未成年の子どもが事故を起こした場合の親の責任

監修:牧野法律事務所(千葉県弁護士会)
代表 弁護士

はじめに

子どもがよその家の車に傷をつけてしまった・・・
子どもが友だちと遊んでいてケガをさせてしまった・・・
子どもが自転車に乗っていて人にぶつかってケガをさせてしまった・・・

親としては、子どものしたことに対して、どのように対応したらいいのか不安になるのではないでしょうか。
例えば、2歳の子どもが近所の駐車場で石を投げて車に傷をつけてしまった場合、親が子どもに代わって責任を負うのか・・・。
中学生の子どもが自転車で角を曲がったときに人にぶつかってケガをさせてしまった場合はどうなのか・・・。

今回は、子どもが喧嘩をして相手にケガをさせてしまった場合や、自転車事故を起こしてしまった場合に、子ども本人や親は、被害者に対してどのような責任を負うかについて、ご説明したいと思います。

まず、前提として、成人した子どもが事件や事故といった不法行為をしてしまった場合、親が法的責任を負うことはありません。
1人の大人として、成人した子ども自身が責任を果たし、被害者に弁償をすることになります。
なお、2022年4月1日より「成人」は18歳以上となりました。
 

子どもが未成年であった場合の子ども自身や親の責任

では、未成年の子どもが、不法行為をしてしまった場合はどうでしょうか。
この場合、子どもや親が責任を負うかは「責任能力」を子どもが有しているかにより異なります。

責任能力の有無の境界線は12歳前後

責任能力

責任能力」とは、自己の行為の責任を弁識するに足りるだけの知能をいうと考えられています。
平たくいうと、自分が行った行為によって、どのような結果が生じるかを理解できる能力です。

これまでの裁判例などによれば、10歳以下では責任能力が否定(ないと判断)され、14歳以上では肯定(あると判断)されている事例が多く、裁判における責任能力の有無の境界線は、小学校を卒業する12歳前後と考えられています。

そして、未成年の子どもに責任能力がなかったときは、他人に損害を加えた場合でも、子ども自身は賠償の責任を負いません(民法712条)。

その代わり、子どもの監督義務者である親は、十分な監督義務を果たしていたことを証明しない限り、代わって責任を負うこととなります(民法714条)。

子どもに責任能力がある場合の親の責任

責任能力がある場合

子どもに責任能力がある場合、例えば高校生の子どもが他人に損害を加えてしまった場合は、成人と同様に、賠償の責任を負うこととなります。

このとき、子どもだけでなく、親が責任を負うか否かについては、法律には規定はありません。
「未成年者に責任能力がない場合には監督義務者が責任を負う」という規定がある以上、責任能力がある場合には、監督義務者は責任を負わないという考え方もありえます。

しかし、それでは被害者救済の面から問題があります。

また、子どもに責任能力があった場合でも、子どもが未成年者であれば、親には監督する義務がありますので、責任を一切負わないということは妥当ではないと言われていました。

この点について、最高裁は、
未成年者が責任能力を有する場合であっても、監督者の監督義務違反と、未成年者の不法行為によって生じた結果との間に、相当因果関係が認められるときは、監督義務者に不法行為責任が生じるとして、監督義務者も責任を負うことがあり得る
ことを認めました(最判昭和49年3月22日)。

親が監督義務違反となる事例

ただ、普通に子どもを育てていた場合、高校生などの責任能力がある未成年者が起こした事件で、親に監督義務違反が生じることはあまりないです。

監督義務違反となる事例としては、

  1. 子どもが不法行為をしたとき、親がそれを現認して(その場で見て)いて、直接の監督等が可能であった「現認型」
  2. 子どもが不法行為に使った道具・手段(例えば凶器など)が親から子に渡されており、その用法の指示を怠った「道具付与型」
  3. 子どもが日頃から悪性癖を有していて、補導歴や前科前歴等があり、他人に何らかの危害、損害を加える傾向があったのに、十分な監護や教育を怠った「悪性癖型」
  4. 交通事故の場合に、子どもが精神的・肉体的に運転に支障がある状態であったのに、運転を差し止めなかった「精神的・肉体的状態支障型」
  5. その他、日頃から子どもの行状を把握しないで問題性に気づかなかった場合などの「その他型」

などに分類されています(判例タイムズ1145号における中島功裁判官の解説)。
 

実務的に多いのは、上記3の「悪性癖型」かと思われます。
中高生の子どもに非行の傾向があったり、刑事事件を過去に起こしたりしているにも関わらず、親が監督を怠って素行を把握せず、夜遊びを放置していたところ事件が起きた場合などが典型例です。

保険の話

子どもの責任

弁護士をしていると、子どもの行為について、親の責任が問題となるケースは多いと感じます。

子どもに責任能力がない場合には、親が損害賠償責任を負う可能性は高いです。
自分の子どもには非行などないし、大丈夫と思う方もいるかもしれませんが、故意に(わざと)事件を起こすことはなくても、自転車運転の際の過失(うっかり)による事故などのリスクは誰もが負っているものです。

また、子どもが中高生で責任能力があり、親に監督義務違反がない場合や、さらには子どもが成人している場合には、親自身の責任は通常認められず、法的な損害賠償責任は発生しません。
しかし、例えば、高校生の子どもが自転車事故を起こして、相手に重症を負わせてしまった場合に、親に法的な責任がないからといって、お金を払わないわけにもいかないことが多いかと思われます。

このような、自分自身や家族が起こしてしまう不慮の事故に備えて、個人賠償責任保険という、日常生活の事故やトラブルに備える保険に加入されることを検討されるのもよろしいかと思います。
全国的に、自転車損害賠償保険等への加入の義務化が進んでおり、千葉県では2022年7月1日に「努力義務」が「義務」となりました。

ただし、個人賠償責任保険では、責任能力のある中高生が故意に行った事件(例えば喧嘩)については、賠償の範囲外となっているようですし、どのような場合に保険金が支払われるかを契約時に確認されるのがよろしいでしょう。

まとめ

未成年の子どもで、自分のしたことによってどのような結果が生じるかを理解できない年齢の子どもは、子どもに代わって親が賠償の責任を負う場合があります。

一方、自分のしたことによってどのような結果が生じるか理解できる年齢の子どもは、自分で自分の責任を負うことになります。
ただし、親の監督義務違反と子どものしたことによって生じた結果に相当因果関係が認められると、親も責任を負うことがあり得ます。

わざとではなく、うっかりで事故は起こります。
その際、高額な損害賠償請求をされる可能性があります。
もしもに備えて、個人賠償責任保険の加入も検討してみましょう。

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