【文例付き】遺産分割協議書の作成ポイント
監修:牧野法律事務所(千葉県弁護士会)
代表 牧野 房江弁護士
目次
はじめに
相続人が複数人いて、亡くなった方が遺言書を遺していない場合、または遺言で取得する人が指定されていない遺産がある場合、相続人全員は遺産の分割方法を話し合い、合意した内容を遺産分割協議書にまとめます。
遺産分割協議書は、協議の内容を証明するので、後々のトラブルを防いでくれます。
また、金融機関での相続手続きや不動産の相続登記などに必要です。
遺産分割協議書に決まった書式はありませんが、書き方に問題があると手続きができないこともあるので、注意が必要です。
今回は、遺産分割協議書を作成する際のポイントをみていきましょう。
文例もあわせてご紹介します。
作成ポイントと文例
亡くなった方の表示
亡くなった方(被相続人)の氏名・本籍・死亡年月日・(最後の住所(・登記簿上の住所)・生年月日)を書きます。
氏名・本籍・生年月日・死亡年月日は、戸籍に記載されているとおりに書きます。
最後の住所は、住民票か戸籍の附票を確認します。
登記簿上の住所と最後の住所が違う場合は、登記簿上の住所も書いておきます。
最後の住所 千葉県船橋市前原西2丁目13番13号
被相続人 甲野松子
生年月日 昭和10年3月3日
死亡日 平成30年1月31日
上記被相続人の死亡により開始した相続について、相続人全員は被相続人の遺産を次のとおり分割することに合意する。
相続人の署名・捺印
協議書の最後に各相続人の氏名・住所を記載し、実印を捺します。
氏名・住所は住民票や印鑑証明書に記載されているとおりに書きます。
氏名は手書きの方が後々のトラブルを防げます。
印鑑証明書の添付
各相続人の印鑑登録証明書を添付します。
相続手続きの際に各相続人の印鑑登録証明書が必要になりますので、協議書に添付します。
不動産登記手続きでは有効期限はありませんが、金融機関では発行後一定期間内の印鑑登録証明書を求められることがあります。
遺産目録
遺産を目録にして別紙としてつけます。
遺産の表示に間違いがないようにしましょう。
【不動産】
不動産は登記事項証明書の「表題部」をよく見て、そのとおりに書きます。
1 土地
所 在 船橋市前原西2丁目
地 番 〇〇番〇
地 目 宅地
地 積 〇〇〇.〇〇㎡
2 建物
所 在 船橋市前原西2丁目
家屋番号 〇〇番〇
種 類 居宅
構 造 木造スレート葺2階建
床 面 積 1階 〇〇.〇〇㎡
2階 〇〇.〇〇㎡
3 建物
(一棟の建物の表示)
所 在 船橋市前原西2丁目
建物の名称 〇〇マンション
(専有部分の建物の表示)
家屋番号 〇〇番〇
建物の名称 〇〇〇
種 類 居宅
構 造 鉄筋コンクリート造〇階建
床 面 積 〇階部分 〇〇.〇〇㎡
(敷地権の目的たる土地の表示)
土地の符号 1
所在及び地番 船橋市前原西2丁目〇〇番〇
地 目 宅地
地 積 〇〇〇〇.〇〇㎡
(敷地権の表示)
敷地権の種類 所有権
敷地権の割合 〇〇〇〇〇分の〇〇〇
【預貯金】
預貯金は銀行名・支店名・預金の種類・口座番号を書きます。
相続開始日(亡くなった日)の残高を書く場合もあります。
1 預貯金
(1)〇〇銀行 〇〇支店 普通預金 口座番号〇〇〇〇
〇万円(相続開始日の残高)
(2)ゆうちょ銀行 通常貯金 記号番号〇〇〇〇-〇〇〇〇〇〇〇〇
〇万円(相続開始日の残高)
【有価証券・自動車】
有価証券は銘柄、数量など、自動車は自動車登録番号、車台番号など、遺産を特定できるようにしましょう。
1 株式
株式会社〇〇 普通株式 〇株
2 国債
第〇〇回 個人向け利付国庫債券 固定5年 額面〇〇万円
3 投資信託
〇〇証券 〇〇MRF 〇口
4 自動車
登録番号 習志野〇〇あ〇〇-〇〇
車 名 〇〇〇
車台番号 第〇〇〇〇号
型 式 〇〇〇
遺産の分け方を明記
遺産の分け方には、現物分割・代償分割・換価分割があります。
【現物分割】
現物をそのまま分ける方法です。
誰がどの遺産を取得するか明記します。
(1)〇〇銀行 〇〇支店 普通預金 口座番号〇〇〇〇
〇万円(相続開始日の残高)
(2)ゆうちょ銀行 通常貯金 記号番号〇〇〇〇-〇〇〇〇〇〇〇〇
〇万円(相続開始日の残高)
【代償分割】
現物を誰かが取得して、取得した人が他の相続人に相続分に応じたお金などを支払う方法です。
誰がどの遺産を取得し、誰にいくら支払うのか明記します。
2 相続人甲山一郎は、相続人乙川竹子及び同丙野梅子に対し、前項の遺産を取得する代償として、各金〇〇万円を平成〇年〇月〇日限り、各人の指定する銀行口座に送金費用を差し引いて支払う。
【換価分割】
遺産を売ってお金に換え、そのお金を相続人間で分ける方法です。
2 相続人乙川竹子、同丙野梅子及び同甲山一郎は、共同して、別紙遺産目録記載の遺産について、遺産分割協議終了後遅滞なく換金し、取得できた金額を前項の割合に従って取得する。
今後新たな遺産が発見された場合について
遺産分割協議後に新たな遺産が発見された場合にどのようにするのかについて書きます。
必ず入れなければいけない条項ではありませんが、もし、後日、新たな遺産が発見されたときに備えて、あらかじめ決めておくことがあります。
その他
協議内容を記載した後ろ、相続人の署名の前に、作成年月日を書きます。
協議書は各相続人分作成しましょう。
平成〇年〇月〇日
協議書が複数枚にわたったときは、各ページに契印または袋とじして契印します。
契印は、ページを差替えて偽造することを防ぎます。
ページ数が多いときは、袋とじして契印した方が捺印する回数が減ります。
おわりに
ポイントをすべてまとめると、次のような文例になります。
本籍 千葉県船橋市前原西2丁目13番地
最後の住所 千葉県船橋市前原西2丁目13番13号
被相続人 甲野松子
生年月日 昭和10年3月3日
死亡日 平成30年1月31日
上記被相続人の死亡により開始した相続について、相続人全員は被相続人の遺産を次のとおり分割することに合意する。
1 相続人全員は、被相続人の遺産分割対象財産が別紙遺産目録のとおりであることを確認する。
2 相続人乙川竹子は、別紙遺産目録記載1の預貯金を取得する。
3 相続人丙野梅子は、何らの遺産を取得しない。
4 相続人甲山一郎は、別紙遺産目録記載2の不動産を取得する。
5 本協議書に記載のない遺産及び後日発見された遺産は、法定相続割合に応じ各相続人が取得する。
以上のとおり相続人全員による遺産分割の協議が成立したので、これを証するため本書3通を作成し、次に署名押印する。
平成〇年〇月〇日
住 所 船橋市〇〇〇〇
氏 名 乙川 竹子 実印
住 所 市川市〇〇〇〇
氏 名 丙野 梅子 実印
住 所 船橋市〇〇〇〇
氏 名 甲野 一郎 実印
遺産目録
1 預貯金
(1)〇〇銀行 〇〇支店 普通預金 口座番号〇〇〇〇
〇万円(相続開始日の残高)
(2)ゆうちょ銀行 通常貯金 記号番号〇〇〇〇-〇〇〇〇〇〇〇〇
〇万円(相続開始日の残高)
2 不動産
(1)土地
所 在 船橋市前原西2丁目
地 番 〇〇番〇
地 目 宅地
地 積 〇〇〇.〇〇㎡
(2)建物
所 在 船橋市前原西2丁目
家屋番号 〇〇番〇
種 類 居宅
構 造 木造スレート葺2階建
床 面 積 1階 〇〇.〇〇㎡
2階 〇〇.〇〇㎡
以上
今回ご紹介したポイントは基本的なことばかりですが、実際の遺産分割の内容は亡くなった方に応じて様々です。
相続や遺産分割についてわからないことや心配なことがありましたら、弁護士に相談されることをおすすめいたします。