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一方的な婚約破棄で損害賠償請求

はじめに

今回は、婚約破棄について、考えてみます。
正当な理由がなく婚約を破棄された場合、これによって生じた財産的損害・精神的損害について、損害賠償請求ができます。では、そもそも「婚約」とはどういうことをいうのでしょうか。「正当な理由がない」とはどういうときに言えるのでしょうか。
 
婚約は、「結婚する前提」での男女関係といえます。まずは、結婚(法律では婚姻といいます)についてみてみましょう。

 

結婚と離婚

日本は、婚姻の届出をしないと、法的に婚姻は成立しません。
民法739条に「婚姻は、戸籍法の定めるところにより届け出ることによって、その効力を生じる。」と書かれています。
 
婚姻の効力が生じると、夫婦として、次のような法律に従うことになります。

  • 夫または妻の氏を称する。(民法750条)
  • 夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない。(民法752条)
  • 夫婦は、その資産、収入その他一切の事情を考慮して、婚姻から生ずる費用を分担する。(民法760条)

そして、「夫婦は、その協議で、離婚をすることができる。」と民法763条にあります。
婚姻のときは「届け出ることによって、その効力を生じる」と明記していますが、離婚のときも離婚届出によって協議離婚が成立します。なお、離婚届を書いたときには離婚の意思があったけれど、届出をする前に気が変わった場合、離婚届出は無効となります。届出と同時に、離婚についての合意が必要だからです。
 

婚約とはどういうこと?

不当な婚約破棄に対する損害賠償請求をするためには、婚約が成立している必要があります。では、婚姻の届出をする前の状態:将来の婚姻を約束した婚約について、法律で定められているのでしょうか。
 
実は、婚約について、民法には書かれていません(ちなみに、裁判所では婚姻予約といいます)。そのため、どのような条件がそろえば「婚約成立」になるのか、明確に決まっていません。法律にきまりがない場合、慣習や裁判官の判断の積み重ね、学者の研究結果(学説)などによって、それぞれのケースを検討することになります。
 
昭和6年になされた判決では、婚約は、当事者間で将来の結婚について合意があり、その合意が「誠心誠意をもって将来に夫婦たるべき予期のもとに」なされ、(このような合意のない)「自由な男女と一種の身分上の差異を生ずるに至ったとき」とされています。
 
また、昭和37年になされた最高裁判所の判決では、「求婚に対し、真実夫婦として共同生活を営む意思でこれに応じて婚姻を約した上、長期間にわたり肉体関係を継続したものであり、当事者双方の婚姻の意思は明確」であり、「たとえ、その間、当事者がその関係を両親兄弟に打ち明けず、世上の習慣に従つて結納を取かわし或は同棲しなかつたとしても、婚姻予約の成立を認めた原判決の判断は肯認しうる」とされています。
 
つまり、「婚約」といって思いつくのが、「婚約指輪」や「結納」ですが、それらがあったからといって、婚約が成立するとはいえないということです。また、両親への紹介や同棲しているかどうかも、婚約が成立する条件とはならないということです。(婚約が成立していたことを証明する事実にはなります。)
 
ただ、「ずっと一緒にいよう。」という言葉が求婚(プロポーズ)に当たるかの解釈が人によって違うように、当事者間の将来の結婚についての合意が明確なものかどうかの判断は、慎重にされる必要があります。裁判で婚約の成立が争われる場合、多くは「結婚の約束はしていなかった」「そんなつもりはなかった」と主張され、水掛け論になります。
そのようなときに、婚約の成立を直接的、間接的に証明する事実が非常に大事になります。
 
婚約の成立を直接的に証明するものとしては、結納や婚約合意書、婚姻届の署名押印などです。
間接的に証明するものとしては、親密な継続的交際、婚約指輪の交換、結婚式の準備、結婚後の生活の準備、同居などです。
そのほかにも、婚約者として両親へ紹介したことや親族の結婚式への出席など、対外的に婚約を公言していることも、婚約の成立を証明する事実になります。
これらの事実を総合的に考慮して、婚約の成立があったかどうか、判断されます。
 

婚約者に求められること

婚約が成立すると、何か「しなければならないこと」が出てくるのでしょうか。
 
結婚の場合は、先に見たとおり、「しなければならないこと」が法律で決まっています。しかし、婚約の場合、「結婚しなければならない」といった強制されるものではなく、「結婚に向けて、お互いに努力しなければならない」といった努力義務程度のものと考えられています。当然といえば、当然ですね。
 
そのため、婚約者が結婚式の準備を手伝ってくれないときや結婚資金を全く出してくれないとき、相手に愚痴を言うことはできますが、裁判所に訴えることはできないでしょう。
 

正当な理由によらない婚約破棄とは?

婚約は、当事者が合意すれば、いつでも解消できます。問題が起こるのは、一方的に破棄された場合でしょう。
 
婚約破棄に正当な理由がない場合、これによって生じた財産的損害・精神的損害について、損害賠償請求ができることは先に述べたとおりですが、損害賠償請求が認められる「正当な理由がない場合」とは、どのような場合でしょうか。
 
これまでの裁判所の判決を見てみましょう。

  • 徳島地方裁判所 昭和57年6月21日
  • お見合いで知り合い、結納を交わして、結婚式の日にちも決まっていた。女性が結婚式の準備(貸衣装や記念品の選定、招待状の発送など)、新婚旅行の準備、勤務先の退職、嫁入り道具の購入などをしていたが、突然仲人を通じ電話で婚約破棄を通告された。男性の婚約破棄の理由は、「常識が欠け、家庭的な躾けができておらず、ルーズで、責任感に乏しいことが婚約後に判明したのみならず、その体形が余りにも細く劣等であつて、」次第に愛情を喪失したというものだった。

    裁判所は、男性に嫁入道具購入代金の7割に相当する額の損害約161万円、勤務先退職による逸失利益約123万円、慰謝料400万円など合計779万円余の損害賠償の支払を命じた。

    ちなみに、婚約破棄を仕向けたとして、男性の母親の共同不法行為も認めています。
     

  • 東京地方裁判所 平成19年3月28日
  • 交際を始めて間もなく同居し、双方の両親との昼食会で、結婚を前提に同居していることを報告した。その後男性がマンションを購入し、女性がローンの連帯保証をした。その際、書類には「婚約者」と記載した。しかし、マンションに住んでからは性格や生活スタイルの不一致によりすれ違いが生じ、女性から結婚についての話題が出ても、男性は親が反対しているから説得しに行くと口実を作って頻繁に実家に帰るようになり、ついに別居に至った。

    裁判所は、男性は女性との関係を維持できないと思うようになった以後も、そのことをはっきりと伝えることをせず、親が反対しているなどと言って女性に期待を持たせるような言動を取りつつ、曖昧な態度のまま同居期間を長引かせて、女性を不安定な状況に置いていたことや、女性との関係を清算しないままほかの女性との交際を始めており、これも女性との破綻を加速させる一因になったとうかがえることなどに照らせば、婚約解消の主たる原因は男性にあるものとし、女性の精神的損害として80万円を認めた。
     

  • 東京地方裁判所 平成19年1月19日
  • 男性が女性に結婚を申し込み、その後結婚式の検討、結婚指輪やウェディングドレスの購入、双方の両親への結婚の挨拶、マンションの購入、女性の退職、同居の開始、女性の妹の結婚式への出席などの事実があった。しかし、男性がほかの女性を妊娠させてしまい、それを知った女性が体調を崩した。

    裁判所は、婚約破棄の責任は男性にあると認め、男性に新居用の家具購入費、交通費、勤務先退職による逸失利益、慰謝料250万円、弁護士費用の1割の支払いを命じた。

 

一方、損害賠償請求が認められなかった事例も見てみましょう。

  • 東京地方裁判所 平成5年3月31日
  • 男性が女性に求婚し、双方の両親も結婚に賛成したため、結納を交わして、結婚式の日にちも決まっていた。しかし、双方の母親も加わって結婚式の打ち合わせをした際の男性の母親の言動や男性が母親の言いなりであることから、女性は男性の母親と円満な関係を築けるか不安を感じるようになった。また、それまでの交際で感じた男性の思いやりのなさや男性の実家の家風から、結婚生活に入ることに対して自信を失った。そのため、女性は両親と相談の上、婚約を解消する決意をした。その後、仲人をとおしてその意向を男性に伝えると、男性は女性に強く婚約解消の取消を求めた。女性の心が動き、再度結婚しようという気になり、電話で母親にその旨を告げると、母親から「家に帰ってくるな」と言われ、動揺した。結局、女性は両親の反対を押し切ってまで結婚する気は起きず、婚約を解消した。

    裁判所は、「精神的損害に対する損害賠償義務が発生するのは、婚約解消の動機や方法等が公序良俗に反し、著しく不当性を帯びている場合に限られるものというべきである。」として、女性が婚約解消を決意した過程で男性に対して不当な行為をしたとはいえず、男性の損害賠償請求を認めなかった。

    なお、男性は、女性が婚約解消の決意をしたのは、女性の父親が女性に脅迫などの不当な手段で男性との仲をさいたからだとして、女性の父親にも損害賠償請求していたが、裁判所はその証拠はないとして、請求を認めなかった。

 

さいごに

一方的な婚約破棄に対する損害賠償請求は、「婚約の成立」や「正当な理由の有無」、「財産的・精神的損害の評価」など、争点となる事項がたくさんあります。
 
請求する場合も、請求された場合も、まずは弁護士にご相談されることをおすすめいたします。

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