相続・遺贈で取得した土地を手放せる?!相続土地国庫帰属制度の申請方法について
監修:牧野法律事務所(千葉県弁護士会)
代表 牧野 房江弁護士
相続した不要な土地を国に引き渡せる「相続土地国庫帰属制度」が2023年4月27日から始まっています。
「相続土地国庫帰属制度」を簡単にいうと、「相続によって取得してしまったいらない土地を、お金を払って国に引き取ってもらう制度」です。
ただし、国に引き渡すためには、「申請できる人」と「引き取ってもらえる土地」の条件を満たし、負担金を支払う必要があります。
申請資格や引き渡せる土地の要件などについては、コラム「相続・遺贈で取得した土地を手放せる?!相続土地国庫帰属制度について」で解説していますので、ご覧ください。
また、法務省も制度内容の概要や制度案内を作成していますので、そちらもご確認ください。
今回のコラムでは、申請から国庫帰属までの具体的な手続きを解説します。
手続き全体の流れは以下のようになっています。
提出した書面の審査だけでなく、実際にその土地を確認する現地調査も行われますので、申請から手続き終了までは半年から1年程度かかるとのことです。
国に引き渡すまではその土地の所有者としてその土地を管理する義務がありますので、手続きが終わるまで気を抜かないようにしてください。
また、手続きが終わるまでは法務局との連絡が取れる状態にしておきましょう。
申請する前に-法務局に相談
手続きをする前に、法務局に相談することができます。
もちろん、必ず事前に法務局に相談しなければいけないわけではありません。
ただ、国に引き渡せる土地はかなり限定されていますし、申請時には、境界点を入れるなどした写真を添付するなど、提出書類がたくさんあります。
制度を利用できるかどうかだけでなく、申請前に提出書類の最終確認をしてもらうなど、要所要所で法務局に相談するのがお勧めです。
法務省が相談対応について説明しているサイトがありますので、よろしければこちらもご参照ください。
相談の予約
予約をするにあたって、相談する法務局と、相談方法(対面か、電話か)を決めます。
全国どこの法務局でも相談できますが、その後に申請することを考えると、自分が手放したい土地を管轄する法務局での対面相談がお勧めです。
例えば、東京都に住んでいて茨城県にある土地を手放したい場合には、水戸地方法務局での対面相談が良いでしょう。
とはいえ、手放したい土地が遠方にあり、対面相談が難しい場合もあると思います。
電話相談にするか、あるいは、自宅の最寄りの法務局での対面相談にしましょう。
相談する法務局、相談方法が決まったら、相談の予約を取ります。
「法務局手続案内予約サービス」を利用すれば、24時間365日いつでも予約できます。
会員登録をすれば自分の情報が自動入力されて便利とのことです。会員登録をしなくても利用できます。
インターネットだけでなく、電話でも予約できるそうです。
相談する法務局に電話してください。
各法務局の電話番号は法務局のサイトに掲載されています。
また、相談は、土地の所有者本人だけでなく、その家族や親族の方もできます。
資料の準備
法務局での相談日までに、以下の3つの資料を準備しましょう。
- 相続土地国庫帰属相談票
- チェックシート(相続した土地の状況について)
- 土地の状況等が分かる資料や写真
相続土地国庫帰属相談票
相談票は、法務省のサイトに掲載されています。
相談票には、下記の情報を記入または入力します。
- 相談者の情報(氏名、住所、連絡先)
- 相談利用回数と、既に利用したことがある場合は前回相談日
- 手放したい土地の情報(所在・地番、地目、地積、現地の状況、土地の所有者と相談者の関係)
- 手元にある資料(該当する資料にチェックをつける)
- 相談の概要(確認したい内容を記入)
- 個人情報の提供の承諾(承諾する場合にチェックをつける)
手放したい土地の情報(所在・地番など)は、このあと説明する「土地の状況等が分かる資料や写真」にある書類があれば、記入できます。
チェックシート(相談したい土地の状況について)
チェックシートも、法務省のサイトに掲載されています。
手放したい土地が却下要件あるいは不承認要件に該当していないかどうかをチェックするシートです。
1つでもチェックできなかったら、現状ではその土地を国に引き渡すことはできません。
すべての項目にチェックを入れられれば、国に土地を引き渡せる可能性があります。
ただ、最終的な判断は、法務大臣(土地の所在する法務局・地方法務局の長)が行います。
チェックシートだけで引渡しが決まるわけではありません。
分からない部分や不安な部分は空欄で構わないとのことです。
チェックをせずに、担当者に相談しましょう。
チェック項目は以下の通りです。
当事務所のコラム「相続・遺贈で取得した土地を手放せる?!相続土地国庫帰属制度について」で絵を使って解説していますので、もしよければそちらもご覧ください。
土地の状況等が分かる資料や写真(可能な範囲で)
その土地の状況が分かるような資料や写真を準備します。例えば、以下のようなものです。
- 登記事項証明書又は登記簿謄本
- 法務局で取得した地図又は公図
- 法務局で取得した地積測量図
- その他土地の測量図面
- 固定資産税評価証明書
- 土地の現況・全体が分かる画像又は写真
相談時に準備できない書類があっても気にする必要はありません。
「登記事項証明書又は登記簿謄本」は、土地の所在・地番などを正確に記入するために必要なので、相談時までに取得しておくのがお勧めです。
「法務局で取得した地図又は公図」と、「土地の現況・全体が分かる画像又は写真」は、申請時の必須書類です。
そのため、この2つも相談時に準備した方がいいでしょう。
特に、「土地の現況・全体が分かる画像又は写真」は、何が写っていればいいのか、どのような撮影位置や角度で撮ればいいのかなど、なかなかイメージが湧かないと思います。
相談までに様々な写真を準備して、担当者に見せてください。
「固定資産税評価証明書」は、申請時の提出書類に含まれています。
ただ、申請書の該当欄にチェックを入れれば、自分で取得・提出する必要はありません。
では、固定資産評価証明書以外について、その内容や入手方法などを解説します。
- 登記事項証明書又は登記簿謄本
-
土地や家などの不動産は、不動産それ自体の情報(場所、広さ、構造、地目など)や所有者の情報(氏名や住所など)が法務局の登記簿に記載されて一般公開されています。
昔の登記簿は紙でしたが、現在はコンピューター化されています。
ただ、すべての登記簿のコンピューター化が完了したわけではないようです。コンピューター化された登記簿の内容を証明する書面を「登記事項証明書」といいます。
紙の登記簿を謄写した書面のことを「登記簿謄本」といいます。つまり、「登記事項証明書」と「登記簿謄本」は、ほぼ同じものです。
登記事項証明書(登記簿謄本)は、申請時に提出が必要な書類に含まれていません。
ただ、登記に記載されている土地の情報(地番や地目など)が必須情報なので、相談の段階で登記事項証明書(登記簿謄本)を入手しておくことをお勧めします。登記事項証明書(登記簿謄本)は登記所(法務局)で取得できますが、手数料の違いから、入手方法は3つに分けられます。
- 登記所の窓口で又は郵送で請求し、窓口で又は郵送で受け取る方法(書面請求)
- オンラインで請求し、郵送で受け取る方法(オンライン請求・送付)
- オンラインで請求し、窓口で受け取る方法(オンライン請求・窓口交付)
法務局が請求方法を説明していますので、ご参照ください。
それぞれの方法の手数料、納付方法などを表にすると、以下のようになります。
登記事項証明書又は登記簿謄本の請求方法・手数料など 手数料 その他費用 納付方法 書面請求 600円 郵送の場合は切手代
窓口の場合は交通費請求書に収入印紙を貼り付ける オンライン請求・送付 500円 (手数料に郵送費含む) インターネットバンキング、モバイルバンキング又は電子納付対応のATMを利用する オンライン請求・窓口交付 480円 法務局までの交通費 オンライン請求では、「登記・供託オンライン申請システム」というシステムを使います。
「登記・供託オンライン申請システム」は、平日の午前8時30分から午後9時までしか使えません。24時間360日いつでも利用できるわけではないので、注意してください。
オンライン請求の流れを法務局がまとめていますので、ご参照ください。
便利で手数料が安いオンライン請求を法務局が推奨しています。
- 法務局で取得した地図又は公図
-
ここでの「地図」は、市販の地図のことではありません。
法務局に備え付けられている地図のことです。法務局に備え付けられている地図は、土地の面積や距離、形状、位置について正確性が高く、土地の区画(「筆界」と言います)を明確にするために使われる資料です。
すべての地域でこの地図が備え付けられているわけではありません。
地図が備え付けられていない場合に活躍するのが「公図」です。公図は、「地図に準ずる図面」のことで、主に明治時代に作成された図面のことです。
作られた時期が古いので、地図よりも精度は低いです。
ただ、作成目的や作成時期によっては、土地の筆界の判断資料として活用できるそうです。地図や公図の内容を証明する書面を「地図証明書」と言います。
「地図証明書」は、申請時の提出必須書類の1つです。
そのため、相談時に間に合わなかったとしても、申請時までには入手するようにしましょう。地図証明書の取得方法は、登記事項証明書の取得方法と同じく書面請求とオンライン請求があります。
請求方法によって手数料が異なる点も、登記事項証明書と同様です。
そのため、便利で手数料が安いオンライン請求がおすすめです。先ほどと同じく、「登記・供託オンライン申請システム」を利用します。
地図証明書の請求方法・手数料など 手数料 その他費用 納付方法 書面請求 450円 郵送の場合は切手代
窓口の場合は交通費請求書に収入印紙を貼り付ける オンライン請求・送付 450円 (手数料に郵送費含む) インターネットバンキング、モバイルバンキング又は電子納付対応のATMを利用する オンライン請求・窓口交付 430円 法務局までの交通費
- 法務局で取得した地積測量図
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地積測量図とは、法務局に備えられた測量図のことで、土地の面積(「地積」といいます)や形状、位置を明らかにする図面です。
登記簿上1個の土地を表す単位である「一筆」ごとに作成されます。地積測量図は、土地を分割したり、複数の土地をまとめたり、登記簿の土地の面積を修正したりしたときに、その登記を行う際に添付が必要な図面です。
そのため、そのような登記をしたことがない土地の地積測量図は、法務局に備えられていません。
地積測量図の内容を証明した書面を「図面証明書」と言います。
「図面証明書」は、申請時の必須書類ではありませんので、相談時も申請時も、あえて準備する必要はありません。図面証明書も、登記事項証明書や地図証明書と同じように取得できます。
請求方法によって手数料が異なる点も、登記事項証明書と同様です。
そのため、便利で手数料が安いオンライン請求がおすすめです。先ほどと同じく、「登記・供託オンライン申請システム」を利用します。
図面証明書の請求方法・手数料など 手数料 その他費用 納付方法 書面請求 450円 郵送の場合は切手代
窓口の場合は交通費請求書に収入印紙を貼り付ける オンライン請求・送付 450円 (手数料に郵送費含む) インターネットバンキング、モバイルバンキング又は電子納付対応のATMを利用する オンライン請求・窓口交付 430円 法務局までの交通費
- その土地の測量図面
-
測量図には、地積測量図のほか、現況測量図、確定測量図があります。
現況測量図とは、現在の堀やフェンスをもとに、その土地の所有者が隣地との境界だと考える位置で測った図面です。隣地の所有者の立ち合いはありません。
確定測量図とは、すべての隣地の所有者が立ち会って、境界標を設置し、境界確認書を作成して境界を確認した図面です。
いずれも、土地の所有者などが個人的に土地家屋調査士に依頼して作成したものです。隣地の所有者に尋ねてみるのもいいかもしれません。
今回の相談のためにわざわざ測量図を作成する必要はないとのことです。
- 土地の全体が分かる画像または写真
-
手放したい土地の写真や画像を準備します。最新の状態がわかるものにしましょう。
申請時にも、土地の状況が分かる以下のような写真を添付します。
- 隣接する土地との境界点を明らかにする写真(石杭などが打ってある部分)
- その土地の周辺の状況がわかる写真(遠景)
- その土地の地上の状況がわかる写真(近景)
そのため、申請時に添付する写真の準備として、相談時にも上記写真を撮って持って行きましょう。
どのように撮ればいいかわからなければ、とりあえず撮ってみて、相談のときに担当者に聞いてみるといいと思います。申請時に添付する場合については、「申請書の作成・提出」の「隣接する土地との境界点を明らかにする写真」で解説していますので、もしよければそちらをご覧ください。
手放したい土地が森林の場合は、写真を撮りに行くことが難しいですし、写真を撮っても何がなにやらわからないと思いますので、国土地理院が提供している地図をダウンロード・印刷する方法があります。
国土地理院地図の使い方は、国土地理院が提供しているヘルプをご覧ください。
資料の準備が完了したら
資料の準備ができたら、念のため、すべての資料をコピーしましょう。
相談のときは、原本とコピーしたものの両方を持参し、コピーしたものにメモなどをした方がいいと思います。
電話相談の場合は、あらかじめ法務局に資料を郵送してもいいようです。
ただ、法務局によって取り扱いが異なる可能性がありますので、相談する法務局に確認した上で、郵送するようにしてください。
法務局に郵送した資料は返還してもらえませんので、原本ではなく、必ずコピーを郵送しましょう。
対面相談も、資料によっては自分用と法務局の職員用の2セットあった方が相談しやすいかもしれません。必要に応じて、職員用にさらに資料をコピーしておきましょう。
相談
電話相談は、手元に資料を準備して、時間になったら法務局に電話を掛けます。
通信状況が悪くならないように電話をかける場所に気を付けてください。
対面相談は、資料を持って、予約時間に間に合うように法務局に向かいます。
当日、10分以上遅れた場合にはキャンセル扱いされてしまいますので、時間に余裕をもって向かってください。
電話相談も対面相談も、相談時間は30分です。
延長はできません。だからこそ、資料をしっかり準備した上で相談しましょう。
予約をキャンセルするときには、法務局手続案内予約サービスの「予約内容照会」から、「取下げる」ボタンを押してキャンセルします。
法務局での相談の注意事項
法務局での相談で注意すべきポイントは、以下の通りです。
- 事前に予約をしなければならない
- 相談前に、資料の準備が必要
- 法務局に送った資料は返してもらえない
- 相談は1回30分(延長なし)
- 相談予約の時間に10以上遅れると、キャンセル扱いされる場合がある
- 相談担当者の意見はあくまで参考程度で、最終的な判断がどうなるかはわからない
申請書の作成(承認申請)
自分に申請資格があり、手放したい土地が要件を満たしていそうであれば、申請書を作成して申請しましょう。
「法務局に相談」のところで説明した通り、作成した申請書をチェックしてもらうために法務局に相談することもできます。
申請するときに準備・提出する書類は、
- 申請者全員が提出しなければならない書類
- 遺贈によって土地を取得した相続人が申請する場合に提出しなければならない書類
- 申請者と土地の所有権登記名義人が異なる場合に提出しなければならない書類
- 任意の提出書類
の4種類があります。
申請は、登記簿上の土地の単位である「一筆」ごとに行います。
そのため、準備・提出する書類も一筆ごとに作成します。
そして、申請者全員が必ず提出する書類は、以下の5つです。
- 申請書
- 【添付書類】土地の位置と範囲を明らかにする図面
- 【添付書類】土地とその隣接地との境界線を明らかにする写真
- 【添付書類】土地の形状を明らかにする写真
- 【添付書類】印鑑証明書
申請書
申請書は、法務省のサイトに公開されています。
手放したい土地を単独で所有している場合と、共有している場合で申請書の書式が異なりますので、注意してください。
記載例も、法務省のサイトに公開されています(単独で所有している場合、共有している場合)。
以下のような内容を申請書に記入します。
項 目 | 記 載 内 容 |
---|---|
1 承認申請者 | 共有している場合は、共有者全員の氏名・住所を記入します。 共有者に法人が含まれているときは、法人名・住所・代表者の氏名を記入し、会社法人等番号を持っている場合はその番号も記入します。 |
2 承認申請に係る土地 | 登記に記載されている所在・地番・地目・地積を記入します。 登記事項証明書又は登記簿謄本を見ながら記入してください。 登記事項証明書又は登記簿謄本の入手方法は、相談時に準備する資料の「土地の状況等が分かる資料や写真」で説明します。 |
3 承認申請に係る土地の所有権登記名義人(又は表題部所有者) | 登記に記載されている所有権登記名義人と申請者が異なる場合には、追加で書類が必要になるため、それをチェックするために記載します。 申請者と同じであれば、「1に同じ」と記載して構いません。 |
4 添付書類 | (必須書面)・(遺贈によって土地を取得した相続人の必須書面)・(承認申請者と所有権登記名義人が異なる場合の必須書面)・(任意書面)があります。 添付書類の準備が整ったら、チェックボックスにチェックを入れます。 添付書類の具体的な内容はこのあと解説します。 |
5 審査手数料 | 一筆あたり14000円なので、その金額を記載します。 |
6 承認申請に係る土地の状況 | 「別紙のとおり」として、別紙に、却下要件・不承認要件に該当しないことを確認するチェックを入れます。 すべてのチェック欄にチェックを入れたら、最後に申請者の名前を記入します。共有の場合は共有者全員の名前を記入します。 |
7 その他 | 承認申請時、国庫帰属後の注意事項について、内容を確認して、チェック欄にチェックを入れます。 (1)は申請している土地の固定資産課税台帳の情報を法務局が取得することを承諾するか否かについてです。チェックを入れれば、任意書類として固定資産評価証明書を添付する必要はありません。 (2)は国庫帰属後の所有権移転登記の手続きを国(の機関)がすることを承諾するか否かについてです。チェックを入れれば、別途承諾書を提出する必要はありません。 (3)は関係機関に今回の申請に関する情報を提供することを承諾するか否かについてです。承諾してもしなくても、追加で提出する書類などはありません。 (4)は共有の場合のみです。納入告知書を受領する代表者1名の名前を記載します。 |
申請者 | 最後に 申請者の住所、氏名、連絡先(電話番号)を記載し、実印を押印します。 連絡先は、メールアドレスを併記してもいいそうです。申請後に法務局から連絡があるかもしれませんので、きちんと連絡が取れる連絡先を記載しましょう。 もし、申請後に氏名や住所、連絡先が変わった場合は、必ず法務局に連絡します。 共有している場合は、共有者全員の情報を記載し、全員が実印を押印します。連絡先も、共有者全員が各自の連絡先を記載します。 また、申請書の作成を弁護士や司法書士などに代行してもらった場合には、「承認申請書作成者」の情報を記載します。 代行して申請書を作成した資格者の住所、氏名、連絡先(電話番号)を記載します。メールアドレスを併記しても構いません。 |
収入印紙貼付台紙 | 一筆あたり、14000円です。収入印紙を購入し、貼り付けます。 割印はしません。 |
必須書面
全員が提出しなければならない添付書類が4つあります。
- 土地の位置と範囲を明らかにする図面
- 土地とその隣接地との境界線を明らかにする写真
- 土地の形状を明らかにする写真
- 印鑑証明書
そのうち、図面や写真については、土地の範囲や所在・地番などを書き込む必要があります。
以下で説明しますが、イメージは法務省のサイトの記載例をご確認ください。
(1)土地の位置と範囲を明らかにする図面
手放したい土地の位置と範囲が分かるような図面のことです。
相談のときに準備した「法務局で取得した地図又は公図」があるなら、それで問題ありません。
地図証明書や国土地理院地図の入手方法などは、相談時に準備する資料の「法務局で取得した地図又は公図」で説明していますので、そちらをご確認ください。
地図証明書や国土地理院地図の縮尺は、2500分の1以上が望ましいそうです。
申請する土地だけでなく、その土地の場所がわかる程度に周辺の土地も入るように調整します。
その図面に、申請者が認識している土地の所有権の範囲をマーキングします。
赤など目立つ色がいいでしょう。
次に、「隣接する土地との境界点を明らかにする写真」を撮影した場所に番号をつけ、撮影した方向を矢印で記入します。番号は、写真の番号と一致させます。
最後に、図面の右上に、土地の所在と地番を記載します。
(2)隣接する土地との境界点を明らかにする写真
隣接する土地との境界点が分かる写真を貼り付けます。
境界点は、コンクリート杭や石杭など、隣地所有者との合意で設置された境界標がある部分です。
もし境界標がない場合には、自分が隣地との境界点だと思う場所に、プラスチック杭などの仮杭を打ち込みます。プラスチック杭は、ホームセンターなどで購入できるそうです。
森林の場合には、仮杭のほか、ポールやプレート、テープなどで境界点を示して構いません。
ただし、仮杭等は、申請時から国庫帰属時までずっと残っている必要があります。そのため、雨や風で簡単に無くなってしまわないよう、しっかり設置してください。
境界点ごとに写真を撮ったら、境界点がある部分を矢印で示します。
その後、自分が境界と認識している境界線を、境界点を起点としてマーカーで示します。
「土地の位置と範囲を明らかにする図面」につけた番号通りに、順番に写真を並べます。また、対応する番号をその写真の左上に書きます。
最後に、右上に土地の所在と地番を記載します。
(3)土地の形状を明らかにする写真
土地の上に建物が存在しないことや土地の利用状況を確認するための資料として、手放したい土地の最新の状態を撮影した写真を添付します。
土地の全体が分かる遠景の写真と、土地の上の有体物の有無が確認できる近景の写真の2枚は最低でも準備します。
法務局が土地の利用状況などを確認できるように、必要十分な写真を添付しましょう。
国土地理院地図の航空写真を添付してもいいそうです。
特に、森林の場合は遠景も近景も撮ることが難しいので、国土地理院地図を活用してください。
写真に、自分が認識している土地の範囲をマーカーで示します。そして、添付した写真の左上に、その写真の撮影時期を記載します。
最後に、右上に土地の所在と地番を記載します。
(4)申請者の印鑑証明書
印鑑証明書とは、役所に登録された印鑑を証明する文書のことです。
役所に登録された印鑑を実印と呼びます。
なので、実印を持っていないと(印鑑を登録していないと)印鑑証明書は存在しません。
印鑑証明書は必須書類ですので、この機会に印鑑登録をしましょう。
印鑑登録は、住民票がある自治体で行います。
自治体によって申請方法が異なりますので、自分の自治体のサイトなどで確認してください。
また、登録できる印鑑には制限がありますので、注意してください。
印鑑証明書の取得方法も、自治体によって異なります。
マイナンバーカードがあれば、コンビニエンスストアで即時発行できる自治体が増えています。
ただ、取扱時間に制限がある自治体が多いので、自治体のサイトなどで確認してください。
共有の場合は、共有者全員の印鑑証明書が必要です。
会社法人などで番号を申請書に記載した場合には、法人については印鑑証明書を省略することができます。
遺贈によって土地を取得した相続人が申請する場合の提出書類
遺贈によって土地を取得した相続人の場合には、「相続人が遺贈を受けたことを証明する書面」を追加で提出します。
どのような書類を揃えればいいかというと、例えば、
- 遺言書
- 亡くなった方の出生から死亡までの戸籍全部事項証明書、除籍謄本又は改製原戸籍謄本
- 亡くなった方の除かれた住民票又は戸籍の附票
- 自分の戸籍一部事項証明書
- 自分の住民票又は戸籍の附票
- 自分を含めて相続人全員の印鑑証明書
のすべてを準備することが考えられます。
わからないことや不安なことがあれば、法務局に相談してみるといいでしょう。
戸籍の集め方については、コラム「相続手続きで必要な戸籍を集める方法」をご覧ください。
また、亡くなった方の出生から死亡までの戸籍のさかのぼり方と戸籍の読み方は、コラム「相続手続きのために死亡から出生まで戸籍をさかのぼる方法」をご覧ください。
申請者と土地の所有権登記名義人が異なる場合の提出書類
土地の登記名義人が申請者本人でない場合には、自分がその土地の所有者であることを証明する必要があります。
そのため、土地の所有権登記名義人(あるいは表題部所有者)から相続又は一般承継があったことを証明する書面が必要です。
どのような書類を揃えればいいかというと、
- 亡くなった方の出生から死亡までの戸籍全部事項証明書、除籍謄本又は改製原戸籍謄本
- 亡くなった方の除かれた住民票又は戸籍の附票
- 相続人の戸籍一部事項証明書
- 相続人の住民票又は戸籍の附票
- 遺産分割協議書
などが考えられます。
戸籍の集め方については、コラム「相続手続きで必要な戸籍を集める方法」をご覧ください。
また、亡くなった方の出生から死亡までの戸籍のさかのぼり方と戸籍の読み方は、コラム「相続手続きのために死亡から出生まで戸籍をさかのぼる方法」をご覧ください。
こちらも、わからないことや不安なことがあれば、法務局に相談してみてください。
任意書面
添付書類のなかには、添付しなくても申請できるけれど、適正・円滑な審査のために、できる限り提出した方がいい書面(任意書面)があります。
申請書には、任意書面として
- 固定資産評価証明書
- 承認申請土地の境界等に関する資料
- その他
のチェック項目があります。
申請書の「7 その他(1)」の固定資産税評価証明書の取得の承諾に関するチェック欄にチェックをいれていない場合には、固定資産税評価証明書は必ず添付します。
「承認申請土地の境界等に関する資料」としては、
- 図面証明書(法務局で取得した地積測量図)
- 現況測量図
- 確定測量図
などが考えられます。
いずれも、相談時に準備する資料として、「法務局で取得した地積測量図」「その土地の測量図面」で説明していますので、そちらをご覧ください。
「その他」としては、
- その土地にたどり着くことが難しいならば、現地案内図
- 法務局に相談した際に、「添付した方が良い」とアドバイスされた書類
などが考えられます。
合算負担金申出書
隣接する二筆以上の土地が同じ土地区分の場合には、負担金を合算してもらうことができます。
合算した方が、別々に計算するよりもお得です。
土地区分とは、登記簿の「地目」に書かれています。
宅地の場合は、市街化区域内か市街化区域外かも同じでなければいけません。
申請者が違う人であっても構いません。土地の所有者も違っていて構いません。土地区分が同一であって隣り合っている土地であれば、合算負担金を申し出ることができます。
詳しくは、当事務所のコラム「相続・遺贈で取得した土地を手放せる?!相続土地国庫帰属制度について」で説明していますので、そちらをご覧ください。
合算の申し出は、承認がされるまでにしなければいけません。
できるだけ申請時にした方がいいので、申請前に、合算負担金を申し出ることができないか確認するのがおすすめです。
合算負担金の内容やその申出書は、法務省のサイトに掲載されています。
申出書の書式は、申請者が同じ人の場合と違う人の場合で異なりますので、注意してください(同一の申請者の場合、異なる申請者の場合)。
記載例も掲載されていますので、そちらを見ながら記載してください。
合算負担金の申出書の記載や提出で注意が必要なことは、次のとおりです。
- 合算負担金を申し出ることができるのは、承認されるまで
- 申出書は、申請者が同じか違うかで書式が異なる
- 申請者が違う場合は、納入告知書を受領する代表者を決める
- 同一の申請者の場合は、申出書は、申請書を提出した法務局に提出する
- 異なる申請者の場合で申請書を提出した法務局が異なる場合は、提出した法務局を申出書に記載する
申請書を作成するときの注意点とポイント
では、最後に申請書や添付書面を準備する際の注意点・ポイントです。
- 申請前に、法務局で無料相談ができる
- 手放したい土地の所有状況や申請者の状況などで、提出書類が異なる
- 申請書の提出先は、手放したい土地を管轄する法務局の本局(支局や出張所はNG)
- 申請書の提出後に問い合わせがくる可能性があるので、必ず連絡がとれるように
- 申請後に氏名や住所、連絡先が変更になった場合には、必ず法務局に連絡する
- 文字の訂正、付け加え、削除をしたいときには、修正テープなどを使用しない
- 申請書の作成は弁護士などに依頼できるが、申請書の提出は本人又は法定代理人のみ
申請書類の提出
申請書類は、法務局の本局に提出します。
支局や出張所には出せません。
申請書類の提出は、窓口で提出する方法と、郵送で提出する方法の2つの方法があります。
申請書類の提出について、法務省が簡単に説明していますので、よろしければそちらもご確認ください。
また、法務省が公開している「相続土地国庫帰属制度に関するQ&A」の「受付関連」も参考になります。
窓口で提出する方法
窓口で提出する場合は、混雑や担当者の不在を避けるために、あらかじめ法務局に電話で連絡をしておいた方がいいそうです。
法務局の連絡先は、法務局のサイトに掲載されていますので、そちらをご確認ください。
申請書類は、申請者本人または申請者の法定代理人が提出します。
申請者本人が行くことが難しければ、ご家族が行くこともできます(「使者」として行くことになります)。
申請者本人または申請者の法定代理人以外の人が提出に行ったときは、申請書に不備があったときに訂正することなどができませんので、注意してください。
郵送で提出する方法
郵送で送る場合は、書留郵便かレターパックプラス(赤い色)を利用します。
封筒やレターパックプラスの表に「国庫帰属 申請書 在中」と記載します。
宛先は、引き渡したい土地の所在する法務局の本局です。
法務省が法務局の一覧を公開していますので、そちらをご覧ください。
負担金の納付
申請書類を提出後、書面調査、実地調査を経て、要件を満たせば、承認通知と同時に負担金の通知がきます。
承認通知がきてもまだ手続きは終わりません。負担金の納付をしなければ、手続きは終了しません。
負担金は、負担金の通知を受けてから30日以内に支払わなければなりません。
もし30日以内に支払わないと、承認は失効してしまいます。
失効すると、もう一度最初から手続きをやり直さなければいけません。必ず期限内に支払いましょう。
負担金の支払いは、納入告知書を添えて日本銀行の代理店、歳入代理店へ納付します。
代理店や歳入代理店には、都市銀行やゆうちょ銀行、信用金庫、信用組合、農協・漁協などがあります。
代理店等を検索したい場合には、日本銀行が代理店等の一覧をExcel形式で公開していますので、そちらをご利用ください。
負担金の納付を終えたら、手続き終了です。
おわりに
相続土地国庫帰属制度は、始まったばかりの制度ですし、提出書類もたくさんあります。
わからないことがあるときやお困りのときは、法務局の相談窓口や弁護士にご相談ください。