民法総則改正のポイントを徹底解説(第6回)~消滅時効について②~

監修:牧野法律事務所(千葉県弁護士会)
代表 弁護士

2020年4月1日に一部の規定を除いて施行された改正法は、民法の第3編「債権」の規定およびそれと関係する第1編「総則」の一部規定が改正の対象になりました。

民法第1編「総則」の主な改正事項については、すでに下記の通り解説をしています。

  1. 「民法総則改正のポイントを徹底解説(第1回)~心裡留保について~」
  2. 「民法総則改正のポイントを徹底解説(第2回)~錯誤、詐欺について~」
  3. 「民法総則改正のポイントを徹底解説(第3回)~代理について~」
  4. 「民法総則改正のポイントを徹底解説(第4回)~無効、取消しについて~」
  5. 「民法総則改正のポイントを徹底解説(第5回)~消滅時効について①~」

第6回目の今回は、前回と同じく消滅時効に関する改正を解説します。今回扱うのは、時効の進行や完成を妨げる事由(時効障害事由)についてです。

時効障害事由

時効期間は、一定の事由が発生するとその進行や完成が妨げられます。改正前は、時効の「中断」と時効の「停止」の2種類が定められていました。今回の改正によって、名称も含めて大幅に変更され、時効の「更新」と時効の「完成猶予」の2種類になりました。

基本的には、これまで時効の「中断」とされていたものが「更新」に、時効の「停止」とされていたものが「完成猶予」に振り分けられています。ただし、改正によって中断事由から完成猶予事由に見直されたものもありますし、今回の改正によって新たに時効障害事由と定められた事由もあることに注意が必要です。

以下では、時効の更新と完成猶予について、まずはその効果について簡単に解説し、その後、具体的な事例を踏まえて解説します。

時効の更新

時効の更新とは、一定の事由が生じるとそれまでの時効期間がリセットされ、新たに時効が進行する場合をいいます。図で示すと下記のようになります。

時効の更新

時効の完成猶予

時効の完成猶予とは、一定の事由が発生した場合に、その事由が発生した時から一定期間又はその事由が消滅した時から一定期間が経過するまでは、時効の完成が猶予されることです。イメージとしては下記の図のようになります。

時効の完成猶予

時効の完成猶予-2

もっとも、時効の完成が猶予された後に、時効の更新がされる場合もあります。そのような場合については以下で確認していきます。

時効障害事由の具体例

時効の更新と完成猶予が生じる事由について、実際に考えられ得る時系列に沿って、催告、協議を行う旨の合意、仮差押え・仮処分、裁判上の請求等の順番で解説していきます。次に、どの段階でも生じうる事由である承認と天災等が生じた場合を解説します。

(事例)Xは、2020年にYに対して1000万円を貸し、返済日は2021年7月末日とした。返済日になってもYからの返済はなかったが、Xは、Yとは長年の友人なので返済してくれるのを待とうと考えた。とはいえ、2026年になってもYからの返済はなく、返済についての連絡もなかったので、さすがにXは不安になってきた。

上記の事例では、XはYに対して1000万円の貸金返還請求権を持っています。Xは、返済日である7月末日からこの権利を行使できることを知っていますので、2021年7月末日から5年を経過した2026年7月末日までに行使しないと、時効が完成し、権利が消滅してしまいます。そのため、Xは、時効が完成しないようにする必要があります。

催告(150条)

まず、Xは、Yに対して「1000万円を返せ!」と請求することが考えられます。このように、権利者が義務者に義務の履行をするよう請求することを催告といいます。催告は時効完成猶予事由であり、催告した時から6か月間、時効の完成が猶予されます(150条第1項)。

催告

ただし、催告を繰り返して時効の完成を引き延ばすことはできません(150条第2項)。催告は、あくまでも公的な手続きを行う前の暫定的な手続きですので、1回の催告によって権利の実現ができないのであれば、6か月以内に公的な手続きに移行する必要があります。

協議を行う旨の合意(151条)

XがYに1000万円を支払うよう催告をしてもYが支払わない場合に、Xがその権利について話し合うことをYに提案し、Yがそれを了承して当事者同士で話し合いが行われる場合も考えられます。

これまでは、権利について当事者同士で話し合いを行っていても、時効の完成が近くなると裁判所による手続き等を取らざるを得ませんでした。今回の改正によって、権利についての協議を行う旨の合意がなされた場合には、時効の完成が猶予される規定が新設されました(151条)。これにより、話し合いを継続することができ、当事者による自律的な解決が期待できるようになりました。

協議を行う旨の合意が行われた場合には、以下の3つのいずれか早い時まで、時効の完成は猶予されます(151条第1項)。

  1. その合意があった時から1年を経過した時
  2. 当事者間で、協議を行う期間を1年未満と定めたときはその期間を経過した時
  3. 当事者の一方から相手方に対して、協議の続行を拒絶する旨の通知が書面でされた場合には、その通知の時から6か月を経過した時

それぞれを図に示すと、以下のようになります。
1年未満の協議期間を定めた場合については、協議期間を4か月と仮定しています。

協議合意

協議合意-2

協議合意-3

注意が必要なのは、協議を行う旨の合意と協議の続行を拒絶する旨の通知は、必ず書面又は電磁的記録(メールや電子ファイルなど)で行わなければならないということです。これは、合意等があったか否かについての無用な争いを避けるためです。

当事者同士で話し合っても、すぐに解決するとは限りません。そのため、協議を行う旨の合意によって時効の完成が猶予されている間に、再度、協議を行う旨の合意がされた場合には、時効の完成がさらに猶予されます(151条第2項)。この点は、催告と大きく異なるところです。

もっとも、ある程度の期間話し合っても解決しないのであれば、もはや当事者による自律的解決は期待できません。また、時効制度が設けられた理由の1つは、時間の経過による証拠の散逸等によって事実関係の証明ができなくなるからです。そのため、いつまでも当事者同士で協議を行い続けるのは妥当とはいえず、適切な期間制限を行う必要があります。このことから、再度の協議を行う旨の合意によって時効の完成が猶予されるのは、本来の時効完成時から最長5年と定められました(151条第2項ただし書き)。

義務者が権利についての協議に合意する際に注意すべきこととして、義務の存在を承認しないようにする点です。例えば、Xが1000万円の貸金返還請求権を持っていることをYが認め、その返済方法について話し合いたいと提案した場合には、この後に説明する「承認」に該当してしまう可能性があります。

仮差押え・仮処分(149条)

Xは、Yから1000万円を確実に回収するために、Yが預貯金や不動産などの財産を処分しないように裁判所に申し立てることが考えられます。これが、仮差押えです。

仮差押えと仮処分は、改正前は、時効中断事由とされていました。つまり、仮差押え等が行われることによって時効が更新され、新たに時効期間がカウントされていました。

しかしながら、仮差押え等は、まだその権利の存否が確定していない段階で行われ、その後にその権利の存否に関する訴え等を行うことが予定された暫定的な手続きです。そのため、今回の改正によって、時効の完成が猶予されるにとどまることになりました(149条)。

仮差押え等の申立てが行われたときには、その事由が終了した時から6か月を経過するまでは、時効は完成しません。

問題になるのは、「その事由が終了した時」とはどの時点かということです。

争いがないのは、仮差押え等の申立ての却下や取下げが行われた時です。却下や取下げが行われた時から6か月間は時効の完成が猶予されます。

仮差押え・仮処分

争いがあるのは、仮差押え等を認める決定が下された時です。考え方は2通りあります。

1つは、仮差押え等の後に本案の訴え等が提起された時を「その事由が終了した時」と考える考え方です。

この考えからすると、債権者は、仮差押え等をしてしまえばもう時効の完成を気にする必要がありません。本案の訴え等をずっと提起しなければ、仮差押え等の効果はずっと維持されることになります。

もう1つの考えは、仮差押え等を認める決定が下された時や、その決定に基づいて登記等がされた時を「その事由が終了した時」と考えます。

この考えからすると、仮差押え等の決定が下されてから6か月以内に本案の訴え等を提起しなければ、時効が完成してしまうことになります。

立法担当者の説明やこれまでの判例からすると前者の考えになりそうですが、仮差押え等が暫定的な手続きであることを理由に、後者の考えを支持する実務家や研究者もいます。

そのため、万が一に備えて、仮差押え等の決定が下されてから6か月以内に本案の訴え等を提起しておく方が安心です。

なお、改正法施行前(2020年4月1日よりも前)に仮差押え等をした場合には、改正前の効力が維持されますので、時効は中断します。

裁判上の請求等(147条)

当事者で話し合っても解決できない場合には、Xは、Yを相手方として、裁判所に調停を申し立てたり、訴えを提起したりすることが考えられます。

改正前は、請求を行うことは時効更新(改正前は中断)の効力を生じ、ただし、訴えの却下又は取下げがなされたときは時効中断の効力を生じないと規定されていました。しかしながら、請求を行うだけで時効をリセットする効力を認めることに疑問が投げかけられていました。

今回の改正によって、まず、訴えの提起や調停の申立て、支払督促や破産手続参加等が行われることによって、その手続きが終了するまでの間は時効が停止し、時効の完成が猶予されることになりました(147条第1項)。

裁判上の請求等

そのような手続きの後、確定判決又はそれと同一の効力を有するものによって、権利が確定したときには、その時から新たに時効が進行します(147条第2項)。つまり、時効の完成が猶予されたのち、時効の更新がなされるということです。また、「民法総則改正のポイントを徹底解説(第5回)~消滅時効について①~」で解説した通り、確定判決等によって確定した権利の時効期間は、10年になります(169条第1項)。

裁判上の請求等-2

もし、確定判決等が出されなかった場合には、その事由の終了の時から6か月を経過するまでは時効の完成が猶予されますが、時効の更新はされません。訴えを提起したものの、訴えを取り下げた場合などが考えられます。

裁判上の請求等-3

このようにしてXは、様々な手続きを用いて時効の完成を遅らせたり新たに時効期間をスタートさせたりすることができ、これによって自分の持つ貸金返還請求権が時効により消滅するのを防ぐことができます。

承認(152条)

以上のような手続き以外にも、例えば、Xが催告したときにYがXの1000万円の貸金返還請求権の存在を認めて、返済の猶予を求める場合などが考えられます。

このように、義務者が権利者の持つ権利を承認する行為は、時効更新事由です。YがXの権利を承認することによって時効はリセットされ、新たに時効期間が進行します。この点は改正前後で変更はありません。

承認が時効更新事由とされているのは、権利の存在が当事者間で確定した以上、立証の困難や永続した社会状態の継続といった時効制度の根拠が当てはまらなくなり、権利の消滅を認める必要がないからです。

そのため、義務者が権利者のもつ権利を承認する場合だけでなく、義務者が権利者の持つ権利の存在を前提にした行為を行う場合にも、時効が更新されます。例えば、利息の支払いは元本の存在を前提にしていますので、利息を支払うことによって元本の存在を認めたことになります。

承認

承認は、特別な方法で行う必要はありません。そのため、義務者は、権利者に対する言動に注意する必要があります。相手の権利それ自体を認める言動をしていなかったとしても、相手に権利があることを前提とした言動をしてしまうことによってその権利を承認したことになり、時効による権利の消滅を主張することができなくなってしまうからです。

天災等(161条)

これまで解説した通り、様々な方法を用いて権利者は時効の進行や完成を妨げることができます。しかしながら、自然災害等によって、そのような手続きを行うことができない場合が考えられます。

このような場合に時効の完成を認めてしまうのは権利者に酷です。そのため、天災その他避けることのできない事変が生じ、それによって、裁判上の請求等所定の手続きを行うことができなかったときは、天災等による障害が消滅した時から3か月間は、時効の完成が猶予されます。改正前は2週間でしたが、改正によって3か月に伸長されました。

天災等

まとめ

今回の改正によって、時効障害事由に大きな修正が加えられました。名称が変更されるだけでなく、改正前から認められていた時効障害事由の効果が変更されたり、新たな事由が規定されたりするなど、実務に大きな影響があります。消滅時効は時間との戦いですので、時効間近の権利をお持ちでどうすればいいか困っている方は、お早めに弁護士にご相談ください。

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