債権法改正のポイントを徹底解説(第5回)~定型約款について~

監修:牧野法律事務所(千葉県弁護士会)
代表 弁護士

2017年5月に改正法が成立し、一部の規定を除いて2020年4月1日から施行されている債権法の改正について、すでに当事務所のコラムで4回に分けて解説してきました。これまでに解説した改正事項は、以下の通りです。

債権法改正のポイントを徹底解説(第1回)~法定利率と債務不履行責任について~
債権法改正のポイントを徹底解説(第2回)~詐害行為取消権について~
債権法改正のポイントを徹底解説(第3回)~保証契約について~
債権法改正のポイントを徹底解説(第4回)~債権譲渡、債務引受について~

第5回目の今回は、定型約款について解説を行います。定型約款はこれまで全く規定がなかった改正事項ですので、一般の事業会社だけではなく消費者にとっても非常に影響のある改正です。

定型約款に関する改正

多くの方が利用する鉄道やバスなどは、細かい取引の内容について利用者の個別の合意を取ることも、利用するたびに合意を取ることもありません。また、事業者側は、画一的な取引条項を用意していることがほとんどです。このような、多数の契約に用いるためにあらかじめ定式化された契約条項の総体を「約款」といいます。

約款を用いることは、事業者からすると大量の財・サービスを供給するためのコストを引き下げられるというメリットがあります。その結果、商品価格を引き下げることが可能となり、相対的に低廉な価格で消費者が供給を受けられることになります。
つまり、約款を用いることは、事業者だけではなく消費者にとってもメリットがあるということです。

しかしながら、約款を作成するのは事業者ですので、事業者が自己に有利な内容を規定したり、消費者に不利な内容に一方的に変更したりすることでき、消費者が不利益を被ることもあります。

このように、約款は契約当事者双方にメリットがあるため多くの契約で用いられるものの、他方、消費者が一方的な不利益を被るおそれがあります。それにもかかわらず、民法には約款に関する規定が一切ありませんでした。

また、民法の原則では、契約当事者は契約条項の内容を合意すること、少なくともそれらを認識していることが前提となっています。ところが、約款は多くの場合に逐一内容を確認されていないのが実情です。例えば、鉄道やバスの約款に目を通したことのある人は稀ではないでしょうか。

したがって、約款に法的拘束力を認めるとしても一般的な契約に関する諸原則との関係も問題になります。加えて、事業者ごとに事業内容に応じて様々な約款が作成されているので統一的なルールを設けにくく、また、統一的ルールを設けるべきであるのかという問題点もあります。

そこで、改正法は、約款の中でも特定の取引に関する約款についてのみ、法的拘束力が認められるための要件等を明確化しました。これまで約款をビジネスに活用してきた企業は、自社の約款が改正法の要件を満たすものなのか等を確認する必要があります。

定型約款の定義

約款のうち、「定型約款」の定義にあてはまるもののみが改正法の適用対象となります。「定型約款」に該当すると民法に規定された法的効果が認められます(548条の2)。

「定型約款」とは、この後説明する「定型取引」に関するものであり、かつ、その約款に記載した事柄を契約の内容とすることを目的として、定型取引を行う者(事業者等)により準備された条項の総体をいいます(548条の2第1項柱書)。

「定型取引」といえるためには、以下の2点を満たす必要があります。
①ある特定の者が不特定多数の者を相手方とする取引で、
②取引内容の全部又は一部が画一的であることが当事者双方にとって合理的なもの
それぞれの要件を少し確認していきます。

①の「ある特定の者」というのは事業者等のことで、約款を作成する側の契約当事者のことです。

「不特定多数の者」というのは、取引する際に相手方の個性に着目するか否かが判断基準となります。例えば、鉄道やバスなどは利用客の個性に着目しませんので「不特定多数の者」を相手方とする取引に該当します。

これに対し、労働契約の場合には労働者の個性に着目して取引を行いますので「不特定多数の者」を相手方とする取引に該当しません。したがって、労働契約に関する事柄を約款のような形で作成していたとしても、それは「定型取引」ではないため「定型約款」には該当せず、定型約款に関する法的効果を得ることはできません。
もちろん、定型約款に該当しないからといって契約条項のすべてが無効になるわけではありません。

②については、鉄道やバスなどが典型例です。事業者と利用客の双方にとって、個別の交渉をせずに利用客全員について取引内容の一部又は全部が全く同じであることが合理的であるといえます。

これに対して、事業者が自社の用意した契約書のひな形を使用した契約を相手に求めるケースに関しては、ひな形を用意する事業者側はともかく、相手方にとっては画一的な取引をすることが合理的とはいえません。このため、契約当事者の一方が用意した契約書のひな型に関しては、通常は「定型取引」に該当せず、「定型約款」にはあたらないと考えられています。

定型約款の組入要件

定型約款に関しては従来から、顧客が1つ1つの条項の内容を必ずしも認識していないにもかかわらず法的拘束力を及ぼして良いのかという問題意識がありました。そこで、改正法は、定型約款の1つ1つの条項の内容を顧客が認識していなくても合意があったものとみなし、契約内容とするための要件(組入要件)を定めました(548条の2第1項)。

定型約款に基づく合意があったとみなされるのは次のいずれかを満たす場合です。
①定型約款を契約の内容とする旨の合意をしたとき(548条の2第1項第1号)
②定型約款を準備した者があらかじめその定型約款を契約の内容とする旨を相手方に表示していたとき(548条の2第1項第2号)

以下、具体例を確認していきます。

①定型約款を契約の内容とする旨の合意があった場合

例えば、インターネット上で商品やサービスを購入する際には、利用規約への「同意」ボタンが表示され、これをクリックして契約が成立する仕組みが一般的です。これは、定型約款を契約の内容とする旨の合意があった場合にあたると考えられます。

②定型約款を契約の内容とする旨をあらかじめ相手方に「表示」していた場合

定型約款を契約の内容とする旨の合意がない場合であっても、例えば、保険契約などでは申込書とは別に定型約款が同封されていて、それが契約内容となることが申込書やパンフレットなどに表示されていることがあります。この場合にも、定型約款は合意の内容とみなされます。

なお、鉄道やバスなど、取引ごとに相手へ約款を「表示」することが取引の性質上困難である取引については、個別の業法において「公表」で足りる旨が例外的に定められていることがあります(鉄道営業法18条の2、道路運送法87条など)。

不当条項の排除(548条の2第2項)

もっとも、相手方が定型約款の条項に目を通していない以上、不当な条項が紛れ込んでいる可能性が否定できません。そこで、改正法は、相手方の利益を一方的に害する契約条項であって信義則(1条2項)に反する内容の条項については、合意されたとみなさないという例外規定を設けることで、相手方の利益にも配慮しています。

定型約款の内容提示義務(548条の3)

さらに、取引の前に相手方から定型約款の内容を示すよう請求があった場合には、事業者は定型約款の内容を示さなければなりません。
もし、事業者が正当な事由なく内容を提示しなかった場合には、定型約款の条項は契約内容にはなりません。

通常の取引ではこのような事態はあまり生じないと思われますが、例えば営業担当者が顧客の要求を面倒に感じて提示義務を果たさないままサービスの提供を開始してしまう場合などが考えられます。この場合、後から契約内容をめぐって顧客とトラブルになるリスクがあります。

定型約款の変更手続(548条の4)

継続的にサービスを提供する場合には、取引を巡る環境の変化などにより定型約款の内容を変更する必要が生じます。前述のとおり、民法の原則によれば契約内容を変更する際には契約当事者から個別の同意を取得しなければなりません。

しかし、定型約款が適用される画一的取引において個別の同意を得ることは現実的ではありません。そこで、改正法は、契約当事者から個別の同意を得ずに定型約款の内容を変更するための要件を定めました。

変更の相手方の一般の利益に適合する場合には、事業者は定型約款の内容を一方的に変更することができます(548条の4第1項第1号)。相手方にとって利益であるならば、一方的な変更であっても問題がないからです。

問題となるのは、変更の相手方にとって利益とはいいがたい内容へと変更する場合です。この場合に一方的な変更が全くできず、常に個別の同意が必要であるとすると、定型約款を作成している事業者側のメリットが少なくなってしまいます。とはいえ、利益とはいいがたい内容に一方的に変更される相手方には、不測の損害を与える可能性があります。

両者を調和する観点から、変更の内容が、その契約の目的に反せず、かつ、変更の必要性、変更後の内容の相当性、変更条項の有無及びその他の変更に係る事情に照らし合理的な場合には、変更することができます(548条の4第1項第2号)。

上記の変更の要件を満たしたとしても、それだけでは変更の効力は認められません。さらに、以下の要件を両方とも満たす必要があります(548条の4第2項)。
①定型約款の変更内容の効力発生時期を定めること
②変更の事実、変更後の定型約款の内容、効力発生時期を、インターネットの利用等によって周知すること

このような周知要件が定められているのは、消費者や利用者等に対する不意打ちを防止するためです。効力発生時期や変更の事実、変更後の定型約款の内容等を適切な方法により周知されれば、相手方は定型約款の変更の有無等を知ることができ、不意打ちにはなりません。

まとめ

現在使用している約款が定型約款に該当するかどうかや、どのように変更すれば定型約款に該当するか等、細かい点については弁護士にご相談ください。

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