相続が発生したら行う手続きの流れ
監修:牧野法律事務所(千葉県弁護士会)
代表 牧野 房江弁護士
「相続は、死亡によって開始する。」と民法に定められています。
これは、人が亡くなったら自動的に相続が始まるということです。
相続が開始すると、法律で決めらた関係の人は亡くなった方の財産に関する一切の権利・義務を原則として引き継ぐことになります。
「一切の権利・義務」というのは、預貯金などのプラスの財産(権利)だけでなく、借金などのマイナスの財産(義務)も引き継ぐことになるということです。
身近な方が亡くなったら、具体的に何をしたらよいのでしょうか。
今回のコラムでは、手続きの大まかな全体像を解説します。
目次
身近な方が亡くなったら行う手続きの流れ
1.遺言書の有無を確認
遺言書がある場合には、原則として遺言書に従って遺産の分配がされます。
遺言は、遺言者が亡くなったときから効力を持つようになり、そのときから遺言で指定された人(相続人に限りません)は、指定された財産を取得することになります。そのため、まずは遺言書の有無を確認する必要があります。
なお、受遺者(じゅいしゃ・遺言で贈与を受ける人)は、遺言者が亡くなってからいつでも遺贈(いぞう・遺言による贈与)を放棄する(受け取らない)ことができます。
また、遺言者が亡くなる前に受遺者が亡くなったときは、その受遺者に対する遺贈はされません。遺言で「Aが遺言者の死亡前または死亡と同時に死亡した場合は、Bに〇〇を遺贈する。」のように指定がない限り、受遺者の子が代わりに遺贈されるようなことはありません。
特に注意が必要なのは、自筆証書遺言を見つけたときです。
自筆証書遺言については、「遺言書の検認」という手続きを遺言者の最後の住所地を管轄する家庭裁判所で行わなければなりません。
封印されている場合には、封を開けずに検認手続きを行ってください。
なお、自筆証書遺言でも、法務局に保管されていた場合は、検認手続きは不要です。
遺言書の探し方や見つけたときの対応は、当事務所コラム「遺言書の探し方と見つけたとき」を参考にしてください。また、遺言書を法務局に預ける制度もスタートしていますので、「約40年ぶりの相続法改正!改正法の内容を徹底解説(第2回)~自筆証書遺言制度、配偶者居住権制度について~」も、確認してください。
2.遺産の調査、把握
次に、遺産に何があるのかを調査します。
亡くなった方の遺品を整理しながら、通帳や土地の権利証などがないか確認することになります。また、郵便物をチェックすると、銀行口座や証券口座、借金などがわかることもあります。さらに、市区町村役場から送られてくる固定資産税納税通知書によって、所有している不動産が判明します。
遺言書に遺産が書いてあっても、亡くなった時点で存在するとはかぎりません。遺言の対象となっている遺産を亡くなる前に処分してしまった場合、その部分の遺言は撤回されたとみなされます。逆に、遺言書を書いた後に増えた遺産もあるかもしれません。遺言に書いてある遺産を参考に、あらためて調査した方がいいでしょう。
通帳が全く見つからない場合や、亡くなった方から存在を聞いていたのに資料が見つからない場合などは、金融機関等に相続人であることがわかる戸籍等全部事項証明書を見せれば、口座等の有無について照会することができます。
銀行口座の取引履歴(収入・支出)を確認して、賃料収入や配当収入、クレジットカードの支払いやローンの返済などが見つかることがあります。
最近では、ネット銀行やオンライン通帳の利用などにより、口座が見つけにくくなっています。エンディングノートを利用したり、ご家族でいろいろなことを常日頃から話し合っておくことも有効です。
借金については、亡くなった方が家族に秘密にしている場合がありますので、借入先からの郵便物などが無いかどうか徹底的に探して、必要に応じて信用情報機関に情報開示請求を行うなどしましょう。
3.遺産を引き継ぐ人の確認
相続人が複数いる場合、遺産は共有となります。
各相続人は、法律で決まった割合に応じて、亡くなった方の権利・義務を引き継ぎます。
相続手続きは全員で行わなければいけないので、誰が遺産を引き継ぐ権利があるのかということを確認する必要があります。
これは、亡くなった方の戸籍を死亡から出生までさかのぼって集めて確認することになります。
誰が遺産を引き継ぐ権利を取得するのか、各相続人の引き継ぐ割合については、「相続人とその法定相続分について」でご確認ください。
戸籍の集め方や相続人を探す方法は、当事務所のコラム「相続手続きで必要な戸籍を集める方法」と「相続手続きのために死亡から出生まで戸籍をさかのぼる方法」を参考にしてください。
遺産を引き継ぐ権利のある人がいるけれど、住民票の住所に手紙を出しても「宛所に尋ねあたりません」で返ってきてしまう、親戚に聞いても居所がわからないなど行方不明の場合は、家庭裁判所に「不在者財産管理人」を選任してもらい、「不在者財産管理人」に遺産分割協議に参加してもらいます。
遺産を引き継ぐ権利のある人がいるけれど、判断能力が衰えていて、遺産分割協議が難しい場合は、家庭裁判所に「成年後見人」を選任してもらい、「成年後見人」に遺産分割協議に参加してもらいます。
戸籍を確認しても相続人となる人がいない場合は、「相続人がいない?そんなときは相続財産清算人!」をご覧ください。
4.引き継ぐか、引き継がないのかの選択
相続人になったからといって、必ず遺産を引き継がなければならないわけではありません。
引き継ぐかどうかを選択することができます。
選択肢は、単純承認、限定承認、相続放棄の3つです。
単純承認
単純承認は、亡くなった方の資産と債務の全てを引き継ぐ方法です。
次に説明する、限定承認や相続放棄の手続きを期間内(自分が相続人となったことを知った時から3か月以内)に行わないと、自動的に単純承認になります。
また、3か月以内であっても、遺産の全部または一部を処分・隠匿した場合などは自動的に単純承認になるので注意が必要です。
単純承認の詳細は、当事務所のコラム「単純承認及び限定承認」で確認してください。
限定承認
限定承認とは、遺産の範囲内で債務を返済し、範囲を超えた部分の返済義務は引き継がない方法です。
プラスの財産とマイナスの財産を比べたときに、どちらが多いかわからない場合や、家業を継ぐ際に遺産の範囲内であれば債務を引き継ぐ場合などに利用されます。
例えば、限定承認の手続きをすると、プラス財産が1000万円でマイナス財産が3000万円だったとしても、プラス財産の範囲内であるマイナス財産(1000万円)のみ返済することになり、残りの2000万円のマイナス財産については負担を免れるということです。
限定承認をする場合は、自分が相続人となったことを知った時から3か月以内に、亡くなった方の最後の住所地の家庭裁判所に「限定承認申述書」を提出する必要があります。
また、相続人が複数名いる場合は、相続人全員でなければ限定承認の手続きは行えないので、全員でよく話し合いをしましょう。
限定承認の詳細についても、当事務所のコラム「単純承認及び限定承認」を確認してください。
相続放棄
相続放棄とは、財産に関する一切の権利・義務を全く引き継がない方法です。
マイナスの財産の方が明らかに多い場合や、他の相続人に遺産を引き継いでもらいたい場合、争いに関わりたくない場合などに選択する方法です。
相続放棄の申述手続きにも、自分が相続人となったことを知った時から3か月以内という期間制限があります。
3か月以内に相続財産の調査が間に合わず、放棄するか決められない場合には、家庭裁判所に「相続の承認又は放棄の期間の伸長」を申し出ましょう。
放棄の申述手続きをすると、その件に関して、最初から相続人ではなかったことになります。
最初から相続人ではないので、放棄をした方の子が代襲相続人として遺産を引き継ぐ権利を得ることはありません。
亡くなった方の子どもが全員放棄の手続きをした場合、亡くなった方の親が相続人になります。
その親も放棄の手続きをすると、亡くなった方の兄弟姉妹が相続人になります。
このように、誰かが放棄をすると、亡くなったときに相続人ではなかった人が相続人になることがあります。
放棄の申述手続きの仕方は、当事務所のコラム「相続放棄とは?法的な効果や活用法、手続の仕方について」、「相続放棄の手続きを自分でする方法」を、3か月以内という期間制限を過ぎてしまった場合は、「3ヶ月過ぎてからの相続放棄ってできる?」をご覧ください。また、放棄によって相続人が変わるのはどういった場合かについては「相続人とその法定相続分について」で解説していますので、そちらをご覧ください。
5.遺言の内容により遺留分侵害額請求
遺言で、特定の人に遺産をすべて贈与するといった内容が書かれていても、兄弟姉妹以外の相続人には、一定の遺産を受け取る権利が保障されています。これを遺留分といいます。
遺留分が侵害されている場合には、相続の開始と、自分の遺留分を侵害する贈与または遺贈があったことを知った時から1年以内に遺留分侵害額請求を行わなければなりません。
また、上記についてずっと知らなかった場合でも、亡くなってから10年経つと権利行使ができなくなります。
もし遺留分が侵害されている場合であっても、それで構わないというのであれば、遺留分の権利を行使しないこともできます。
遺留分については、当事務所のコラム「遺留分って?」で解説していますのでご覧ください。
また、2018年の民法改正で遺留分減殺請求権が遺留分侵害額請求権に変わっていますので、その点について知りたい方は「約40年ぶりの相続法改正!改正法の内容を徹底解説(第4回)~遺留分制度、特別寄与料、持戻し免除の意思表示の推定規定について~」をご覧ください。
6.共同相続人全員で遺産の分割方法の話し合い
遺産を引き継ぐかどうかの選択が終わると、相続人が確定します。
確定したら、相続人全員で具体的な遺産の分割方法を話し合います。
民法に各相続人が引き継ぐ遺産の割合の規定がありますが(これを「法定相続分」といいます)、全員の合意があれば、法定相続分と異なる分割方法でも問題ありません。
具体的な分割方法には、「現物(げんぶつ)分割」「代償(だいしょう)分割」「換価(かんか)分割」「共有(きょうゆう)分割」があります。
「現物分割」は、不動産はAさん、預金はBさん、株式はCさん、自動車はDさんのようにそれぞれの財産をそのまま分ける方法です。
「代償分割」は、Aさんが遺産のすべてを引き継ぐ代わりに、BさんとCさんにそれぞれ代償金を支払うような方法です。
遺産が不動産と少しの預金だけなど、現物分割が難しい場合で、Aさんに代償金を支払うだけの資金があるときに選ばれる方法です。
「換価分割」は、遺産を売却して現金化してから、それを分ける方法です。
遺産に不動産が含まれていて、取得希望者がいない、代償金を支払うだけの資金がない、などの場合に選ばれますが、売却できる(買い手が見つかる)不動産であることが前提となります。
「共有分割」は、遺産の一部または全部を共有取得する方法です。
例えば、遺産がマンションの1室のみで、高齢の妻はそこに住み続けたいけれど、子ども2人に対して代償金を支払えない。子どもも代償金を支払うだけの資金はないという場合に、妻は不動産の持分2分の1、子どもはそれぞれ持分4分の1ずつ一緒に所有するような方法です。
遺産のうち、お金は簡単に分けることができますが、不動産はそうはいきません。
不動産の分割方法は、「自宅不動産を相続するときの考え方」に参考になる部分がありますので、ご覧ください。
また、相続人の中に、生前多額の贈与を受けた人や献身的に介護した人などがいる場合には、遺産の分配に「特別受益」や「寄与分」が関係する可能性があります。
特別受益については「特別受益って何?仕組みや計算方法について」、寄与分については「法改正に対応 寄与分と特別寄与料について」をご覧ください。
気を付けた方が良いのが、借金などの債務がある場合です。
借金などの可分債務(分けられる債務)は、遺産分割の対象とならず、債権者に対しては、自分の法定相続分にあたる債務について責任を負うとされています。
もし、遺産分割で債務を特定の人が引き継ぐ合意をする場合は、あらかじめ債権者の合意をとりつける方が良いでしょう。
全員で分割方法の合意ができたら、後で争いが起きないように、合意内容を「遺産分割協議書」という文書で残すことが大切です。
遺産分割協議書を作成するときには、「遺産分割協議書の作成のポイント」を参考にしてください。
分割方法が決まらないときや、話し合いができないときには、家庭裁判所に遺産分割の調停又は審判を申し立てることになります。遺産分割調停については、「遺産分割調停とは?」をご覧ください。
7.必要があれば税の申告および納税
必要な場合は、税の申告と納税をします。
所得税については、相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月以内に、準確定申告と納税をすることになります。
相続税については、相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内に、申告書を納税署に提出し、納税します。
相続税など税金については、税理士にご相談ください。
8.各種の名義変更手続きや役所等への届出・申請
最後に、遺言書や遺産分割協議などに基づいて亡くなった方の名義になっている相続財産の名義変更や解約手続きなどをし、遺産の分配をします。土地や建物については、相続登記手続きが必要です。
不動産の登記については、司法書士にご相談ください。
弁護士に相談・依頼することをおすすめする事例
以上のような流れで相続の手続きは行われますが、個々の事情により手続きの方法・進め方は異なります。
そもそも相続の手続きは人生において何度も発生しないため、多くの方は何から手をつけたらよいのか、費用はどれくらいかかるのか、どういう手順で進めたらよいのか、誰に相談したらよいのかなど、わからないことが多々あると思います。
また、手続きには期限が定められているものがあり、すぐに手続きをしなかったことにより不利益を被る場合もあります(詳しくは「相続に関するタイムリミット(期限)」をご覧ください。
放っておいて誰かが代わりにやってくれるものではありませんし、役所などから期限等について連絡がくることも基本的にはありません。相続人自らが進めていく必要があります。
ただし、相続人自ら手続きを進めなければならないといっても、相続人が複数いる場合は、一人で勝手に遺産を処分することはできないので、注意が必要です。
遺産の全体の把握や、相続人の確定の作業に関しては、戸籍の収集・読み取り、不動産の登記簿のチェック、不動産の価値の把握など専門的な知識を要する箇所もありますので、正確かつスムーズに遺産の把握、相続人の確定の作業を進めたい方や、下記に該当する方は、弁護士に相談されることをおすすめいたします。
- 遺産が多い
遺産が多いと、把握するだけでも大変ですが、遺産分割協議が終わって実際に分配するときも大変です。各金融機関の窓口に行ったり、書類のやり取りが必要になります。 - 手続きに時間を使っていられない
相続人を確認するための戸籍集めや、遺産を把握するための手続きなどは、時間も手間もかかります。
また、行方不明の相続人がいる場合や、判断能力が衰えている相続人がいる場合は、別途家庭裁判所の「不在者財産管理人選任申立て」や「後見開始の審判申立て」の手続きが必要になる可能性があります。 - 相続人間でもめる可能性がある
相続は「争族」と揶揄されることもありますが、それまでの平穏な関係が相続をきっかけに悪化することがあります。
生前、生活費を援助してもらった、不動産購入の頭金を出してもらった、介護を一人で担っていたなどの事情がある相続人がいると、遺産分割の話し合いでもめる可能性があります。
また、一度も会ったことがない人やもともと折り合いが悪い人がいる場合、直接連絡を取り合うのは精神的負担が大きく、話し合いも時間がかかることが多いです。 - 相続発生後時間が経ってしまっている
亡くなってから時間が経過していると、相続人が亡くなっていてさらに相続が発生するなど、関係が複雑になる場合があります。
まとめ
これまで見てきたとおり、相続の手続きは複数の段階を踏みながら多くの手続きをしなければなりません。
遺言書は、自宅内だけでなく、貸金庫や公証役場、法務局なども保管されている可能性があります。
遺産の調査については、特に借金や保証債務などの債務がないかどうか、しっかり確認した方がよいでしょう。
遺産の内容によって「引き継ぐか、引き継がないのか」の判断をすることになります。
「引き継ぐか、引き継がないのか」の判断は、自分が相続人であることを知ってから3か月以内にしなくてはいけないので、多額の借金が3カ月以上経ってから出てくると、困ったことになります。
遺産を引き継ぐ人の確認では、亡くなった方の戸籍を死亡から出生までさかのぼって集めなくてはいけないので、大変なことが多いです。戸籍を集めてみて、前妻との間に子どもがいた、養子縁組している兄がいた、兄弟のように育ったけれど実は戸籍上の繋がりがなかった、などの事実が判明することがあります。
日ごろから交流のある者同士で遺産分割協議をするのは気安いかもしれませんが、疎遠だった人との協議はどう進めたらいいのか不安になるのではないでしょうか。
また、相続の手続きの中には、期限があるものもあります(詳しくは「相続に関するタイムリミット(期限)」をご覧ください)。
相続は、皆さん事情が異なります。
ご自身だけでは不安があったり判断に迷ったりする場合には、弁護士にお気軽にご相談ください。