民法総則改正のポイントを徹底解説(第3回)~代理について~

監修:牧野法律事務所(千葉県弁護士会)
代表 弁護士

民法総則改正のポイントを徹底解説(第3回)~代理について~

2020年4月1日に一部の規定を除いて施行された改正法は、民法の第3編「債権」の規定およびそれと関係する第1編「総則」の一部規定が改正の対象になりました。

民法の第3編「債権」に関する改正事項は、すでに当事務所のコラムで全7回にわたって解説を行いました。
今回は前回に引き続き、下記の民法第1編「総則」の改正事項について解説をします。

  • 意思表示(心裡留保、錯誤、詐欺)に関する改正(93条~98条の2)
  • 代理に関する改正(99条~118条)
  • 無効及び取り消しに関する改正(119条~126条)
  • 時効に関する改正(144条~174条、ただし170条~174条は削除)

いずれも、第3編「債権」の契約に関する規定とかかわりが深く、重要な改正です。

上記の改正事項のうち、意思表示(心裡留保(しんりりゅうほ)、錯誤(さくご)、詐欺(さぎ))に関する改正は、「民法総則改正のポイントを徹底解説(第1回)~心裡留保について~」「民法総則改正のポイントを徹底解説(第2回)~錯誤、詐欺について~」で解説をしましたので、そちらをご覧ください。

第3回目の今回は、代理に関する改正を取り上げます。

代理に関する改正

契約の締結などを代理人に依頼することは、実務上よくあります。
これは委任による代理で、任意代理人といいます。

一方、未成年者が法律行為をするときには、親などが代理人として行うことができます。
これは法律で決まった代理で、法定代理人といいます。

任意代理人でも、法定代理人でも、代理人がその代理権の範囲内において、「本人の代理人である」ことを示してした意思表示は、本人に対して直接効果が帰属します。

代理に関しては従来の判例法理を明文化する改正が行われています。

以下では、代理権が濫用された場合と、自己契約及び双方代理について解説します。

代理権の濫用

事 例
Aは、自分の所有する土地を売却しようと思っていたが、交通事故に遭ってしまいしばらく入院することになってしまった。
そのためAは、土地の売却を代理するように親友Bに依頼した。
Bは、ちょうど借金に苦しんでいたため、土地の売却代金を着服する意図で、Aの土地をCに売却する契約を締結した。
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代理権の濫用とは、代理人が代理権の範囲内において、自己又は第三者の利益を図る目的で代理行為を行うことをいいます。

上記の事例で、代理人Bが与えられた代理権の範囲は、Aの所有する土地の売買契約を締結することです。
そのため、代理人Bが相手方Cとの間で行った土地の売買契約締結行為は、客観的には本人Aから与えられた代理権の範囲内です。

しかしながら、代理人Bは、主観的には代金を着服するという自己の利益を図る意図で代理行為を行っています。
したがって、この事例では代理権の濫用が問題となります。

改正前は、代理権の濫用に関する規定はありませんでした。
判例上は、代理人が行ったのはあくまでも代理権の範囲内であるので、原則として代理行為は有効であり、例外的に、代理行為の相手方が代理人の濫用的な意図を知っていたか、知ることができた場合にのみ、代理行為の効果が本人に帰属しないと解釈されてきました。

今回の改正は、従来の判例を踏襲し、以下の要件を満たす場合には本人に代理行為の効果が帰属しないことを明文化しました(107条)。

  • 代理人が自己又は第三者の利益を図る目的で代理権の範囲内の行為をしたこと
  • 相手方が代理人の目的を知り、又は知ることができたこと

したがって、(事例)に当てはめると、代理人Bは、主観的には代金を着服するという自己の利益を図る目的で、本人Aから与えられた土地の売買契約締結行為という代理権の範囲内の行為を行っています。

そのため、代理人BがB自身の利益を図る目的であるということを相手方Cが知り、または知ることができたときには、代理人Bと相手方Cとの間の売買契約の効果は、本人Aには帰属しません。

自己契約及び双方代理

代理権の濫用と類似するものとして、代理人による利益相反行為があります。
利益相反行為の典型例は、自己契約と双方代理といわれる類型です。

自己契約とは、契約の当事者の一方が、相手方の代理人になることをいいます。
例えば、次のような事例が該当します。

事 例
Aは、Bに対して、A所有の土地の売却に関する代理権を与えた。
Bは売却先を探したが、なかなか見つからなかった。
ふと、Aから頼まれた土地の場所をよく見たら、自分がマンションを所有している土地の隣であることが分かった。
そのためBは、Aのこの土地を購入して駐車場にしようと思い、売主をA、買主をBとする契約を、売主Aの代理人として締結した。
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双方代理とは、当事者双方の代理人となることをいいます。
例えば、次のような事例が該当します。

事 例
Aは、自己の所有する土地を売却しようと思い、Bにその土地の売却に関する代理権を与えた。
Cは、自分の所有する土地上でホームセンターを経営していた。売り上げがかなり伸びてきたので、近くの土地を買って倉庫を立ててもっと多くの在庫を準備したいと思い、Bに土地の購入に関する代理権を与えた。
Bは、Aが売却したい土地が、Cのホームセンターから車で5分程度であることに気づき、Aを売主、Cを買主として、A及びCの双方の代理人として土地の売買契約を締結した。
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自己契約と双方代理は、改正前は原則禁止とされていました。

これは、自己契約の場合、本人Aと相手方Bの利益が対立する関係であり、双方代理の場合、本人同士(AとC)の利益が対立する関係であるにもかかわらず、いずれの場合も契約の内容をBという1人の者が決められることになるので、契約内容の妥当性が確保されず、本人の利益が害される危険性があるからです。

自己契約の(事例)の場合、Bは、自分自身の利益を考えるとできるだけ安く土地を購入したいですし、Aの代理人として非常に安い値段で自分自身に売る契約を結ぶことができてしまいます。
その結果、本人Aの利益が害される危険が高くなります。

双方代理の(事例)の場合、Bが自由に契約内容を決めることができてしまいますので、本人のいずれか一方(AかC)の利益が害される危険があります。

改正前は原則として禁止であるとされていた自己契約と双方代理ですが、もしその禁止に反して自己契約や双方代理がなされた場合に、それがどのような「効果」を持つのかということは何ら規定されていませんでした。

今回の改正で、自己契約や双方代理がされた場合には無権代理となり、本人に代理行為の効果が帰属しないことが明文化されました(108条第1項)。

自己契約や双方代理が無権代理になると、無権代理に関する規定が適用されることになります(113条~118条)。

そのため、例えば、本人が事後的に、自己契約又は双方代理を追認すれば、その自己契約あるいは双方代理は有効になります(113条第1項)。

不利益を被る可能性がある本人自身が、禁止に反して行われた自己契約又は双方代理を承認するならば、その効果を否定する必要はないということです。

また、改正前の判例においては、自己契約や双方代理にあたらない場合であっても、代理行為を外形的・客観的に考察して、その行為が代理人にとって利益となり、本人にとって不利益となる場合には、利益相反行為になるとされていました。

今回の改正によって、判例が示した利益相反行為が明文化され、さらに、そのような利益相反行為は、本人が事前に許諾していない限り無権代理行為とみなされることが明文化されました(108条第2項)。

まとめ

代理行為については、今回解説しませんでしたが表見代理や権限踰越といった類型もあります。

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