うまい話に気をつけて!~「劇場型」投資詐欺事案~
監修:牧野法律事務所(千葉県弁護士会)
代表 牧野 房江弁護士
近年「劇場型」と呼ばれる投資詐欺の事案が増えています。
未公開株や社債を発行する会社の従業員、それを高値で買い取る証券会社の社員などに成りすました人物が登場することからこのような名称が生まれました(もちろん全員がグルです)。
今回は、当事務所で実際に扱った事件をもとに、劇場型投資詐欺がどのように行われるか、また被害に遭わないためにはどうすればいいかをご説明します。
※会社名や住所などは変えてあります。
投資詐欺の事例
Aさんは定年退職して妻と2人暮らし。
ある日、船橋市にあるAさんの自宅に、「四井角共アセットマネジメント」の田貫と名乗る人物から電話があり、「おたくは株式会社アースキットの転換社債をお持ちではないですか」と訊いてきました。
田貫はAさんに「株式会社アースキットはレアメタルの開発を行っており、経済産業省からも援助を受けています。このたび、ハワイ沖でレアメタル採掘を行うことになり、その資金を得るため、転換社債を発行することになりました」「アースキットの社長は船橋市〇〇町の出身なので、〇〇町の方に優先的に発行することになりました」等と説明しました。そして「もし社債をお持ちでしたら、額面の2.5倍で買い取ります」と持ち掛けてきました。
翌日、今度は「オリエント信託」の亜久井なる人物から同じような電話があり、亜久井は「うちは3.8倍で引き取ります」と言ってきました。
Aさんは、アースキットとかいう会社は聞いたこともありませんでしたが、大手銀行の系列会社らしきところから続けて電話がかかってきたため、すっかり信じ込んでしまいました。
数日後、Aさんの自宅にアースキットのパンフレットが届き、Aさんがパンフレットに記載されていた番号に電話をかけると、担当者から「2年ものの社債だと、年利18%になりますよ」と勧められ、Aさんは1000万円を指定された銀行の口座に振り込みました。これは退職金を貯めておいたものでした。
しかし、銀行が不審に思い、アースキットの口座は凍結されました。Aさんは田貫や亜久井、アースキットに電話をかけましたが、どの電話も「現在使われておりません」になっていました。
Aさんの依頼をうけ、当事務所がすぐに口座の仮差押えを行いましたが、他にも被害者が多数おり、配当を求めてきたため、最終的にAさんの手元に戻ったのは100万円余りでした。
被害に遭わないために
「うまい話はない」と肝に銘じておく
投資詐欺に遭わないための鉄則は、「うまい話はない」。これに尽きます。
Aさんの事例でいえば、いまのご時世「年利18%」などありえないことは落ち着いて考えればわかることです。
またそもそも、社債を買った人がいるかどうか、町中の世帯に行き当たりばったり電話をかけて調べるなど、時間やコストを考えれば馬鹿げています。
本物の金融業者かどうか確認する
本件では実在の銀行や証券会社の系列だと誤認させるような名称が使われていました。
いまはインターネットで簡単に検索できるので、その会社が本当に実在するのかを確認しましょう。
不特定多数の投資を勧誘することができるのは、金融庁(財務局)に登録された業者に限られます。
未登録の業者が勧誘するのは、金融商品取引法に違反します。
金融庁のホームページには登録された業者のリストがありますので、確認することをお勧めします。
また、仮に実在したとしても、名前を騙っている可能性もあるので、念のため電話して確認すべきです(もちろん公式ホームページや電話帳に載っている番号にかけましょう)。
怪しいと思ったらすぐに相談
いままで扱った事件の中には、被害者の方は「怪しい」と思いながらも、ずるずると詐欺的な取引に引きずり込まれていくというケースがかなりあります。
詐欺グループは人間の心理をよく研究しているので、一人だとそのからくりになかなか気づくことができません。
金融庁も詐欺的な投資勧誘等についての注意喚起をしています。
相手から「未公開株」「新規公開株」「必ずもうかる」などの言葉が出てきたら、「怪しい」と警戒しましょう。
少しでも怪しいと思ったら、消費者センターや弁護士に相談することをお勧めします。