不貞の慰謝料の相場・算定要素
監修:牧野法律事務所(千葉県弁護士会)
代表 牧野 房江弁護士
「不貞の慰謝料とは?」では、不貞の慰謝料についてご説明しました。
配偶者(夫または妻)の不貞行為が不法行為にあたるとして、配偶者(夫または妻)・不貞相手に対して慰謝料請求をした場合にどの程度の金額をとることができるのか?ということが実際上気になるところではないでしょうか。
そこで今回は、不貞慰謝料額の相場・裁判官が判断するにあたって考慮しているとされる要素についてお話いたします。
1 不貞慰謝料の相場
仮に不貞行為による慰謝料請求が認められるとして、その額がいくらになるのでしょうか。
裁判において不貞慰謝料について争われた事件では、1000万円から1億円に至るまで極めて多額の慰謝料が請求されることも多いようです。
しかし、不貞慰謝料の額として認められるのは100万円から300万円が多いとされており、請求額との差は大きく、かつ、認容額にはかなりのバラつきがあるといえます。
では、なぜこのようなバラつきが生じるのでしょうか。
「例えばこんな離婚相談 ~その3~」でもご説明したとおり、不貞相手のみに慰謝料請求をするか、不貞相手とともに配偶者(夫または妻)に対しても請求をするか、によってもその額に違いが生じます。
その他の原因について、実際に裁判で争われたケースを参考に見ていきましょう。
2 不貞慰謝料算定の考慮要素
以下では、裁判官が不貞慰謝料額を定めるにあたって考慮しているとされている具体的事情ごとに事例を見ていきます。
なお、裁判官は下記に挙げる事情のひとつだけを取り上げて慰謝料額を決定しているわけではなく、様々な具体的事情を複合的に考慮してその額を決定していますので、ご注意ください。
以下の事例では、夫が不貞を行い、妻が不貞相手に対して不貞慰謝料を請求したことを前提とします。
- 不貞期間が考慮された事例
- 夫婦の結婚期間は約36年
- 夫と不貞相手の不貞期間は約14年
- その間に不貞相手は夫の子を出産し、夫はその子を認知
- 夫と妻は離婚していない。
- 夫婦の結婚期間は約34年
- 夫と不貞相手の不貞期間は2年数ヶ月
- 妻は経済的理由から別居・離婚をしていない。
- 不貞行為発覚後の態度が考慮されたケース
- 不貞行為に対する当事者の姿勢が考慮されたケース
- 夫婦の結婚期間が約13年
- 不貞期間が2ヶ月
- 夫・不貞相手間の不貞関係について不貞相手が終始夫に従属的であった。
- 夫婦の結婚期間が約11年
- 不貞期間が2ヶ月
- 事例Eとは逆に不貞相手が積極的であった。
【事例A】
【事例B】
事例A・Bではともに慰謝料額として2000万円が請求され、認容額は事例Aでは500万円、事例Bでは250万円となりました。
婚姻期間がほぼ同様の両事例において、認容額に大きな開きが出たのは、裁判官が不貞期間の長さと、不貞相手が夫の子を出産し、夫がその子を認知したことを慰謝料の増額事由として考慮していることがその一因となっているようです。
また、これに関連して、婚姻期間の長短も考慮されており、婚姻期間が短い場合には、慰謝料の減額要素として考慮されています。
【事例C】
妻が夫・不貞相手間の不貞関係を知った後、何度も別れるように申し入れているにも関わらず、不貞相手は不貞関係を継続している。
【事例D】
妻が夫・不貞相手間の不貞関係を知った後、不貞相手が不貞関係を絶とうとしている。
事例C・Dではともに慰謝料額として1000万円が請求され、認容額は、事例Cでは300万円、事例Dでは120万円となりました。
これらの事例からすると、不貞関係の発覚後、不貞をした者に不誠実な態度が認められる場合には、慰謝料の増額要素として考慮されているといえます。
【事例E】
【事例F】
婚姻期間・不貞期間ともに類似した上記の両事例において、事例Eでは、慰謝料として70万円が認容され、他方、事例Fでは300万円が認容されました。
これらの事例からすると、不貞行為に対する当事者の姿勢が慰謝料額に大きく影響しうるといえます。
3 まとめ
裁判において不貞慰謝料額を定めるにあたっては、上記に挙げた考慮要素のほか、婚姻関係破綻の有無・婚姻生活の状況・未成年の子の有無・訴訟態度など様々な要素が総合的に考慮されています。
そのため、不貞慰謝料を請求する側・請求された側のいずれも、慰謝料額の増減を図るため、自らに有利な証拠を収集・提出する必要があるといえます。
また、今回は不貞慰謝料請求が認められることを前提としてお話しましたが、裁判においてこれが認められるためには、「不貞の慰謝料とは?」でご説明したように、不貞行為について裁判官に証拠によって認めてもらわねばならず、そのためには専門的な知識が必要となります。
不貞慰謝料の請求をお考えの方は一度弁護士にご相談されることをお勧めします。