。
- 当事者間のこれまでの交渉の経緯
- 夫も弁護士に委任しているか
- 夫の職業
- 夫が切れやすく、暴力を振るう傾向があるか など
夫に手紙を出した後、夫から連絡が来て、話し合いができそうな場合は、夫と弁護士が離婚の条件などについて話し合います。
夫に代理人の弁護士がついた場合は、弁護士間で直接会って話し合ったり、書面で条件の交渉をします。
話し合いで離婚が決まった場合は、「離婚についての合意書」を作成し、当事者または代理人が署名(または記名)押印します。
合意書を公正証書にする場合もあります。
合意書の内容は、主に、以下の項目になります。
- 親権
- 面会交流
- 養育費
- 慰謝料
- 財産分与の金額・支払い方法
- 荷物の引き取り方法
- 自宅の鍵の受け渡し
- 年金分割
合意成立後の離婚届の提出や、「子の氏の変更」手続き(詳しくは、「離婚後の子どもの戸籍、氏(苗字)について」をご覧ください。)、荷物の引取りの際の立会いなどについても、引き続き弁護士がフォローすることが多いです。
話し合いで解決できない場合は、離婚調停
話し合いで解決できない場合は、弁護士が離婚調停の申立てをします。
調停は、原則として相手の住所地を管轄する家庭裁判所に申し立てなければなりません。
離婚調停は、弁護士に依頼しても、調停期日には弁護士とともに出頭しなければなりません。
やむを得ない事情があるときは別ですが、「弁護士に任せたので自分は行かない」というわけにはいかないのです。
2回目以降の調停期日は、当事者の都合も聞いてくれるので、都合の悪い日があれば避けてくれます。
離婚するか否か、親権をどちらが取るか、ということについて夫も妻も譲らない場合は、財産分けの話をしても意味がないので、調停は早い段階で不成立となり、以後は、早く離婚したい方が訴訟を提起することになります。
離婚や親権については、理屈で相手を説得することはできません。
弁護士がついたからといって、夫が親権を譲ってくれるわけでもないでしょう。
ただし、「訴訟で争っても、夫は絶対に親権は取れませんよ」と根拠を示して主張することによって、夫があきらめてくれる可能性はあります。
弁護士に依頼して有利になるのは
慰謝料について、妻がうまく説明できない事情を補足して説明したり、夫から「性格の不一致はお互いさまなので慰謝料請求はできない」と言われても、「妻は婚姻生活の維持について努力しているのに、夫は努力しないばかりか、逆に壊すようなことをしている」など違う観点から説明して、婚姻生活破綻の責任は夫にあると言って慰謝料請求の根拠を説明したりします。
財産分与については、訴訟になった場合に妻が夫からどのくらい財産分与を受けることができるかを見極めて、調停で話をつけるべきか、訴訟に持ち込む方が良いのか判断します。
そのために、専門的な知識と経験が必要になります。
分与すべき財産が多い場合や婚姻期間が長い場合、弁護士に依頼することをお勧めします。
夫の退職金見込み額など、まだ実際に手にしていない財産も分与の対象にできる場合があるからです。
生命保険も、婚姻後に保険料を支払った部分について、別居時の解約返戻金が夫婦の共有財産とみなされ、分与の対象となります。
調停で話がつかなかった場合、訴訟を起こさなければ離婚できません。
訴訟になった場合は、弁護士に依頼した方が良いです。
弁護士費用を支払えない方でも、一度弁護士に相談してください。
相談料はもとより、その後の訴訟の弁護士費用も、条件を充たせば日本司法支援センター(法テラス)を利用して貸付を受けることができます。
後日夫から金銭の支払いを受けたときは、そのお金で法テラスに費用を返還することになります。
離婚問題でお悩みの方へ
例をあげて離婚の手順をご説明しました。
離婚をする夫婦は珍しくありませんが、具体的にどうやって離婚しているのか、外からではわからないですよね。
お一人お一人、「次に何をすべきか」は違いますが、弁護士がどのように考えているのか、ご参考になれば幸いです。
今、離婚問題でお悩みの方は、まずは一度弁護士にご相談されることをお勧めします。