亡くなった方に後見人がいるときは…どうなる?財産の引継ぎ

監修:牧野法律事務所(千葉県弁護士会)
代表 弁護士

亡くなった方に後見人がいるときは…どうなる?財産の引継ぎ

認知症などによって判断能力が衰え、自分で財産を管理できなくなってしまった場合、家庭裁判所に成年後見人を選任してもらい、成年後見人がご本人に代わって財産を管理することがあります。

最高裁判所によると、2021年(令和3年)は28,052件の後見開始申立てがあり、2021年12月末時点で成年後見の利用者は177,244人とのことです。そして、選任された成年後見人とご本人の関係を見ると、8割強が親族以外の弁護士や司法書士等ということです。
身近な方に成年後見人が選任されることは、珍しくなくなってきたのではないでしょうか。

とはいえ、例えば成年後見人がついている親が亡くなったとき、

  • どのような流れで成年後見人から財産を引き継ぐのか?
  • 相続人が何人かいる場合は、誰が財産を引き継ぐのか?
  • 成年後見人がなかなか財産を引き継いでくれない場合はどうするのか?
  • 亡くなった後に成年後見人はどのようなことができるのか?


など、わからないことが多いと思います。

このコラムでは、亡くなった方に成年後見人がいるときに、どのような流れで財産の引継ぎがされるのか、亡くなった後の成年後見人の仕事などについて、見ていきます。

なお、成年後見人の制度について詳しくは、「成年後見制度について」をご覧ください。

亡くなった後の財産の引継ぎ

ご本人が亡くなると、後見が終了し、原則として成年後見人は「成年後見人」ではなくなり、それまでのように「成年後見人」としてご本人を代理することはできなくなります。

では、それまで成年後見人が管理していたご本人の財産は、どうなるのでしょうか。
ご本人の財産に関する権利義務は、ご本人が亡くなったと同時に、自動的に相続人が承継します。

相続人になる人は、民法で決まっています。
配偶者(夫または妻)がいる場合、配偶者は必ず相続人になります。
子がいる場合は、子(第一順位)
子がいない場合または子が全員相続放棄した場合は、親(第二順位)
親が亡くなっている場合または両親とも相続放棄した場合は、兄弟姉妹(第三順位)です。

ただ、権利義務が相続人に承継されたと言っても、現金や預金通帳、不動産の登記識別情報等は元成年後見人の管理下のままです。

そこで、成年後見人は、ご本人が亡くなってから2か月以内に「管理の計算」をして、財産を相続人に引き継ぐことになっています。
「管理の計算」は、成年後見人の任務中の財産の収入・支出を明らかにして、現在の財産額を計算することです。
なお、成年後見人がご本人の相続人である場合は、他の相続人への引継ぎをしないで、引き続き相続人として財産を管理することもあります。

では、相続人が2名以上いる場合は、どうなるのでしょうか。

また、相続人が全くいない場合は、どうなるのでしょうか。

遺言書がある場合、違いがあるのでしょうか。

相続人が2名以上いる場合の引継ぎ

財産の引継ぎ

相続人が2名以上いる場合は、相続人間で決めた代表者1名に引継ぐのが一般的です。
ほかには、相続人間で遺産分割協議をして、合意内容に基づいて、各相続人に各財産を引き継ぐ方法(例えば、自宅は妻、A銀行の預金は長男、B証券会社の株式は長女に引継ぐなど)があります。

すんなりと代表者や遺産分割方法が決まれば問題ありません。
しかし、相続人間でもめている場合、なかなか引継ぎができないことになります。
そのような場合に、他の相続人の合意なく一人の相続人に引き継いでしまうと、成年後見人が他の相続人から責められる可能性があります。
かといって、すでに「成年後見人」ではなくなったのに、話し合いがまとまるまで長期間財産を持っているのは、適当ではありません。

そこで、相続人間でもめていて、引き継ぐ代表者を決められない、遺産分割協議がまとまらないときは、成年後見人が家庭裁判所に「相続財産の管理人」の選任申立をすることがあります。
「相続財産の管理人」は、その名のとおり、相続財産(亡くなった方の財産)を管理する人です。
多くの場合、弁護士や司法書士が選任されます。
成年後見人は相続財産の管理人に引継ぎをして、相続人間で遺産分割が決着した後に、相続財産の管理人から相続人に引継ぎが行われます。

相続人が全くいない場合の引継ぎ

相続人がいないときの引継ぎは?

相続人が全くいない場合、というのは、もともと相続人がいないとか、亡くなっている場合と、相続人はいたけれど全員相続放棄をした場合があります。

もともと相続人がいない、亡くなっている場合は、「相続財産の清算人」の選任申立をして、相続財産の清算人に引継ぎします。
「相続財産の清算人」は、亡くなった方の預貯金や有価証券、不動産などのプラスの財産を換価し、借金などのマイナスの財産を支払い、余った財産を国に納める人です。

相続人はいたけれど全員相続放棄をした場合も、相続放棄が受理された時点で最初から相続人ではなかったとみなされ、引き継ぐ相手がいなくなってしまうので、「相続財産の清算人」に引継ぎます。
ただ、ご遺体の管理や葬儀、火葬、埋葬、祭祀供養などについては、相続放棄の手続きとは別とされ、相続放棄をしたからといって葬儀等を主宰する権限や義務がなくなるわけではありません。お仏壇やお墓等も遺産分割の対象とは考えられていません。裁判所では、通常の相続によるのではなく、慣習に従って継承するとされています。
なお、「相続放棄」というのは、裁判所で行う手続きです。ただ「私は何の関係もないから。」と宣言したり、「私は何も相続しません。」と一筆書くだけでは「相続放棄」したことにはなりませんので、ご注意ください。
相続放棄について詳しくは、「相続放棄とは?法的な効果や活用法、手続きの仕方について」をご覧ください。

ほかには、相続人は全くいないけれど、ずっとご本人のお世話をしていた方がいる場合があります。
例えば、ご本人が未婚の一人っ子で、両親、祖父母も亡くなっていて、近くに住んでいるいとこが長年ご本人の身の回りのお世話をしていた場合、いとこに引き継げるようにも思えますが、いとこは相続人ではないので、引き継げません。
そこで、成年後見人は相続財産の清算人に引き継ぐことになります。
では、いとこは何も受け取れないのかというと、そうでもありません。
相続財産の清算人がご本人の財産を清算する過程で、いとこは家庭裁判所に「特別縁故者に対する相続財産分与」申立てをすることができます。申立が認められると、いとこはご本人の財産のすべてまたは一部を受け取ることができます。

遺言がある場合の引継ぎ

遺言書があるときの引継ぎ

ご本人が遺言を残している場合は、引継ぎも変わってくる可能性があります。

遺言の種類によっては、まず遺言書を保管・発見した方が家庭裁判所に「遺言書の検認」申立てをしなければいけません。

「遺言書の検認」が必要なのは、法務局以外で保管していた自筆証書遺言(ご本人が手書きした遺言)、秘密証書遺言(封印した後に公証役場で認証してもらった遺言)です。
逆に言うと、法務局で保管していた自筆証書遺言と公正証書遺言(公証役場で作成した遺言)は「遺言書の検認」が不要です。

その後は、遺言の内容によって、流れが変わります。

  • 遺言で「遺言執行者」が定められている場合
    成年後見人は「遺言執行者」に引継ぐことになります。
    「遺言執行者」について詳しくは、「遺言書を書く前に知っておきたい遺言執行者のこと」をご覧ください。
  • 遺言で「遺言執行者」が定められていないけれど、「遺言執行者」でなくてもできる場合
    遺言の内容が、遺産分割の方法の指定など「遺言執行者」でなくてもできることであれば、成年後見人は遺言書の内容のとおりに相続人に引継ぎます。
    遺言の内容が遺産分割の割合の指定だとか、相続人以外の方への遺贈(遺言による贈与)が含まれているときは、相続人と相談して、代表相続人への引継ぎか、「遺言執行者」の選任申立てをすることになります。
  • 遺言で「遺言執行者」が定められていなくて、「遺言執行者」が必要な場合
    遺言の内容に、子どもの認知など「遺言執行者」が必要なことが含まれているのであれば、成年後見人は「遺言執行者」の選任申立てをして、「遺言執行者」に引継ぐことになります。

相続人が引継ぎを拒否する場合

引継ぎを拒否する相続人

ご本人と相続人との生前の関係によっては、相続人が引継ぎを拒否することもあります。

相続人のうちの一部だけが引継ぎを拒否している場合、その他の相続人が代表して引き継ぐことに合意してもらえれば、引継ぎは可能です。
もし、代表相続人への引継ぎについても拒否するときは、その他の相続人に遺産分割調停または審判を申し立ててもらい、審判前の保全処分として遺産管理人の選任を一緒に申し立ててもらえば、成年後見人は遺産管理人に引き継ぐことができます。
遺産管理人は、相続財産の管理人と同じで、遺産を管理する人です。

唯一の相続人が拒否した場合や相続人全員が拒否した場合、亡くなった方の財産が現金・預貯金だけであれば、法務局に供託をすることがあります。
しかし、財産に不動産などがあるときは、供託を利用することができません。そのときは、家庭裁判所に相談して、対応を協議することになります。

成年後見人から財産の引継ぎを受けるときのポイント

ご家族がご本人の身の回りのお世話をしているなどの場合、ご本人が亡くなると、ご家族から成年後見人に連絡をします。
ご本人とご家族が疎遠な場合は、成年後見人が相続人に連絡をすることが多いです。
そして、ご本人が亡くなった後のことについて相談します。

引継ぎの時期

相続人としては、ご本人が亡くなったらすぐに成年後見人から引継ぎを受けたいところだと思います。
しかし、前述したとおり、成年後見人は2か月以内に管理の計算をして、引継ぐことになっています。
そのため、成年後見人が管理の計算を終えるまで、待たなくてはいけません。

逆に言えば、ご本人が亡くなって、相続人の代表者も決まっているのに、2か月以上引継ぎがされないのは何か事情があるということでしょう。
成年後見人に2か月以内に引継ぎができない理由を説明してもらいましょう。

引継ぐもの

引継ぎの際には、管理の計算で作成した最終的な財産目録も受け取ります。
その財産目録を確認しながら、引継ぎを受けましょう。

引継ぐものは、成年後見人の手元で管理している財産類です。

例えば、現金があれば現金、預貯金であれば全口座分の通帳やキャッシュカード、不動産であれば登記済権利証(登記識別情報)や鍵、ほかには年金証書、保険証券、貸金庫の鍵、賃貸借契約書、公共料金の払込票(お客様番号がわかると解約などの手続きがスムーズです。)などです。

引継ぎが完了したら、受領書(成年後見人が用意しています。)を成年後見人に渡して、そのコピーを受け取りましょう。
成年後見人は、家庭裁判所に受領書と引継ぎが完了した報告書を提出して、任務完了となります。

引継いだ財産に疑問があるとき

成年後見人は、毎年1回は家庭裁判所に報告書・財産目録を提出することになっていて、業務のチェックを受けています。
成年後見監督人が選任されているケースでは、さらにチェックの目が増えます。
そのため、成年後見人の財産管理におかしいところはないはずです。

しかし、例えば通帳の取引を見ていて、気になるところがあった場合、まずは成年後見人に確認してみましょう。
ご本人が存命の間は、ご家族が成年後見人の業務に直接口出しすることはできませんが、亡くなった後は相続人としてチェックすることが可能であると考えられます。

成年後見人に確認しても疑問が解消しないときには、家庭裁判所に記録の閲覧・謄写の許可申立てをすることができます。
家庭裁判所が許可申立てを相当と認めると、それまでに後見人が家庭裁判所に提出した報告書や財産目録などの記録を見たり、コピーしたりできるようになります。

亡くなった後に成年後見人はどのようなことができるのか?

ご本人が亡くなると、後見は終了します。
しかし、亡くなったと同時に成年後見人としての仕事が終わるわけではありません。

亡くなった後の成年後見人の仕事

では、ご本人が亡くなった後の成年後見人の仕事を確認しましょう。
なお、家庭裁判所によって運用が異なる場合があります。

  • 家庭裁判所への連絡
    家庭裁判所にご本人が亡くなったことを連絡します。
  • 東京法務局へ終了登記申請
    後見制度を利用すると、その内容が東京法務局において登記されます。
    ご本人が亡くなったときは、後見の終了の登記を申請します。
  • 管理の計算
    それまで成年後見人として管理していた財産の収支、現時点での財産目録を2か月以内に作成します。
    2か月以内にできない場合は、家庭裁判所に期間の伸長を申し立てることができます。
    後見監督人が選任されている場合は、「その立会いをもってしなければならない」と決められています。
    管理の計算の結果については、相続人に報告します。
  • 報酬付与申請
    成年後見人は、財産を相続人に引継ぐ前に、家庭裁判所に報酬付与申請をして、家庭裁判所の審判に従ってご本人の財産から報酬を受け取ることができます。
  • 管理財産の引継ぎ・家庭裁判所への報告
    管理の計算で作成した財産目録記載の財産を相続人に引き継ぎ、家庭裁判所に成年後見の事務が終了したことを報告します。

必要に応じて行える成年後見人の仕事

ご本人が亡くなってすぐにご家族と連絡がつき、亡くなった後の手続き(例えば、死亡届や火葬・埋葬の手配、医療費の支払いなど)をご家族にしてもらえる場合は、成年後見人が上記の「亡くなった後の成年後見人の仕事」以外にすることはないでしょう。
むしろ、ご本人が亡くなってしまうと、原則として成年後見人はご本人について何もできなくなってしまいます。

しかし、亡くなったと同時に成年後見人が何もできなくなってしまうと、相続人に引き継ぐまでの間、誰も財産を管理することがなく、ご家族や関係者が困ったり、ご本人の財産に不利益が出る可能性があります。

また、生前ご家族と疎遠で、手続きに協力的ではない場合や、そもそもご家族がいらっしゃらず、相続人となる方がいない場合など、亡くなった後の手続きをする人がいないこともあります。

そこで、ご本人が亡くなった後に必要に応じて成年後見人ができること(保佐人、補助人は対象外)を法律で定めています。
(法律にある「成年被後見人」は、ご本人のことです。)

(成年被後見人の死亡後の成年後見人の権限)
第873条の2 成年後見人は、成年被後見人が死亡した場合において、必要があるときは、成年被後見人の相続人の意思に反することが明らかなときを除き、相続人が相続財産を管理することができるに至るまで、次に掲げる行為をすることができる。ただし、第3号に掲げる行為をするには、家庭裁判所の許可を得なければならない。
1 相続財産に属する特定の財産の保存に必要な行為
2 相続財産に属する債務(弁済期が到来しているものに限る。)の弁済
3 その死体の火葬又は埋葬に関する契約の締結その他相続財産の保存に必要な行為(前2号に掲げる行為を除く。)

1 特定の財産の保存に必要な行為

  • 相続人の意思に反することが明らかではない
  • 相続人への引継ぎ前で、相続人では対応できない
  • 早急に対応しないと亡くなった方の特定の財産に不利益が出る

場合に、

  • 誰かに対する請求権の時効の完成が間近に迫っている場合に行う時効の中断
  • ご本人が所有していた建物の雨漏りの修理

などの行為をすることができます。

なお、上記行為をするにあたり、ご本人の預貯金から払戻をする必要がある場合は、家庭裁判所の許可が必要です。

2 弁済期が到来している相続債務の弁済

  • 相続人の意思に反することが明らかではない
  • 相続人への引継ぎ前で、相続人が弁済することができない
  • 亡くなった方の財産が債務超過(プラスの財産<マイナスの財産)ではない
  • 支払わないと遅延損害金が発生してしまう

場合に、

  • 医療費、入院費、公共料金等の支払い

などの行為をすることができます。

なお、上記行為をするにあたり、ご本人の預貯金から払戻をする必要がある場合は、家庭裁判所の許可が必要です。

3 死体の火葬・埋葬に関する契約の締結、その他相続財産の保存に必要な行為

  • 相続人の意思に反することが明らかではない
  • 相続人への引継ぎ前で、相続人が対応することができない
  • 対応しないと亡くなった方の財産に不利益がある
  • 家庭裁判所の許可がある

場合に、

  • ご遺体の引き取り、火葬等のための葬儀業者等との契約
  • ご本人の預貯金からの払戻し
  • 管理していた動産類を預けるトランクルームの利用契約
  • ご本人が利用していた電気・ガス・水道等の契約の解約

などの行為をすることができます。

なお、「火葬・埋葬」には「葬儀」は含まれていません。

なかには、ご本人の葬儀代をご本人の預貯金から支払いたいと言って、成年後見人に請求する相続人の方もいらっしゃいます。
実は、葬儀代を誰が負担するのか、について、裁判所の判断や学説は、全相続人共同負担説・相続財産負担説・喪主負担説などに分かれています。
成年後見人としては、相続人間のトラブルに巻き込まれないように、いったん相続人に葬儀代を支払ってもらい、財産の引継ぎをしてから、相続人間で協議してもらうことが多いでしょう。

まとめ

例えば成年後見人がついている父親が亡くなったとき、どういう流れになるのかなど、わからないことが多いと思います。
生前から成年後見人とコミュニケーションを取っていれば、わからないことを成年後見人に聞きやすいかもしれません。

まずは、遺言書の有無を確認するといいでしょう。
それによって、成年後見人からの引継ぎや遺産分割方法が特定される可能性があります。

成年後見人としては、ご本人が亡くなったら、なるべく早く相続人に引継ぎたいものですが、相続人がもめているとそうもいかなくなります。
成年後見人はご本人の法定代理人ですから、ご家族の誰かの代理人になることはできませんし、味方になることもありません。

相続人は、もめていたとしても、一旦引継ぎをする代表者を決めて、代表者が自分の財産とは別に管理することをおすすめします。
というのは、相続人がずっともめていると、相続財産の管理人や遺産管理人が選任される可能性があります。相続財産の管理人や遺産管理人が選任されると、基本的に報酬が発生し、ご本人の財産から支払われることになります。つまり、もめている期間が長くなるほど、遺産が減っていくことになるからです。

一方、成年後見人から引継いだ財産に気になることがあった場合は、成年後見人に確認しましょう。
納得できる回答が得られない場合は、家庭裁判所で過去の報告書等の閲覧・謄写できる可能性があります。

そのほか、成年後見に関して心配なことやわからないことがある方は、弁護士にご相談ください。

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