成年後見人に不満… 解任の条件は?

監修:牧野法律事務所(千葉県弁護士会)
代表 弁護士

不満げな老婦人
  • 後見人が本人や家族に今までどおりの金額を渡してくれない。
  • 後見人がつく前に私が本人のために立て替えた経費を払ってもらえない。
  • 自分は望んでもいないのに、勝手に後見人がついて嫌だ。
  • 兄が父親の金を使い込んでいたので父親に後見人をつけたのに、兄に対して返還請求訴訟や刑事告訴をしてくれない。
  • 後見人が手続きをして施設に入所した母と会わせてほしいとお願いしても、会わせてもらえない。入所している施設も教えてもらえない。
  • 後見開始の申立てをした兄に話を聞くばかりで、妹の私の意向を聞いてくれない。

裁判所が選任した成年後見人に不満をお持ちの方が、「成年後見人を解任したい」とご相談に来られることがあります。
しかし、成年後見人等を解任する条件は厳しいです。
ただ「気が合わないから」「態度が悪いから」「希望通りにしてくれないから」だけでは解任できません。

後見人を解任したい相談

一般的に、成年後見人等が横領などの不正行為を行っているなどの事情がないと、「成年後見人等を解任したい」というご相談に対して、「それは難しいです」というご回答になります。
また、現在の成年後見人等を解任できたとしても、ご本人の判断能力が回復していない限り、家庭裁判所が新たに別の成年後見人等を選任することになります。

今回のコラムでは、法定後見制度のうち、特に広い権限を付与される成年後見人に対するよくある不満を検討し、対応方法のひとつである成年後見人の解任についても確認していきます。

お金を自由に使えない不満

裁判所が成年後見人を選任すると、ご本人の財産は成年後見人が管理することになります。
具体的には、銀行に成年後見人の届け出をし、通帳も成年後見人が保管します。

成年後見人は財産をなるべく減らさないように管理

成年後見人はご本人の財産を守る(なるべく減らさない)責任があります。
支出は、ご本人の意思を尊重しつつ、心身の状態と生活の状況、財産の状況を勘案して、合理性・相当性があるものにしなければなりません。

まず、元本保証のない投資・投機はできません。

親族等への贈与は、特別の必要性がある場合や、明らかにご本人の意思に沿うと考えられる特段の事情がある場合を除き、原則として認められません(慶弔費など常識的な範囲の交際費は別です)。

また、親族等への貸付も、必要性や相当性、貸付金の回収可能性、十分な担保の確保などがある場合でなければ、原則として認められません。

後見人はご本人の財産を守る責任

そのため、ご本人やそのご家族がお金を自由に使えない不満を持つことがあります。

例えば、

  • 成年後見人が就く前は、毎年お年玉として5万円を孫に渡していたのだから、今後も同じようにしないのは、本人の意思に反する。
  • 入院している母(ご本人)が帰ってくるときのために、自宅をリフォームしたいから、母(ご本人)のお金から費用を出してほしいのに、出してくれない。

成年後見人としては、ご本人の年間の収支予定から、今後必要となるお金を計算していますので、いくら毎年渡しているお年玉といっても、ご本人の将来の療養看護などに支障をきたすようでは認められません。

また、自宅のリフォームについては、ご本人の在宅での療養看護を快適にする目的であれば検討の余地がありますが、ご本人が入院中で、在宅の目途が立っていない状況であると、認めるのは難しいといえるでしょう。

ただし、ご本人と同一家計で、ご本人に扶養されている配偶者(夫・妻)や独立前の子どもの生活費については、適正な範囲内で、ご本人の財産からの支出が許されています。

成年後見人は推定相続人のことも考えている

ご本人が高齢であるほど、ご家族内で相続争いの前哨戦のようになることがあります。

ご家族が成年後見人だと、ほかのご家族が成年後見人の仕事ぶりについて疑心暗鬼(何か悪いことをしているのではないか、など)になることもあります。

専門職(弁護士、司法書士、社会福祉士など)が成年後見人の場合、ご家族が自分に有利になるように、ご本人の取り込み合戦をすることがあります。

しかし、ご本人にお子様など、将来ご本人の財産を相続する立場の方(「推定相続人」といいます)が複数人いらっしゃる場合、成年後見人はその方たちの公平性についても考慮することになります。特定の推定相続人だけ優遇することはありません。

「本人が望んでいることだから。」と言って、ご本人に書かせた書面まで用意する方もいらっしゃいますが、成年後見人は推定相続人の代理人ではないので、推定相続人の言うままに判断するわけではありません。

特定の家族だけを優遇することはない

例えば、ご本人がいらっしゃる病院を娘さんが訪問する際の交通費をご本人の財産から支出してほしいと娘さんから求められた場合、ご本人の推定相続人が娘さんだけで、ご本人も支出することに同意していて、財産に余裕があれば、認められるかもしれません。

しかし、ほかにも推定相続人がいると、娘さんにだけ支出を認めることはできません。ご家族への対応には、とても慎重に、心を砕いて当たることになります。

成年後見人の財産管理は裁判所がチェック

成年後見人は、自らの責任において、ご本人の財産管理について判断する権限が与えられています。

一方、成年後見人が適正に財産管理をしているかをチェックするため、年に1回は裁判所に通帳のコピーなどを添えて管理している財産について報告書を出すことになっています。
成年後見人の財産管理におかしなところがあれば、裁判所が成年後見人に指摘します。

裁判所が後見人をチェック

それでもなお、成年後見人の財産管理に不適切と思われるところがある場合、まずは成年後見人に書面で質問をしてみましょう。

その際は、

  • 不適切と思われる行為
  • なぜ不適切と思われるか(ご本人の不利益になる理由)

といった点を記載しましょう。

ただ、成年後見人は質問に答える義務はないので、回答がないからといって成年後見人を解任することはできません。

成年後見人の報酬が高い不満

「家庭裁判所は、後見人及び被後見人の資力その他の事情によって、被後見人の財産の中から、相当な報酬を後見人に与えることができる」と民法に定められています。

通常、専門職(弁護士、司法書士、社会福祉士など)の成年後見人は、年1回の定期報告の際に報酬付与審判の申立てをして、裁判所が決定します。

裁判所は、成年後見人の対象期間中の仕事内容、成年後見人が管理するご本人の財産の内容等を総合的に考慮して、金額を決めているようです。

成年後見人が専門職(弁護士、司法書士、社会福祉士など)の場合、東京家庭裁判所では月額2万円を基本報酬としているそうです。
そして、管理財産の額が高額になるほど、管理が複雑で困難になる場合が多いので、管理財産額が1000万円~5000万円だと月額3~4万円、5000万円~だと月額5~6万円としているようです。

さらに、ご本人所有の不動産の売却をした、ご本人が当事者の遺産分割調停事件を解決した、保険金を請求して受領した、などの特別の行為をした場合には、ご本人が得られた経済的利益の額に応じて相当額の付加報酬が加算されるとのことです。

後見人の報酬の決定

なお、親族の成年後見人も報酬付与審判の申立てができますが、専門的な知見を活かして仕事をする専門職の報酬よりも減額されることがあるようです。

成年後見人の報酬が高いからといって、裁判所の報酬付与審判に対して不服申立てをすることはできません。成年後見人を解任する理由にもなりません。
成年後見人の報酬は必要経費と割り切りましょう。

成年後見人が財産状況やご本人の現状を教えてくれない不満

成年後見人は、家庭裁判所(または後見監督人)から求められれば、いつでも事務報告書、財産目録を提出しなければならないと定められています。

一方、ご本人やご本人の家族からの要求に対して、事務報告書や財産目録を提出する義務は定められていません。
ご本人の財産状況や生活している場所などについて教えてもらえないからといって成年後見人を解任することはできません。

後見人はご家族に報告する義務はない

成年後見人が提出した報告書など、裁判所にある記録は、裁判所の許可を得られれば、当事者や本人、利害関係を疎明した第三者は閲覧・謄写することができます。
ただ、プライバシーに関する情報やもめごとになりそうな情報は、一般的に不許可となるようです。

身上監護について意見を聞き入れてくれない不満

身上監護

成年後見人の仕事に「身上監護」があります。
これは、ご本人が入居する施設や病院選び、入退所の契約、生活環境の整備、介護契約、治療や入院等の手続きなどです。
ご本人の意思を尊重し、適切な治療や介護を受けられているか、適宜確認します。

一方、「身上監護」には、実際の食事の世話や介護などは含まれていません。
そして、手術などの医療行為を受けるにあたっての同意・不同意の決定権も、成年後見人にはないとされています。

施設や病院の多くは、ご家族の中からキーパーソン(家族の代表者)となる方を選んでもらい、キーパーソンが施設や病院との窓口になる運用をしているようです。
キーパーソンではないご家族は、自分の意見を聞き入れてもらえないと不満を持つことがあるようです。

成年後見人としては、ご本人の意思を最優先しますが、必要に応じて、ご家族、施設・病院、その他関係する方の意見も聞いたうえで身上監護にあたります。関係者を集めて話し合いの場を設けることもあります。

ご本人に最善の療養看護を整えたいと思っていても、実際、どのような選択をすれば「最善」なのか、わからないものです。金銭的な制約もあります。その中でご本人のために選択する権限を成年後見人は与えられています。
成年後見人が身上監護についてご自身の意見と異なる選択をしたとしても成年後見人を解任することはできません。

身上監護の決定権

ただし、成年後見人が身上監護の仕事を怠って、ご本人が受けるべき訪問入浴サービスを受けられていない、日当たりが悪い部屋で食事も十分ではない施設に入所している、などの状況にあるときは、成年後見人にその点を指摘した方がいいでしょう。

成年後見人の解任

家庭裁判所に選任される成年後見人には、ご本人についての広い権限が与えられます。
ご本人に代わって、ご本人の財産を管理するとともに、必要に応じて福祉サービス契約の締結、遺産分割協議、不動産の売買などの取引を行います。
また、ご本人がした行為(日常生活に関する行為は除きます)を取り消すことも可能です。

成年後見人は広い権限を与えられている一方、ご本人のために十分な注意を払って、誠実にその職務を遂行する義務を負っています。
もし、故意または過失によってご本人に損害を与えた場合は、その損害を賠償しなければなりません。

そして、以下の事由があるときは、家庭裁判所は成年後見人を解任することができると民法に定められています。

  • 不正な行為
  • 著しい不行跡
  • その他後見の任務に適さない

例えば、以下のような場合です。

  • 不正な行為:後見人が本人の財産を横領した等
  • 著しい不行跡:品行がはなはだしく悪い等
  • その他後見の任務に適さない:後見人の権限を濫用、不適当な方法で財産を管理、任務を怠る等

家庭裁判所は、上記の事由がある場合、その行為の悪質性、結果の重大性、ご本人と成年後見人との関係等を考慮して、解任するか、成年後見人を追加選任するか、追加選任した成年後見人と権限分掌するか、等の判断をします。

後見人の辞任事由

逆を言えば、上記のような事由がなければ、家庭裁判所は成年後見人を解任できないということです。
すでに述べてきたとおり、「なんとなく気に入らない」「母親(ご本人)の通帳を見せてくれない」くらいの理由では、解任は認められません。

解任事由があるときは、家庭裁判所に報告

家庭裁判所は、成年後見人に解任事由があるときは、解任審判の申立てがなくても、職権で解任することができます。

成年後見人がご本人の財産を私的に流用している、ご本人に暴力をふるっている、ご本人に適切な福祉サービスを受けさせていない、などの解任事由にあたる事情を把握したら、まずは成年後見人を選任した家庭裁判所の後見係に情報提供をしましょう。

解任事由があるときは情報提供

解任審判の申立ては、一部の関係者しか申立てできませんが、家庭裁判所への情報提供は誰でもできます。
情報提供を受けた家庭裁判所は、成年後見人への調査を行うなどの対応を検討します。
情報提供の内容は、なるべく具体的な方がいいでしょう。
解任事由があることの裏付け資料があれば、それも家庭裁判所に提出しましょう。

解任審判の申立て

解任審判の申立ては、後見監督人、ご本人、ご本人の親族、検察官ができます。

親族は、6親等内の血族、配偶者(夫または妻)、3親等内の姻族です。
ご本人のいとこの子どもが5親等の血族、ご本人の配偶者の甥姪が3親等の姻族ですので、親族の範囲は結構広いです。

申立ては、後見開始の審判をした家庭裁判所に申立書を提出(持参または郵送)して行います。

申立書には、申立人、ご本人の本籍、住所、氏名、電話番号、生年月日、職業と、成年後見人の住所、氏名、申立人とご本人の関係や、申立てに至った経緯、成年後見人の解任事由など必要事項を記載します。
申立書には収入印紙800円を貼って、連絡用の切手(金額は裁判所によって違います)と解任事由を明らかにする書類等を添付します。

申立てが受付けられると、家庭裁判所調査官が調査をして、解任事由にあたるかどうか確認します。

解任が相当だと認められると、解任の審判がなされ、新しい成年後見人が選任されます(ほかに成年後見人が就いている場合は、新たに選任されないこともあります)。
解任事由が認められないと、申立て却下の審判となります。却下審判に対しては不服申立てが可能です。

まとめ

成年後見人に対してご本人やご家族が不満を持つことはあるようです。

しかし、不満があるからといって、解任できるわけではありません。
成年後見人に、不正な行為・著しい不行跡・その他後見の任務に適さない事由があり、その行為の悪質性、結果の重大性、ご本人と成年後見人との関係等を考慮したうえで、裁判所が判断します。

冒頭で例示した以下の不満についても、成年後見人にとっては理由あっての判断なのかもしれません。

例えば、

  • 後見人が本人や家族に今までどおりの金額を渡してくれない。
     →ご本人の財産に余裕がないから。
  • 後見人がつく前に私が本人のために立て替えた経費を払ってもらえない。
     →本人のためと思った経費でも、実際はご自身のための支出が混ざっているから。
  • 自分は望んでもいないのに、勝手に後見人がついて嫌だ。
     →ご本人の判断能力が衰えて、財産管理ができなくなっているから。
  • 兄が父親の金を使い込んでいたので父親に後見人をつけたのに、兄に対して返還請求訴訟や刑事告訴をしてくれない。
     →調査したところ、預金をおろしたのは兄でも、父親のために使っていることがわかったから。
     →兄と示談交渉が成立して、使い込んだ全額を任意に返還したから。
     →兄に返還能力がないことが明白なので、父親の兄に対する債権として報告している。
  • 後見人が手続きをして施設に入所した母と会わせてほしいとお願いしても、会わせてもらえない。入所している施設も教えてもらえない。
     →ご本人(お母さま)が今は会いたくないと言っているから。
  • 後見開始の申立てをした兄に話を聞くばかりで、妹の私の意向を聞いてくれない。
     →「兄ばかり」と言うけれど、実際は双方から話を聞いている。

成年後見人に対しての不満は、制度上「仕方がないこと」が多いようです。
しかし、成年後見人が職務を全うしていないためにご本人に不利益が生じている場合は、成年後見人に対して書面などで申し入れをしましょう。

成年後見制度は、ご本人の利益を守るための制度です。
成年後見人とご家族がチームとなってご本人を支えていく関係を築くことが理想といえるでしょう。

後見人と家族はチーム

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