民法総則改正のポイントを徹底解説(第7回)~消滅時効について③~

監修:牧野法律事務所(千葉県弁護士会)
代表 弁護士

2020年4月1日に一部の規定を除いて施行された改正法は、民法の第3編「債権」の規定およびそれと関係する第1編「総則」の一部規定が改正の対象になりました。

民法の第3編「債権」に関する改正事項は、すでに当事務所のコラムで全7回にわたって解説を行いました。そして、民法第1編「総則」の主な改正事項については、すでに下記の通り解説をしています。

  1. 「民法総則改正のポイントを徹底解説(第1回)~心裡留保について~」
  2. 「民法総則改正のポイントを徹底解説(第2回)~錯誤、詐欺について~」
  3. 「民法総則改正のポイントを徹底解説(第3回)~代理について~」
  4. 「民法総則改正のポイントを徹底解説(第4回)~無効、取消しについて~」
  5. 「民法総則改正のポイントを徹底解説(第5回)~消滅時効について①~」
  6. 「民法総則改正のポイントを徹底解説(第6回)~消滅時効について②~」

第7回の今回が、民法総則の改正に関する最後の解説です。

今回も、消滅時効に関する改正事項を解説します。今回扱うのは、不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効と、生命・身体を害する損害賠償請求権の消滅時効についてです。これらは、交通事故や医療事故など身近な事柄に関係していますし、また、新たな規定が作られているので、実務への影響は大きいといえます。

以下ではまず、不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効に関して、改正によって修正が加えられた点を解説します。次に、今回の改正によって新たな規定が作られた生命・身体を害する損害賠償請求権の消滅時効について、不法行為に基づく場合と債務不履行に基づく場合とに分けて解説します。

不法行為に基づく損害賠償請求権の時効

(事例①)Xが自動車を運転していたところ、赤信号を見落としたYの運転する自動車にぶつけられた。幸いなことにXに怪我はなかったが、Xの自動車のヘッドライト部分は大きく損傷した。XはすぐにYに対して修理費を請求しようと思っていたが、事故の後に急に仕事が忙しくなってしまってそのまま放置していた。

交通事故や不貞行為など契約関係にない当事者間で損害が発生した場合には、不法行為に基づく損害賠償請求権が発生します。(事例①)のXは、Yに対して不法行為に基づく損害賠償を請求することができます。

不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効は、第5回のコラムで解説した5年又は10年の消滅時効とは別に規定されています。特別な消滅時効の規定があるという点は、改正前後で異なりません。

そして、不法行為に基づく損害賠償請求権は、損害及び加害者を知った時から3年又は不法行為の時から20年のいずれか早い方の経過によって時効が完成します(724条)。時効期間と時効の起算点も、後で解説する生命・身体を害する場合を除いて改正前後で異なりません。

不法行為に基づく損害賠償請求権
(人の生命・身体を害する場合を除く)
損害及び加害者を知った時
(主観的起算点)
3年
不法行為の時
(客観的起算点)
20年

今回改正されたのは、20年という時効期間の性質です。改正前の判例では、この期間は除斥期間であると解釈されていました。除斥期間とは、期間の経過によって当然に権利が消滅するものであり、前回のコラムで解説したような時効障害事由があっても時効の進行や完成は妨げられません。したがって、除斥期間と解釈されると、権利を行使する側にとって不利益となる可能性がありました。

今回の改正で、不法行為の時から20年という期間は消滅時効であると定められました。除斥期間ではなくなりましたので、時効障害事由があれば時効の進行や完成が妨げられることになります。

生命・身体を侵害されたことによる損害賠償請求権の時効

(事例②)Xが自動車を運転していたところ、赤信号を見落としたYの運転する自動車にぶつけられた。この事故によってXは怪我をし、自動車も破損した。XはすぐにYに対して治療費と修理費を請求しようと思っていたが、しばらく放置してしまった。

事例②は、事例①と同じく交通事故ですので、XはYに対して不法行為に基づく損害賠償を請求することができます。事例①と異なる点は、Xの身体が害されている点です。このような生命・身体を侵害されたことによる損害賠償請求権の消滅時効に関する規定が、今回の改正で新設されました。新設規定はこの後解説します。

生命・身体が侵害される場合は、不法行為による場合だけではありません。下記の事例③のように、契約関係がある場合にも生命・身体の侵害が発生することがあります。

(事例③)Xは腕を骨折し、病院に入院した。Y医師が手術を担当したが、誤って神経を傷つけてしまい、Xには腕の麻痺が残ってしまった。

事例③のXとYとの間には、診療契約が存在します。そのため、XはYに対して、債務不履行に基づく損害賠償を請求することもできますし、不法行為に基づく損害賠償を請求することもできます。

人の生命・身体はとても重要な利益ですので、生命・身体を侵害された被害者を保護する必要性が高いといえます。また、入院や治療など日常生活と異なる状況が長期間にわたることがあり、請求権を迅速に行使することが期待できない場合もあります。そのため、今回の改正によって、生命・身体を侵害されたことによる損害賠償請求権の時効期間を伸長する新しい規定が作られました(167条、724条の2)

以下では、生命・身体を侵害されたことによる損害賠償請求権について、不法行為に基づく場合と債務不履行に基づく場合をそれぞれ解説します。

生命・身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権の時効

前述のとおり、不法行為に基づく損害賠償請求権の時効は、損害及び加害者を知った時から3年又は不法行為の時から20年のいずれか早い期間の経過によって完成します。

これに対し、生命・身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権は、損害及び加害者を知った時から5年に伸長されました(724条の2)。不法行為の時から20年という期間に修正はありません。いずれか早い期間の経過によって時効が完成します。まとめると、以下のようになります。

不法行為に基づく
損害賠償請求権
(人の生命・身体を
害する場合を除く)
人の生命・身体を害する
不法行為に基づく
損害賠償請求権
損害及び加害者を知った時
(主観的起算点)
3年 5年
不法行為の時
(客観的起算点)
20年 20年

生命・身体を害する債務不履行に基づく損害賠償請求権の時効

債務不履行に基づく損害賠償請求は、第5回のコラムで解説した通り、権利を行使できることを知った時から5年、権利を行使することができる時から10年のいずれか早い期間の経過によって時効が完成します(166条)。

改正によって、人の生命・身体を害する債務不履行に基づく損害賠償請求権は、権利を行使することができる時から20年に伸長されました(167条)。権利を行使できることを知った時から5年という期間に変更はありません。いずれか早い期間の経過によって時効が完成します。表にすると以下のようになります。

債務不履行に基づく
損害賠償請求権
(人の生命・身体を
害する場合を除く)
人の生命・身体を害する
債務不履行に基づく
損害賠償請求権
権利を行使できることを
知った時(主観的起算点)
5年 5年
権利を行使できる時
(客観的起算点)
10年 20年

生命・身体を侵害されたことによる損害賠償請求権の時効のまとめ

以上をまとめると、債務不履行・不法行為のいずれであるかを問わず、生命・身体を侵害されたことによる損害賠償請求権の消滅時効は、以下の表の通りになります。

起算点 時効期間
権利を行使できることを知った時
損害及び加害者を知った時
(主観的起算点)
5年
権利を行使できる時
不法行為の時
(客観的起算点)
20年

まとめ

これまで3回にわたって解説してきた通り、消滅時効は改正前後で大きく異なっています。統一化が行われたことによって改正前よりもわかりやすくなった部分もありますが、まだまだ多くの例外規定があります。ご不安がある方は、まずはお早めに弁護士にご相談ください。

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