ペットが人に怪我をさせたとき
監修:牧野法律事務所(千葉県弁護士会)
代表 牧野 房江弁護士
目次
はじめに
ペットを飼っている方はたくさんいらっしゃると思います。
ペットを飼っていると、飼い主には様々な責任が発生しますが、今回はペットが人に怪我をさせてしまった場合について、刑事責任と民事責任に分けて考えてみます。
刑事責任
刑事責任は、刑法をはじめとする法律に書かれている犯罪行為をしたときに、国家によって刑罰を科されることです。
人を襲うようにペットをけしかけて人に怪我をさせたり、人の物を壊したりした場合、飼い主は「傷害罪」や「器物損壊罪」などの刑事責任を負う可能性があります。
実際に、飼い犬のドーベルマンを通りすがりの女性にけしかけて、ドーベルマンがその女性を咬みつき怪我をさせた事件で、傷害罪で有罪判決が出ています。
また、飼い犬の土佐犬が今までに犬舎のフェンスを壊したり、逃げ出して近隣の小型犬に襲い掛かるなどしたことがあるにもかかわらず、フェンスの修理・補強をせずに放置して、土佐犬がまたフェンスを壊して逃げ出し女の子に全治1か月ほどの怪我をさせた事件で、重過失傷害罪で有罪判決が出ています。
「ペットがしたことだから。」という言い逃れはできません。
また、人が怪我をしなかったとしても、ペットが人に危害を加える性格であることをはっきり自覚していたのに、正当な理由なく自由にしたり、目を離して逃がしてしまったりした場合には、軽犯罪法違反で刑事責任を問われる可能性があります。
民事責任
民事責任は、個人と個人の間で、加害者が被害者に対して損害をお金で賠償することです。
わざとペットをけしかけたわけではなかったとしても、ペットが人に怪我をさせたり、人の物を壊したりした場合、飼い主は被害者に生じた損害を賠償する責任を負います。
しかし、すべての場合に責任を負うわけではなく、そのペットの種類や性質に応じて相当の注意をもってペットを管理していたときは、責任を免れます。
これは、民法第718条1項に定められています。
では、「相当の注意」とは、どのような注意なのでしょうか。
飼い主に求められる「相当の注意」
飼い主に求められる「相当の注意」について、具体的に「これをしていれば問題なし」と言うことは難しく、
裁判では、
- ペットの種類や性質
- 加害前歴(これまでに人に怪我をさせたり、物を壊したことがあるか)
- 飼い主側の事情(管理の仕方、しつけの程度など)
など、様々な事情を総合的に考慮して判断されます。
管理する際の「相当の注意」
- ペットの種類、習性等に応じて適性に飼育、管理することにより、ペットの健康、安全を保持するように努めるとともに、ペットが人や人の財産に危害を加えたり、人に迷惑をかけたりすることのないように気をつけなければならない
- ペットの脱走を防止するために必要な措置を講ずるよう努めなければならない
と規定しています。
ペットを庭で放し飼いにするならば、ペットが飛び越えたり、通り抜けたり、隙間から顔を出したりすることが難しい柵を設置しなければならないでしょう(放し飼いを禁止している自治体もあります)。
ひもでつないでおく場合も、ペットの力を考えて、ひもの太さや長さ、つなぎ方を考える必要があるでしょう。
そのような対策をしていなかったためにペットが脱走して人に怪我をさせてしまった場合には、相当の注意を払っていなかったとして、責任を負う可能性があるといえます。
ペットが脱走したわけではなく、庭に柵や門扉がなく人が自由に出入りできる状態にあり、人がひもにつないでいたペットに近づいて怪我をした場合でも、飼い主が責任を免れることは困難です。
船橋市動物の愛護及び管理に関する条例では、外から見えやすいところに犬を飼っていることを表示をしなければならないとしています。
散歩する際の「相当の注意」
船橋市動物の愛護及び管理に関する条例では、人をかむおそれのある犬を移動させたり運動させたりするときは、口輪をかけるなどして人に危害を加えないようにすることを飼い主の遵守事項として規定しています。
また、裁判所の判断で、犬は一般的に雷などの大きな音によって突然興奮してしまうので、犬の散歩をする人は、万が一犬が興奮してしまった場合に、充分制御できるように、自分の体力や犬の種類等を考慮して、通る場所や時間、同時に散歩する犬の頭数について注意しなければいけないとしています。
子どもだけで力の強い大型犬を散歩させることや、通学時間帯に子どもが多く通る道を散歩することは、できれば避けた方がいいといえるでしょう。
また、犬が突然興奮してしまったために、飼い主が思わずリードを放してしまい、自由になった犬が近づいてきたことに驚いた通行人が転倒して怪我をしてしまった場合、直接犬が怪我をさせたわけではありませんが、飼い主が責任を負うと判断した裁判例もあります。
犬のリードが放れないように、リードを二重に巻くなどの工夫をすることが必要といえます。
ドッグランでの「相当の注意」
犬のリードを外して自由に遊ばせるドッグランで、レトリバー同士がじゃれあい、追いかけあっていたところ、速度を上げて駆けていき、ほかの利用者にぶつかって転倒させてしまった事件では、被害者も不測の事態が生じることを念頭に行動すべきとして2割の過失相殺が認められましたが、飼い主については、ぶつかるまでの間に犬に声をかけたり、制止するなど一切していなかったことから、相当の注意を尽くしていたとは言えないと、損害賠償責任を負うと判断した裁判例があります。
リードを外して自由に遊べるドッグランですが、飼い主は飼い犬を十分監視する必要があるでしょう。
通常予想できる範囲の行動に気を付ける
このように、ペットの突発的な行動にも飼い主は責任を負わなければいけませんが、ペットのすべての行動に責任を持たなければいけないわけではありません。
あくまでも通常予想できる範囲の行動についてのみであり、異常な行動でおよそ予測することができない行動については、責任を負う必要はないとされています。
ただし、「飼い主に損害賠償責任はまったくない」とされることはあまりありません。
犬を自宅車庫につないで、「犬にさわらないで」と看板を出していたのに、被害者が犬に手を出してかまれた事件では、被害者にも落ち度があったと認められましたが、飼い主も半分の責任があるとされました。
犬を家の外につないでいる場合、人が近づいて犬に接触できる状態にある限り、飼い主の責任を問われると考えていた方が良いです。
飼い主に代わってペットを管理していたとき
飼い主に頼まれてペットの管理をしていたときに、そのペットが人に怪我を負わせてしまった場合、その管理者はペットの占有者として、飼い主と同様の責任を負います。
これは、民法第718条2項に定められています。
飼い主ではないからといって、責任が軽くなることはありません。
飼い主に依頼されたわけではなく、無断で連れ出した場合も、同様に責任を負います。
また、相当の注意を払った場合に責任を免れる点も飼い主と同様です。
おわりに
かわいいペットが人に怪我をさせるなんて、考えられないことかもしれません。
しかし、「まさか」が起こってからでは遅いのです。
ペットの性格を考えて、どのようなことが起こりうるのかを十分検討して、「相当の注意をもって」その対策をとるようにしましょう。
飼い主はペットに関する様々なことに責任を負うということを心にとめて、ペットをかわいがってください。