債権法改正のポイントを徹底解説(第3回)

監修:牧野法律事務所(千葉県弁護士会)
代表 弁護士

2020年4月1日に一部をのぞいて施行された改正債権法の改正事項のうち、今回は第3回として、定型約款に関する規制の新設、売買契約に関する改正、消費貸借契約に関する改正について解説します。

定型約款に関する改正

多くの方が利用する鉄道やバスなどは、細かい取引の内容について利用者の個別の合意を取ることも、利用するたびに合意を取ることもありません。また、事業者側は、画一的な取引条項を用意していることがほとんどです。このような、多数の契約に用いるためにあらかじめ定式化された契約条項の総体を「約款」といいます。

約款を用いることは、事業者からすると大量の財・サービスを供給するためのコストを引き下げられるというメリットがあります。その結果、商品価格を引き下げることが可能となり、相対的に低廉な価格で消費者が供給を受けられることになります。
つまり、約款を用いることは、事業者だけではなく消費者にとってもメリットがあるということです。

しかしながら、約款を作成するのは事業者ですので、事業者が自己に有利な内容を規定したり、消費者に不利な内容に一方的に変更したりすることでき、消費者が不利益を被ることもあります。

このように、約款は契約当事者双方にメリットがあるため多くの契約で用いられるものの、他方、消費者が一方的な不利益を被るおそれがあります。それにもかかわらず、民法には約款に関する規定が一切ありませんでした。

また、民法の原則では、契約当事者は契約条項の内容を合意すること、少なくともそれらを認識していることが前提となっています。ところが、約款は多くの場合に逐一内容を確認されていないのが実情です。例えば、鉄道やバスの約款に目を通したことのある人は稀ではないでしょうか。

したがって、約款に法的拘束力を認めるとしても一般的な契約に関する諸原則との関係も問題になります。加えて、事業者ごとに事業内容に応じて様々な約款が作成されているので統一的なルールを設けにくく、また、統一的ルールを設けるべきであるのかという問題点もあります。

そこで、改正法は、約款の中でも特定の取引に関する約款についてのみ、法的拘束力が認められるための要件等を明確化しました。これまで約款をビジネスに活用してきた企業は、自社の約款が改正法の要件を満たすものなのか等を確認する必要があります。

定型約款の定義

約款のうち、「定型約款」の定義にあてはまるもののみが改正法の適用対象となります。「定型約款」に該当すると民法に規定された法的効果が認められます(548条の2)。

「定型約款」とは、この後説明する「定型取引」に関するものであり、かつ、その約款に記載した事柄を契約の内容とすることを目的として、定型取引を行う者(事業者等)により準備された条項の総体をいいます(548条の2第1項柱書)。

「定型取引」といえるためには、以下の2点を満たす必要があります。
①ある特定の者が不特定多数の者を相手方とする取引で、
②取引内容の全部又は一部が画一的であることが当事者双方にとって合理的なもの
それぞれの要件を少し確認していきます。

の「ある特定の者」というのは事業者等のことで、約款を作成する側の契約当事者のことです。

「不特定多数の者」というのは、取引する際に相手方の個性に着目するか否かが判断基準となります。例えば、鉄道やバスなどは利用客の個性に着目しませんので「不特定多数の者」を相手方とする取引に該当します。

これに対し、労働契約の場合には労働者の個性に着目して取引を行いますので「不特定多数の者」を相手方とする取引に該当しません。したがって、労働契約に関する事柄を約款のような形で作成していたとしても、それは「定型取引」ではないため「定型約款」には該当せず、定型約款に関する法的効果を得ることはできません。
もちろん、定型約款に該当しないからといって契約条項のすべてが無効になるわけではありません。

については、鉄道やバスなどが典型例です。事業者と利用客の双方にとって、個別の交渉をせずに利用客全員について取引内容の一部又は全部が全く同じであることが合理的であるといえます。

これに対して、事業者が自社の用意した契約書のひな形を使用した契約を相手に求めるケースに関しては、ひな形を用意する事業者側はともかく、相手方にとっては画一的な取引をすることが合理的とはいえません。このため、契約当事者の一方が用意した契約書のひな型に関しては、通常は「定型取引」に該当せず、「定型約款」にはあたらないと考えられています。

定型約款の組入要件

定型約款に関しては従来から、顧客が1つ1つの条項の内容を必ずしも認識していないにもかかわらず法的拘束力を及ぼして良いのかという問題意識がありました。そこで、改正法は、定型約款の1つ1つの条項の内容を顧客が認識していなくても合意があったものとみなし、契約内容とするための要件(組入要件)を定めました(548条の2第1項)。

定型約款に基づく合意があったとみなされるのは次のいずれかを満たす場合です。
①定型約款を契約の内容とする旨の合意をしたとき(548条の2第1項第1号)
②定型約款を準備した者があらかじめその定型約款を契約の内容とする旨を相手方に表示していたとき(548条の2第1項第2号)

以下、具体例を確認していきます。

①定型約款を契約の内容とする旨の合意があった場合

例えば、インターネット上で商品やサービスを購入する際には、利用規約への「同意」ボタンが表示され、これをクリックして契約が成立する仕組みが一般的です。これは、定型約款を契約の内容とする旨の合意があった場合にあたると考えられます。

②定型約款を契約の内容とする旨をあらかじめ相手方に「表示」していた場合

定型約款を契約の内容とする旨の合意がない場合であっても、例えば、保険契約などでは申込書とは別に定型約款が同封されていて、それが契約内容となることが申込書やパンフレットなどに表示されていることがあります。この場合にも、定型約款は合意の内容とみなされます。

なお、鉄道やバスなど、取引ごとに相手へ約款を「表示」することが取引の性質上困難である取引については、個別の業法において「公表」で足りる旨が例外的に定められていることがあります(鉄道営業法18条の2、道路運送法87条など)。

不当条項の排除(548条の2第2項)

もっとも、相手方が定型約款の条項に目を通していない以上、不当な条項が紛れ込んでいる可能性が否定できません。そこで、改正法は、相手方の利益を一方的に害する契約条項であって信義則(1条2項)に反する内容の条項については、合意されたとみなさないという例外規定を設けることで、相手方の利益にも配慮しています。

定型約款の内容提示義務(548条の3)

さらに、取引の前に相手方から定型約款の内容を示すよう請求があった場合には、事業者は定型約款の内容を示さなければなりません。
もし、事業者が正当な事由なく内容を提示しなかった場合には、定型約款の条項は契約内容にはなりません。

通常の取引ではこのような事態はあまり生じないと思われますが、例えば営業担当者が顧客の要求を面倒に感じて提示義務を果たさないままサービスの提供を開始してしまう場合などが考えられます。この場合、後から契約内容をめぐって顧客とトラブルになるリスクがあります。

定型約款の変更手続(548条の4)

継続的にサービスを提供する場合には、取引を巡る環境の変化などにより定型約款の内容を変更する必要が生じます。前述のとおり、民法の原則によれば契約内容を変更する際には契約当事者から個別の同意を取得しなければなりません。

しかし、定型約款が適用される画一的取引において個別の同意を得ることは現実的ではありません。そこで、改正法は、契約当事者から個別の同意を得ずに定型約款の内容を変更するための要件を定めました。

変更の相手方の一般の利益に適合する場合には、事業者は定型約款の内容を一方的に変更することができます(548条の4第1項第1号)。相手方にとって利益であるならば、一方的な変更であっても問題がないからです。

問題となるのは、変更の相手方にとって利益とはいいがたい内容へと変更する場合です。この場合に一方的な変更が全くできず、常に個別の同意が必要であるとすると、定型約款を作成している事業者側のメリットが少なくなってしまいます。とはいえ、利益とはいいがたい内容に一方的に変更される相手方には、不測の損害を与える可能性があります。

両者を調和する観点から、変更の内容が、その契約の目的に反せず、かつ、変更の必要性、変更後の内容の相当性、変更条項の有無及びその他の変更に係る事情に照らし合理的な場合には、変更することができます(548条の4第1項第2号)。

上記の変更の要件を満たしたとしても、それだけでは変更の効力は認められません。さらに、以下の要件を両方とも満たす必要があります(548条の4第2項)。
①定型約款の変更内容の効力発生時期を定めること
②変更の事実、変更後の定型約款の内容、効力発生時期を、インターネットの利用等によって周知すること

このような周知要件が定められているのは、消費者や利用者等に対する不意打ちを防止するためです。効力発生時期や変更の事実、変更後の定型約款の内容等を適切な方法により周知されれば、相手方は定型約款の変更の有無等を知ることができ、不意打ちにはなりません。

現在使用している約款が定型約款に該当するかどうかや、どのように変更すれば定型約款に該当するか等、詳細については弁護士にご相談ください。

売買に関する改正|瑕疵担保責任は契約不適合責任へ

売買に関しては、「瑕疵担保責任」の概念が債権法改正によって無くなり、代わりに「契約不適合責任」となったことが重要です(561条~572条)。

債権法改正前の「瑕疵担保責任」

従来、瑕疵担保責任が問題となる典型的な場面は次のようなケースでした。

(事例)X社はY社から、自社の事業に利用するために電子機器を購入する契約を締結した。ところが、引渡しを受けた電子機器には基板に不良があり、利用することができない状態であった。

この事例において売買の目的物である電子機器は明らかに不良品です。債権法改正前であれば、X社はY社に対して「瑕疵担保責任」に基づいて、損害賠償や契約解除を求めることができました。

瑕疵担保責任の対象となる瑕疵は「隠れた」ものであることが必要であり、具体的にはX社が瑕疵の存在に気付かなかったことについて過失がないことが求められていました。他方、瑕疵担保責任の要件を満たす場合には、売主(事例ではY社)に過失が無くても売主は責任を負うこととされていました。

債権法改正後の「契約不適合責任」

これに対して、改正法においては「瑕疵担保責任」という特別の責任がなくなり、売買の目的物が不良品であるようなケースについては債務不履行責任(契約違反)の一環として処理されることになりました。このため、名称も「瑕疵担保責任」ではなくなり、「契約(内容)不適合責任」などと呼ばれるようになりました。

契約不適合責任の要件や効果は、債務不履行責任と同様となります。具体的には、売買の目的物の欠陥は「隠れた」ものである必要はなく、一見してわかる欠陥であっても売主に対応を求めることができます。また、売主に対する責任追及の方法の選択肢が増えています。

従来から可能であった契約解除(564条、541条、542条)や損害賠償請求(564条、415条)だけでなく、目的物の修理や、代替物の引渡し又は数が不足している場合には不足分の引渡しによる履行の追完を請求することができます(562条第1項)。もし相当期間内に履行の追完がされない場合には、不適合の程度に応じた代金減額を請求することができます(563条第1項)。債務不履行責任の際に触れたように、履行の追完をすることができなかったり売主が履行の追完を拒絶する意思を明確にしていたりする場合などは、履行の追完を請求して相当期間の経過を待つという段階を踏んでも無意味なので、すぐに代金の減額を請求することができます。

注意すべきは、売主が無過失であれば、売主は買主に対して損害賠償責任(564条、415条)を負いません。これは、契約不適合責任と債務不履行責任とが同様だからです。

従来の瑕疵担保責任と、改正後の契約不適合責任の違いをまとめると以下の表の通りです。

改正前
(瑕疵担保責任)
改正後
(契約不適合責任)
対象 隠れた瑕疵に限る(買主が欠陥について無過失であること) 隠れたものである必要がない(買主が欠陥について無過失である必要はない)
売主側の要件 無過失でも責任を負う 追完、代金減額、解除は、無過失でも責任を負う。損害賠償責任は、帰責事由が必要。
責任追及の方法 契約解除、損害賠償請求 契約解除、損害賠償請求、完全履行請求(修補請求、代替物引渡請求、不足分引渡請求)、代金減額請求

改正法のもとで上の事例についてみてみると、電子機器の一部は利用できるという場合には、X社はY社に対して、完全に機能する代替物と交換するよう請求することもできますし、相当期間を定めて修補請求をすることもできます(562条第1項)。相当期間内に修補がなされなかったならば、使用できない程度に応じて代金を減額するよう請求することもできます(563条第2項)。

このようなX社からの追完請求に対して、X社に不相当な負担を課すものでなければ、Y社は、X社が請求した方法と異なる方法によって履行の追完をすることができます(562条第1項ただし書き)。

例えば、X社が代替物と交換するよう請求してきた場合に、Y社としては、代替物の交換よりも基板のみ交換する方が効率的な場合があります。もし基板の交換にかかる時間が5分程度であるならば、X社に不相当な負担を課すものではないといえるので、X社が請求する代替物の交換という方法ではなく、基板の交換という方法で履行の追完をすることができます。

もっとも、電子機器の不具合についてX社に帰責事由がある場合には、X社はY社に対して履行の追完を請求することはできません(562条第2項)。また、代金の減額を請求することもできません(563条第3項)。

上記の請求をしつつ、X社は、Y社に対して債務不履行に基づく損害賠償を請求することや、契約を解除することもできます(564条、415条、541条、542条)。もっとも、損害賠償を請求する場合には、Y社に帰責事由が必要です。

また、X社がこれらの責任を追及する際には、X社として引渡しを受ける際に調査を尽くしたこと(無過失であったこと)は必要ないということになります。

消費貸借に関する改正

消費貸借契約とは、借主が貸主から代替性のある物を借り、後で品質・数量・種類が同等のものを返還する契約をいいます。借りる物は代替性がある限り限定はありませんが、実務上は金銭消費貸借契約がほとんどです。

金銭消費貸借契約の事例としては、次のようなものがあります。

(事例)Xは引越し費用20万円を知人Yから借りる約束をした。

債権法改正前|要物契約

債権法改正前は、消費貸借契約は当事者の合意だけでは成立せず、金銭など契約の目的物が借主に交付されて初めて成立することとなっていました(587条)。これは、契約が当事者の合意によって成立するという民法の原則の例外であり、「要物契約」といいます。

どの段階で契約が成立したのかということがなぜ問題になるのかというと、契約が成立すると契約当事者はその契約に拘束され、お互いに債権・債務が生じるからです。

上の事例では、YはXにまだ20万円を渡していないので、契約は成立していません。そのため、約束をした後にYの気が変わって20万円を貸す気がなくなった場合、XはYに対して20万円の交付を強制することはできません。まだXとYとの間で契約は成立していないことから、XはYに対して債務を履行せよと請求することができないということです。

債権法改正後|諾成的消費貸借の許容

これに対し、改正法では当事者間の合意で成立する金銭消費貸借契約を明文で認めました。ただし、軽率な契約を防ぐために書面で契約を締結することが要件となっています(587条の2第1項、第4項)。書面の作成という一定の方式を必要とするため、このような契約を要式契約といいます。

つまり、今回の改正によって、消費貸借契約は原則として目的物を引き渡すことによって成立する要物契約であるものの、例外的に、書面を作成すれば当事者間の合意のみで成立する要式契約でもあることとなります。

上の事例でみると、XとYが20万円を借り受ける旨の契約書を作成しているのであれば、Yの気が変わって20万円を貸す気がなくなったとしても、XはYに対して20万円を渡すように請求することができることになります。

実は、このように金銭の交付なしに金銭消費貸借契約を成立させることは、「諾成的消費貸借契約」として、改正前から判例上認められてきました。実際に、以前から金融機関による融資は諾成的消費貸借であることが大半です。今回の改正は、このような諾成的消費貸借契約に関する従来からの判例や実務上の運用を追認し、明文化したものといえます。

もっとも、判例では書面の作成が必要ない不要式契約としての諾成的消費貸借契約が認められていましたが、貸主および借主による軽率な契約締結を防止するために、改正法は、要式契約としての諾成的消費貸借契約のみを認めました。

ただし、改正法では、書面により消費貸借契約を締結した場合でも、金銭を受け取る前であれば、借りる必要がなくなった等の事情により借主が契約解除することは可能とされました(587条の2第2項前段)。

借主が解除したことにより貸主に損害が発生した場合には、貸主は借主に対して損害賠償請求ができることもあわせて定められています(587条の2第2項後段)。

もっとも、貸主による損害賠償請求の対象は、貸主が金銭等を調達するために負担した費用などに限られ、貸主が借主から受け取る予定だった利息などは含まれないものと考えられています。特に貸主が金融機関など、契約を解除されたとしてもその資金を他の貸付先に流用することが容易である場合には、貸主には具体的な損害は発生しないと考えられています。

お問い合わせ

047-472-4530

フォームからの相談のご予約はこちら

当事務所へのアクセス

牧野法律事務所 アクセスマップ 大きな地図で見る

〒274-0825
千葉県船橋市前原西
2丁目13番13号大塚ビル5F
JR津田沼駅北口 徒歩2分
新京成線新津田沼駅から徒歩5分
JR船橋駅よりJR総武線6分(快速3分)

Tel.047-472-4530 [相談受付] 平日 9:30~17:30 ご相談・お問い合わせ