容疑者?被告人?刑事事件の呼び方
監修:牧野法律事務所(千葉県弁護士会)
代表 牧野 房江弁護士
刑事事件での呼ばれ方
ニュースを見ていると、刑事事件について疑われている人は、いろいろな呼び方で呼ばれていますね。
〇〇容疑者や〇〇被告、ときには他の呼び方をされることもあります。
実は、これらは全てテレビ局などの報道機関の独自の呼び方にすぎません。
法的には、「被疑者」か「被告人」の2通りしかないのです。
まず、刑事事件は、次の流れで進みます。
- 刑法をはじめとする法律に決められた行為をした疑いのある人について捜査
- 検察官が裁判にかける(起訴する)か決定
- 裁判(公判)になったときは裁判官(裁判員のときもあります)が証拠などをもとに、犯罪があったのか、犯罪があった場合はどのような刑罰が相当か、判決
「被疑者」と「被告人」の境界線は、この流れの中の「起訴」のところにあります。
なお、民事事件の裁判の場合は、訴えた人を「原告」、訴えられた人を「被告」と呼びます。
被疑者と被告人
簡単にいうと、検察官に起訴される前の人が「被疑者」、起訴された後の人が「被告人」です。
起訴前
犯罪を疑われると、警察が捜査を始めます。取調べです。
起訴前は、自宅にいるまま捜査される場合もありますし、逮捕される場合もあります。
逮捕は、犯罪の重大性・悪質性、逃亡のおそれがある、証拠隠滅するおそれがある、などを考慮の上、裁判所に逮捕状(逮捕令状)請求してされます。
逮捕された場合
逮捕された場合、警察が取調べできるのは、48時間以内です。
そのあとは、被疑者と事件記録が警察から検察庁に引き継がれます。これが送検です。
検察官は24時間以内に取調べをして、被疑者を釈放しなければいけませんが、さらに拘束しておく必要がある場合は、令状担当の裁判官に勾留請求をします。
裁判官は、被疑者に勾留質問をしたあと、勾留が必要と判断した場合は10日間の勾留が認められます。
その後、さらに勾留延長請求により、最長10日間の延長が認められることがあります。
つまり、検察官は逮捕から最長23日の間に、被疑者を裁判にかける(起訴する)かどうかを決めます。
自宅にいるままの場合
俗に「書類送検」と呼ばれているのは、逮捕されていない被疑者の事件記録を警察から検察庁に渡すことです。
逮捕されていなくても、起訴されることはあります。
また、逮捕されている場合と違って、検察官が起訴するかどうかを決めるまでの期限が決まっていないので、長い期間「被疑者」のまま処分が決まらないこともあります。
起訴後
起訴されると、「被疑者」は「被告人」になり、基本的には裁判が開かれます(罰金だけのときは、裁判が省略されることもあります)。
裁判は一般の人でも見学可能ですから、一度刑事裁判を見てみると、実際に「被告人」と呼ばれているのがわかるでしょう。
なお、起訴されたあと、「被告人」は引き続き勾留されることになります。
裁判所に「保釈請求」をして、保釈できない理由がなければ、保釈金を納めることを条件として、保釈許可決定が出ます。
おわりに
ニュースで聞く「容疑者」などの呼び方は、法的な言葉ではありませんが、テレビ局などの報道機関は事件の内容や逮捕の有無などを考えて呼び方を変えているようです。
呼び方に注意してニュースを見てみると、いろいろと発見があるかもしれません。
また、刑事ドラマや弁護士ドラマでも、刑事事件の用語が出てくることがあります。
例えば、被疑者や被告人を弁護する弁護士は、「弁護人」と呼ばれます。
そして、「弁護人」には「私選弁護人」と「国選弁護人」の2種類があります。
一方、民事事件での弁護士は、代理人と呼ばれます。
ほかにも、「前科」や「前歴」という言葉を聞いたことがあるのではないでしょうか。
「前科」は、被告人が有罪判決を言い渡され、確定した経歴をいいます。
刑務所に入っていなくても、罰金刑でも前科になります。
一方、交通違反の反則金を納付しても前科にはなりません。
「前歴」は、被疑者になったことがある経歴をいいます。
逮捕されても、逮捕されていなくても、捜査対象になると前歴になります。
今回のコラムは、刑事事件の用語についてでした。